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17 克服できないもの

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 穏やかな山の生活が二年ほど続いた。
 二年の間にラウルはぐんぐんと背が伸びて、俺より頭一つぶん大きくなってしまった。余分に買っておいた大きめの服が活躍している。
 背が伸びる早さに身体がついていかなくて、肉付きは薄い。でも、身長の伸びが止まったら筋肉も厚くつくようになるだろう。
 俺が長年のコツでこなしている仕事を、ラウルはコツを掴めずに力任せでやるから、かなり力持ちだ。もう力比べをしたら負けてしまうだろう。

「きゃー!! サク! サク!」

 言葉遣いに関しては俺に合わせてかなり庶民の俺の普通になってきたが、とっさに出る言葉は令嬢風になる。低い声で繰り出される令嬢言葉にはいつも笑ってしまう。

「どうした、また毛虫か?」

 きこりの仕事は色々出来るようになったラウルだが、芋虫や毛虫だけは冷静でいられないようで、見つけるたびに大騒ぎをする。
 この間はとっさに飛びつかれて、俺の腰が折れるかと思った。俺より図体がでかいくせにセミみたいに飛びついてしがみつくから、殺されるかと思った。

 見に行くと、ラウルの短く切ってある髪がブワッとボリュームを増している。巻き毛だから雨の日なんかはぴょんぴょん跳ねているが、今は毛虫のせいだろう。少し伸びてきているようだから、切った方がいいかもしれない。

 ラウルは亀のように丸まってぶるぶる震えている。俺の姿を見つけて、涙目で見上げてきた。

「サクぅ……」

 肩についている毛虫を棒でポイっと飛ばして、踏んでおく。こいつは肌が痛くなるやつだから始末しておかないといけない。

「ラウル、もう大丈夫だ。ちょっと見せてみろ」
「きゃっ」
「ちょっと黙れ」

 毛虫にやられてないか服を捲って確認したが、白い肌はなんともなっていない。ラウルは赤くなって胸を押さえている。もちろん男だから女性のように膨らんだりはしていない。
 俺より低い声できゃあきゃあ言われるのには慣れたが、ラウルが山を下りたときにもやらかしてしまったら良くない。立派な体躯で顔も良く外見は完璧なのに、中身が女だと思われたら舐められてしまう。
 育ちのせいで何をしても仕草が上品なのも、がさつな男から見たらなよなよして映るかもしれない。 

 他人の評価を気にするたちじゃなかったのに、ラウルに関しては考えすぎるほど考えてしまう。図体が大きくても、俺にとっては幼くて可愛い弟だ。
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