上 下
15 / 37

15 代々続くということ

しおりを挟む
「フローリアの面影がなくなれば、どこにだって行けるぞ? 髪を染めるって手もある」

 ずっと触れてみたかったラウルの髪に触れた。髪の質も少し変わってかたくなっているようだ。大人の男になろうとしている。

「出て行けなんて言わないから安心しろ。俺も、ラウルがいてくれるなら色々助かるから。でも、お前がやりたいことができたら、遠慮するなよ」

 年上のくせに寂しいからここにいてくれなんて縋るような台詞は吐けないから、言い方を変えた。ラウルの影響で、俺も話し方に気を付けるようになった。

「良かった」

 心底ほっとした笑みをラウルが浮かべる。
 背が大きくなっても、貴族の世界から庶民の世界に落とされて一年だ。人間の赤ん坊でもやっと立ち上がるぐらいの時間だ。一歳のラウル坊や。

「ははっ」
「サク?」

 見下ろされる。でかい幼児だ。

「大きくなったけど、まだまだガキだな」
「……ガキならここにいてもいいなら、ガキでいい」

 出て行ってもいいという言葉に不安があったのか、拗ねたように呟く。こんなに懐かれたら、自分の人生なんて二の次でいい。ああ、でも、忘れてはいけないきこりの仕事がある。

「俺だっていつまでもガキを養えるわけじゃない。ここには親父が育てた木がある。いつか、神殿の建て替えが必要になったときのために育てている木だ。祖父の代からある。俺の代で必要がなければ、次の代がいつでも使えるようにしておく。お貴族様とは違うけど、きこりも大事な仕事だ」

 ラウルの宝石みたいな瞳いっぱいに、俺が映っている。誰かと比べるわけではなく、名もなききこりにも継承していくものがあるのだと教えたかった。

「それ……は……養子じゃだめ? サクは自分の子供に伝えていきたい?」
「養子? うーん……ちゃんと世代を繋いでいけるなら何でもいいと思う。木は百年を超えるのもあるから」

 どこか必死な様子のラウルが、馴染みのない言葉を持ち出してきた。養子なんて子供のいない夫婦や、金持ちの慈善事業でとるものだと思っていた。

「俺が普通に嫁を取って子供が生まれたら、別に養子なんて取らなくてもいいだろ?」

 ラウルがやけに必死なのが不思議だ。俺が嫁を取ったら捨てられると思っているのだろうか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

テューリンゲンの庭師

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:40

その壊れた恋愛小説の裏で竜は推し活に巻き込まれ愛を乞う

BL / 連載中 24h.ポイント:2,756pt お気に入り:538

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:217

嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す

BL / 連載中 24h.ポイント:2,393pt お気に入り:4,639

君に望むは僕の弔辞

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:224

女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:2,118pt お気に入り:142

リセット

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:457

この行く先に

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:61

魔王の贄は黒い狐に愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:1,996pt お気に入り:497

処理中です...