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21 新しい国教

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「へぇ」
「サクさんには関係ないと思いますが、グロウル公はフローリア様の行方を今も探しておられます。もし、それっぽい女性を見かけたらお知らせくださいね。男装している可能性もあるそうです。実は結構やんちゃな方だったみたいですね」
「へー」

 すっとぼけるので精いっぱいだ。フローリアはガタイのいい男になってここにいるなんて、言っても誰も信じないだろう。手配書の絵姿にはきつめの顔の美女が描かれていた。出会った時のフローリア……ラウルの声は低めだったが外見は女性にしか見えなかったし。
 ラウルの親父さんはラウルのことを気にかけているのだろうか。家に戻して大事にするなら、こんな山でみすぼらしい格好で俺に頼る生活をしなくてもよくなるんじゃないか?
 ふっと、ラウルがいなくなったら寂しくなるなんて思ったけれど、俺がどうこう言えることじゃない。ラウルが決めることだ。悪い話でもなさそうだから、あとでゆっくり話そう。

 話は終わったのだから二人は帰るのかと思ったが、ウードが布包みを持ってへらへらと笑いかけてきた。あれは着替えだ。

「ところで、サク、せっかくここまで来たんだから、風呂入らせてくれよ」
「風呂ですか」

 ウードの言葉に、シテムさんがあたりをきょろきょろと見回した。ここは絶妙に風呂の建物が見えない位置だ。ウードが結婚する前はちょこちょこ風呂に入りに来ていたから、俺の返事を待たずに風呂の方へ向かおうとする。

「シテムさんも入りましょうよ。サクのとこの風呂は最高です」
「あ、おい」

 ラウルに何も言っていないから驚かせてしまう。風呂の入れ方も知っているウードは躊躇わない。どうやって引き留めようかと考える間もなく、すぐに風呂には着いてしまった。
 そこには頭に布を巻いたラウルがいた。キラキラの金髪が見えないだけで、けっこう地味に見える。顔もちょっと炭で汚したのか浅黒い。雰囲気が違っても格好いいな、おい。

「風呂、できてるよ」
「うわっ! え、どちらさん?」

 唐突な美丈夫の登場に、ウードが慌てている。俺しかいないと思っていたら驚くよな。

「ラウルだ。えーっとその」
「サクのパートナーです」

 ラウルがいい笑顔で、ウードに笑いかけた。
 なんだよ、そのとっておきの笑顔。俺そんな風に笑いかけられたことがない気がするんだが。

「えっ!? おまえ、いつまでも結婚しないと思ったらそっちだったのか!?」
「そっち?」

 ラウルの笑顔に気を取られていたから、ウードの言っている意味が分からなかった。
 ラウルと二人できこりの仕事をしているんだから、相棒? パートナーでいいのか?

「ご安心ください、サクさん。ナナガ神は同性婚を認めています。イサ神は認めていませんでしたが、国教が変わったので、神殿で証明書も発行することができますよ」
「え? 結婚?」

 自慢じゃないが、俺は今の状況が正確に理解できるほど頭の回転が良くない。

「そっかー、お前が唐突に引きこもったのは、こんな出会いがあったからなんだな! お前が男のほうが好きだなんて知らなかったけど、こんな面食いだったんなら町の男どもじゃ全然興味なくても仕方ないな」

 ウードが俺の肩をバンバン叩いて笑っている。
 どういうことだ? 
 俺と、ラウルが、結婚!?
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