上 下
16 / 37

16 守りたい家族

しおりを挟む
「昔はいくつもきこりの家があった頃があったらしい。俺が嫁を取ったら、ラウルにはとっておきの木を切っていい家を建ててやる。出て行けなんて言わないから安心しろ」
「家からは追い出すんじゃん……」
「この家は古いから、新しいほうがいいだろ?」
「サクのばか」
「えぇ?」

 そりゃ、ラウルに比べたら頭が悪いだろう。今の会話のどこにばかと言われなきゃならない理由があるのかわからない。

「お前の家のための土地なら目星をつけてるし、町のほうのゴタゴタが落ち着いたら大工を雇って建てて貰えばいい。……いつ頃落ち着くかな……」
「とうぶん落ち着かないよ。ロウヤー王家がなくなるまで」
「王家がなくなる?」

 しまったという顔でラウルが黙る。王家がなくなったらどうなるのか。別の人間が王になる?
 ……もしかしてラウルの親父さんか?
 この国がラウルの家に乗っ取られるということだろうか。普通のきこりには現実味のない壮大な話になってきた。

「山に引きこもってるんだ。誰にも言えない。ほら、言えよラウル」

 ラウルは逡巡してから、俺の想像が当たっていたことをぼそぼそと語りだした。

「僕の家は辺境伯なんて言われているけれど、昔は一つの国だったって言ったよね。強い自治権が認められているから、大人しくしていたんだけど……祖父が独立を目指しはじめたの。父も遺志を継いでいて、ロウヤー王家があまりにお粗末なら乗っ取りもいいなんて言っていたから」
「そんなことをお前の前で言っていたのか?」
「……フローリアは捨て駒だから。僕は嫡男だったけれど、父の望むような強い男じゃなかったから、王子の申し出が渡りに船だったみたい。弟は幼い頃から好戦的で、父によく似ていた」

 ラウルを王子の婚約者にして、あとは王子がやっぱり男は嫌だと言えば攻める口実になったということだと、淡々と言われた。傷ついて道端に倒れていた日を思い出す。あれが父親の望んだ姿だったのか。

「ラウルの親父はクソだな」
「領主としては、領民のことをいつも考えているいい人だよ。家族より仕事が大事なだけで」
「俺みたいな庶民にはわかんねえ。ラウルは俺の弟だ。兄の俺が絶対に守ってやる!」

 身長は越されてしまった。顔も頭だってラウルの方がずっといい。それでも、普通の生活をするのに顔が良すぎるのはそんなにいいことじゃない。ラウルを利用したい奴も出てくるだろう。俺以外の人間と接していないラウルは、そういうのを知らない。

「うん。守って、サク。でも僕も男だからサクを守りたい」
「家族は助け合うもんだ」
「だよね!」

 ずっと兄弟が欲しかったから、守るべき弟ができたことが嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

処理中です...