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15 代々続くということ

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「フローリアの面影がなくなれば、どこにだって行けるぞ? 髪を染めるって手もある」

 ずっと触れてみたかったラウルの髪に触れた。髪の質も少し変わってかたくなっているようだ。大人の男になろうとしている。

「出て行けなんて言わないから安心しろ。俺も、ラウルがいてくれるなら色々助かるから。でも、お前がやりたいことができたら、遠慮するなよ」

 年上のくせに寂しいからここにいてくれなんて縋るような台詞は吐けないから、言い方を変えた。ラウルの影響で、俺も話し方に気を付けるようになった。

「良かった」

 心底ほっとした笑みをラウルが浮かべる。
 背が大きくなっても、貴族の世界から庶民の世界に落とされて一年だ。人間の赤ん坊でもやっと立ち上がるぐらいの時間だ。一歳のラウル坊や。

「ははっ」
「サク?」

 見下ろされる。でかい幼児だ。

「大きくなったけど、まだまだガキだな」
「……ガキならここにいてもいいなら、ガキでいい」

 出て行ってもいいという言葉に不安があったのか、拗ねたように呟く。こんなに懐かれたら、自分の人生なんて二の次でいい。ああ、でも、忘れてはいけないきこりの仕事がある。

「俺だっていつまでもガキを養えるわけじゃない。ここには親父が育てた木がある。いつか、神殿の建て替えが必要になったときのために育てている木だ。祖父の代からある。俺の代で必要がなければ、次の代がいつでも使えるようにしておく。お貴族様とは違うけど、きこりも大事な仕事だ」

 ラウルの宝石みたいな瞳いっぱいに、俺が映っている。誰かと比べるわけではなく、名もなききこりにも継承していくものがあるのだと教えたかった。

「それ……は……養子じゃだめ? サクは自分の子供に伝えていきたい?」
「養子? うーん……ちゃんと世代を繋いでいけるなら何でもいいと思う。木は百年を超えるのもあるから」

 どこか必死な様子のラウルが、馴染みのない言葉を持ち出してきた。養子なんて子供のいない夫婦や、金持ちの慈善事業でとるものだと思っていた。

「俺が普通に嫁を取って子供が生まれたら、別に養子なんて取らなくてもいいだろ?」

 ラウルがやけに必死なのが不思議だ。俺が嫁を取ったら捨てられると思っているのだろうか。
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