19 / 37
19 報せ
しおりを挟む
ウードは俺よりも七つ年上で、子供も三人いた。二年の間に増えているかもしれない。ひょろりと背が高くて、ギョロ目で肌は浅黒い。人好きのする笑い皺がすでに刻まれている。
「ウードは、少し痩せたな」
「ああ、お前は町に下りてきていなかったから知らないだろうけど、大変だったんだ」
ラウルの言っていたように、戦争が起きてしまったんだろうか。自分ひとり安全なところでのんびりしていたのが、少し後ろめたい。
詳しく聞くのが怖くて、神官に話を逸らすことにした。神官も背が高くて痩せているから、ウードと服を取り替えたら遠目では分からなくなりそうだ。神官の目は糸のように細い。それで見えるのだろうか。
「そうなのか。えーっと、そっちは?」
ウードに尋ねると、ヘラヘラと笑いながら紹介をしてくれた。笑っていても、ウードのほうがシテムより目が大きい。
「悪い悪い。すいませんね、シテムさん。サク、この方は神殿の調達担当の方だそうだ。新しい彫刻をつくるためのいい木材が欲しいらしい」
「はじめまして、シテムと申します。ヌンの山のきこり、サク様ですね」
わざわざ山の名など呼ばないから忘れていたが、ここはヌンの山という。
俺の親のもっと前の代から住んでいるから、他所に行くときはヌンのサクと名乗ることになる。いつもの町までしか行ったことがないから、すっかり頭から抜け落ちていた。ラウルに教えておかなければ。
「そうだ。神殿向けの木ならちゃんと手入れしている。いくつか心当たりがあるが、どんな彫刻をするんだ?」
「新たな神を祀ります」
神様ってそんなに簡単に乗り換えられるものだっけ。てっきりどこか痛んだ彫刻入りの柱を入れ替えるのかと思った。
俺たち庶民は、十歳までに三年ほど神殿に通って字の読み書きと簡単な計算を習う。あの頃は神殿の礼拝堂に立派な木彫りの神像があって、子供心にあれが偉い神様なんだと納得したものだが。
「ええ? 今までのイサ神はどうなるんだ?」
「そのまま祀りますが、もう一神祀ると言うことです。国教が変わりましたので……」
シテムという神官は、目が細すぎて表情が読めない。困っているのか笑っているのか……。
「国教? どういうことだ?」
俺の問いにはウードが答えた。話に混ざりたくてうずうずしていたようだ。
「ロウヤー王家がなくなったんだよ。辺境のグロウル家が王家になった。あの悪役令嬢の家だよ!」
「ウードさん、フローリア様は悪役令嬢の汚名を着せられていただけですよ」
「そうだった。サクも手配書持ってただろ? あれ燃やしておけよ。持っていると怒られるから」
ここに来るまでに、ウードとシテムはずいぶん打ち解けたようだ。ぽんぽんと掛け合う会話は、会話のうまくない俺には入りにくい。ラウルと話していて会話に困るようなことはなかったから、ラウルが俺の話しやすいようにしてくれていたのかもしれない。ラウルは頭がいいから。
そうだ、悪役令嬢はラウルのことだ。
「ウードは、少し痩せたな」
「ああ、お前は町に下りてきていなかったから知らないだろうけど、大変だったんだ」
ラウルの言っていたように、戦争が起きてしまったんだろうか。自分ひとり安全なところでのんびりしていたのが、少し後ろめたい。
詳しく聞くのが怖くて、神官に話を逸らすことにした。神官も背が高くて痩せているから、ウードと服を取り替えたら遠目では分からなくなりそうだ。神官の目は糸のように細い。それで見えるのだろうか。
「そうなのか。えーっと、そっちは?」
ウードに尋ねると、ヘラヘラと笑いながら紹介をしてくれた。笑っていても、ウードのほうがシテムより目が大きい。
「悪い悪い。すいませんね、シテムさん。サク、この方は神殿の調達担当の方だそうだ。新しい彫刻をつくるためのいい木材が欲しいらしい」
「はじめまして、シテムと申します。ヌンの山のきこり、サク様ですね」
わざわざ山の名など呼ばないから忘れていたが、ここはヌンの山という。
俺の親のもっと前の代から住んでいるから、他所に行くときはヌンのサクと名乗ることになる。いつもの町までしか行ったことがないから、すっかり頭から抜け落ちていた。ラウルに教えておかなければ。
「そうだ。神殿向けの木ならちゃんと手入れしている。いくつか心当たりがあるが、どんな彫刻をするんだ?」
「新たな神を祀ります」
神様ってそんなに簡単に乗り換えられるものだっけ。てっきりどこか痛んだ彫刻入りの柱を入れ替えるのかと思った。
俺たち庶民は、十歳までに三年ほど神殿に通って字の読み書きと簡単な計算を習う。あの頃は神殿の礼拝堂に立派な木彫りの神像があって、子供心にあれが偉い神様なんだと納得したものだが。
「ええ? 今までのイサ神はどうなるんだ?」
「そのまま祀りますが、もう一神祀ると言うことです。国教が変わりましたので……」
シテムという神官は、目が細すぎて表情が読めない。困っているのか笑っているのか……。
「国教? どういうことだ?」
俺の問いにはウードが答えた。話に混ざりたくてうずうずしていたようだ。
「ロウヤー王家がなくなったんだよ。辺境のグロウル家が王家になった。あの悪役令嬢の家だよ!」
「ウードさん、フローリア様は悪役令嬢の汚名を着せられていただけですよ」
「そうだった。サクも手配書持ってただろ? あれ燃やしておけよ。持っていると怒られるから」
ここに来るまでに、ウードとシテムはずいぶん打ち解けたようだ。ぽんぽんと掛け合う会話は、会話のうまくない俺には入りにくい。ラウルと話していて会話に困るようなことはなかったから、ラウルが俺の話しやすいようにしてくれていたのかもしれない。ラウルは頭がいいから。
そうだ、悪役令嬢はラウルのことだ。
25
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

悪役のはずだった二人の十年間
海野璃音
BL
第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。
破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。


俺は勇者のお友だち
むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。
2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる