拾った悪役令嬢にはアレがついていました

爺誤

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18 閉じたままではいられない

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「何もないな。ラウル、きゃーじゃなくて、あーぐらいにできないか?」

 落ち着いたようだから、何度も言っていることを繰り返す。ラウルだってわかっているんだろうが、俺が慣れてしまったら注意できる人間がいなくなる。

「ごめんなさい、気をつけているんだけど……」
「とっさに出ちゃうもんは仕方ないか。お前の話し方で誰かに何か言われたら、絶対俺に言えよ?」

 しゃがんだままのラウルの頭を撫でる。ラウルは俺に撫でられるのが好きなようで、いつも撫でられるとふわっと笑う。髪を短くして、長かった頃よりも髪質が硬くなった気がする。
 短くてもおかしな癖もなく、自然な巻きで綺麗にまとまっている。貴族だからなのか、ラウルだからかわからないが、素直に羨ましい。

「サクとしか話したくない」

 俺より大きな身体で駄々をこねるのはいただけない。ラウルは可愛い弟だが、俺にはラウルを自立させる義務がある。俺が拾ったんだから。

「何のために頑張って話し方変えてきたんだよ。きこりの仕事も板についてきたし、いざというときお前を頼れると思うと気が楽だ」
「頼ってくれるの?」
「二人だけの家族なんだから、助け合うもんだろ。頼らせてくれないのか?」
「頼ってほしい!」

 ラウルが食い気味に返事をしたとき、コーンと仕掛けの音が聞こえた。
 ラウルの口を塞いで動きを止め、息を潜めて耳を澄ました。
 カラカラと別の仕掛けが鳴る音と、微かに聞こえる人間の声。誰かが訪ねてきた。町の誰かが、木材が必要になって見に来たのかもしれない。
 仕掛けは獣と人間を区別するためのものだ。道になっていないところはもっと派手な音とともに罠が発動する。父が母を守るために作った仕掛けを、メンテナンスして引き継いで使っている。助けの望めない山奥で暮らすための必要な知恵だ。

「ラウル、誰か来た。とりあえず風呂のほうに隠れてろ。怪しくなかったら合図をするから、普通に風呂の用意をしたらいい」
「う、うん」

 俺のところに来るのは材木屋のウードか、素材屋のギオーグか。どちらも俺以外にも仕入れ先があるはずだから、俺一人が出入りしなくてもそう気にしないはずだが、二年も顔を出さなければ来るかもしれない。町のほうがごたついていたら来れないだろうが、落ち着いたのだろうか。
 そもそもラウルの言う通りの混乱が起きたのだろうか。

 ラウルの姿が完全に見えないのを確認してから、山の麓に向かう一本道に待機する。山の中の細かい道は俺にしかわからない。
 人影は二つあった。ひとりは材木屋のウードだ。もう一人は見覚えがないけれど、神官服を着ている。うちは神殿ゆかりのきこりだから神官が訪ねてきても驚かない。

「ひさしぶりだな、サク。全然変わりなくて安心した」
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