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16 守りたい家族
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「昔はいくつもきこりの家があった頃があったらしい。俺が嫁を取ったら、ラウルにはとっておきの木を切っていい家を建ててやる。出て行けなんて言わないから安心しろ」
「家からは追い出すんじゃん……」
「この家は古いから、新しいほうがいいだろ?」
「サクのばか」
「えぇ?」
そりゃ、ラウルに比べたら頭が悪いだろう。今の会話のどこにばかと言われなきゃならない理由があるのかわからない。
「お前の家のための土地なら目星をつけてるし、町のほうのゴタゴタが落ち着いたら大工を雇って建てて貰えばいい。……いつ頃落ち着くかな……」
「とうぶん落ち着かないよ。ロウヤー王家がなくなるまで」
「王家がなくなる?」
しまったという顔でラウルが黙る。王家がなくなったらどうなるのか。別の人間が王になる?
……もしかしてラウルの親父さんか?
この国がラウルの家に乗っ取られるということだろうか。普通のきこりには現実味のない壮大な話になってきた。
「山に引きこもってるんだ。誰にも言えない。ほら、言えよラウル」
ラウルは逡巡してから、俺の想像が当たっていたことをぼそぼそと語りだした。
「僕の家は辺境伯なんて言われているけれど、昔は一つの国だったって言ったよね。強い自治権が認められているから、大人しくしていたんだけど……祖父が独立を目指しはじめたの。父も遺志を継いでいて、ロウヤー王家があまりにお粗末なら乗っ取りもいいなんて言っていたから」
「そんなことをお前の前で言っていたのか?」
「……フローリアは捨て駒だから。僕は嫡男だったけれど、父の望むような強い男じゃなかったから、王子の申し出が渡りに船だったみたい。弟は幼い頃から好戦的で、父によく似ていた」
ラウルを王子の婚約者にして、あとは王子がやっぱり男は嫌だと言えば攻める口実になったということだと、淡々と言われた。傷ついて道端に倒れていた日を思い出す。あれが父親の望んだ姿だったのか。
「ラウルの親父はクソだな」
「領主としては、領民のことをいつも考えているいい人だよ。家族より仕事が大事なだけで」
「俺みたいな庶民にはわかんねえ。ラウルは俺の弟だ。兄の俺が絶対に守ってやる!」
身長は越されてしまった。顔も頭だってラウルの方がずっといい。それでも、普通の生活をするのに顔が良すぎるのはそんなにいいことじゃない。ラウルを利用したい奴も出てくるだろう。俺以外の人間と接していないラウルは、そういうのを知らない。
「うん。守って、サク。でも僕も男だからサクを守りたい」
「家族は助け合うもんだ」
「だよね!」
ずっと兄弟が欲しかったから、守るべき弟ができたことが嬉しかった。
「家からは追い出すんじゃん……」
「この家は古いから、新しいほうがいいだろ?」
「サクのばか」
「えぇ?」
そりゃ、ラウルに比べたら頭が悪いだろう。今の会話のどこにばかと言われなきゃならない理由があるのかわからない。
「お前の家のための土地なら目星をつけてるし、町のほうのゴタゴタが落ち着いたら大工を雇って建てて貰えばいい。……いつ頃落ち着くかな……」
「とうぶん落ち着かないよ。ロウヤー王家がなくなるまで」
「王家がなくなる?」
しまったという顔でラウルが黙る。王家がなくなったらどうなるのか。別の人間が王になる?
……もしかしてラウルの親父さんか?
この国がラウルの家に乗っ取られるということだろうか。普通のきこりには現実味のない壮大な話になってきた。
「山に引きこもってるんだ。誰にも言えない。ほら、言えよラウル」
ラウルは逡巡してから、俺の想像が当たっていたことをぼそぼそと語りだした。
「僕の家は辺境伯なんて言われているけれど、昔は一つの国だったって言ったよね。強い自治権が認められているから、大人しくしていたんだけど……祖父が独立を目指しはじめたの。父も遺志を継いでいて、ロウヤー王家があまりにお粗末なら乗っ取りもいいなんて言っていたから」
「そんなことをお前の前で言っていたのか?」
「……フローリアは捨て駒だから。僕は嫡男だったけれど、父の望むような強い男じゃなかったから、王子の申し出が渡りに船だったみたい。弟は幼い頃から好戦的で、父によく似ていた」
ラウルを王子の婚約者にして、あとは王子がやっぱり男は嫌だと言えば攻める口実になったということだと、淡々と言われた。傷ついて道端に倒れていた日を思い出す。あれが父親の望んだ姿だったのか。
「ラウルの親父はクソだな」
「領主としては、領民のことをいつも考えているいい人だよ。家族より仕事が大事なだけで」
「俺みたいな庶民にはわかんねえ。ラウルは俺の弟だ。兄の俺が絶対に守ってやる!」
身長は越されてしまった。顔も頭だってラウルの方がずっといい。それでも、普通の生活をするのに顔が良すぎるのはそんなにいいことじゃない。ラウルを利用したい奴も出てくるだろう。俺以外の人間と接していないラウルは、そういうのを知らない。
「うん。守って、サク。でも僕も男だからサクを守りたい」
「家族は助け合うもんだ」
「だよね!」
ずっと兄弟が欲しかったから、守るべき弟ができたことが嬉しかった。
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