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ウードは俺よりも七つ年上で、子供も三人いた。二年の間に増えているかもしれない。ひょろりと背が高くて、ギョロ目で肌は浅黒い。人好きのする笑い皺がすでに刻まれている。
「ウードは、少し痩せたな」
「ああ、お前は町に下りてきていなかったから知らないだろうけど、大変だったんだ」
ラウルの言っていたように、戦争が起きてしまったんだろうか。自分ひとり安全なところでのんびりしていたのが、少し後ろめたい。
詳しく聞くのが怖くて、神官に話を逸らすことにした。神官も背が高くて痩せているから、ウードと服を取り替えたら遠目では分からなくなりそうだ。神官の目は糸のように細い。それで見えるのだろうか。
「そうなのか。えーっと、そっちは?」
ウードに尋ねると、ヘラヘラと笑いながら紹介をしてくれた。笑っていても、ウードのほうがシテムより目が大きい。
「悪い悪い。すいませんね、シテムさん。サク、この方は神殿の調達担当の方だそうだ。新しい彫刻をつくるためのいい木材が欲しいらしい」
「はじめまして、シテムと申します。ヌンの山のきこり、サク様ですね」
わざわざ山の名など呼ばないから忘れていたが、ここはヌンの山という。
俺の親のもっと前の代から住んでいるから、他所に行くときはヌンのサクと名乗ることになる。いつもの町までしか行ったことがないから、すっかり頭から抜け落ちていた。ラウルに教えておかなければ。
「そうだ。神殿向けの木ならちゃんと手入れしている。いくつか心当たりがあるが、どんな彫刻をするんだ?」
「新たな神を祀ります」
神様ってそんなに簡単に乗り換えられるものだっけ。てっきりどこか痛んだ彫刻入りの柱を入れ替えるのかと思った。
俺たち庶民は、十歳までに三年ほど神殿に通って字の読み書きと簡単な計算を習う。あの頃は神殿の礼拝堂に立派な木彫りの神像があって、子供心にあれが偉い神様なんだと納得したものだが。
「ええ? 今までのイサ神はどうなるんだ?」
「そのまま祀りますが、もう一神祀ると言うことです。国教が変わりましたので……」
シテムという神官は、目が細すぎて表情が読めない。困っているのか笑っているのか……。
「国教? どういうことだ?」
俺の問いにはウードが答えた。話に混ざりたくてうずうずしていたようだ。
「ロウヤー王家がなくなったんだよ。辺境のグロウル家が王家になった。あの悪役令嬢の家だよ!」
「ウードさん、フローリア様は悪役令嬢の汚名を着せられていただけですよ」
「そうだった。サクも手配書持ってただろ? あれ燃やしておけよ。持っていると怒られるから」
ここに来るまでに、ウードとシテムはずいぶん打ち解けたようだ。ぽんぽんと掛け合う会話は、会話のうまくない俺には入りにくい。ラウルと話していて会話に困るようなことはなかったから、ラウルが俺の話しやすいようにしてくれていたのかもしれない。ラウルは頭がいいから。
そうだ、悪役令嬢はラウルのことだ。
「ウードは、少し痩せたな」
「ああ、お前は町に下りてきていなかったから知らないだろうけど、大変だったんだ」
ラウルの言っていたように、戦争が起きてしまったんだろうか。自分ひとり安全なところでのんびりしていたのが、少し後ろめたい。
詳しく聞くのが怖くて、神官に話を逸らすことにした。神官も背が高くて痩せているから、ウードと服を取り替えたら遠目では分からなくなりそうだ。神官の目は糸のように細い。それで見えるのだろうか。
「そうなのか。えーっと、そっちは?」
ウードに尋ねると、ヘラヘラと笑いながら紹介をしてくれた。笑っていても、ウードのほうがシテムより目が大きい。
「悪い悪い。すいませんね、シテムさん。サク、この方は神殿の調達担当の方だそうだ。新しい彫刻をつくるためのいい木材が欲しいらしい」
「はじめまして、シテムと申します。ヌンの山のきこり、サク様ですね」
わざわざ山の名など呼ばないから忘れていたが、ここはヌンの山という。
俺の親のもっと前の代から住んでいるから、他所に行くときはヌンのサクと名乗ることになる。いつもの町までしか行ったことがないから、すっかり頭から抜け落ちていた。ラウルに教えておかなければ。
「そうだ。神殿向けの木ならちゃんと手入れしている。いくつか心当たりがあるが、どんな彫刻をするんだ?」
「新たな神を祀ります」
神様ってそんなに簡単に乗り換えられるものだっけ。てっきりどこか痛んだ彫刻入りの柱を入れ替えるのかと思った。
俺たち庶民は、十歳までに三年ほど神殿に通って字の読み書きと簡単な計算を習う。あの頃は神殿の礼拝堂に立派な木彫りの神像があって、子供心にあれが偉い神様なんだと納得したものだが。
「ええ? 今までのイサ神はどうなるんだ?」
「そのまま祀りますが、もう一神祀ると言うことです。国教が変わりましたので……」
シテムという神官は、目が細すぎて表情が読めない。困っているのか笑っているのか……。
「国教? どういうことだ?」
俺の問いにはウードが答えた。話に混ざりたくてうずうずしていたようだ。
「ロウヤー王家がなくなったんだよ。辺境のグロウル家が王家になった。あの悪役令嬢の家だよ!」
「ウードさん、フローリア様は悪役令嬢の汚名を着せられていただけですよ」
「そうだった。サクも手配書持ってただろ? あれ燃やしておけよ。持っていると怒られるから」
ここに来るまでに、ウードとシテムはずいぶん打ち解けたようだ。ぽんぽんと掛け合う会話は、会話のうまくない俺には入りにくい。ラウルと話していて会話に困るようなことはなかったから、ラウルが俺の話しやすいようにしてくれていたのかもしれない。ラウルは頭がいいから。
そうだ、悪役令嬢はラウルのことだ。
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