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14 きこりのお仕事

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 ラウルにきこりの仕事を教え始めた。
 木に登ったことがないというから、まずは登り方を教える。建材用の木はまっすぐに伸びるように枝打ちをしているから、手足をかけられるところはほとんどない。そういう木に登るときは縄を使う。縄で木と自分を入れた輪を作って、身体を支えるのだ。
 練習は下に落ち葉がたくさん積もっている木で行った。落ちるときは手足をばたつかせず、頭を守るようにも教えた。頭は治らないが、体は余程でなければ治る。

 最初のうちは力も足りず縄のコツも掴めなくて、どうしたらいいか悩んでいたラウルは縄を改造した。動物の皮を使って、縄に滑り止めを施した。俺も使ってみたら、すごく良かった。

「ラウル、すごいな。こんな発想が出てくるなんてすごい」

 俺の手放しの絶賛にラウルは笑う。

「僕は好きじゃなかったけど、公爵家の令嬢として裁縫も叩き込まれたんだ。細かい作業は苦手だったけど、色々なものの作り方を見るのは嫌いじゃなかった。そのとき、皮を滑り止めに使うっていうのを見たんだ」

 ラウルは昔話をあまりしない。俺も、男に嫁ぐために性別を偽らされて育てられたのは楽しくない話だと思って、突っ込んで聞いたことはない。
 自然に昔話ができるようになったのは、ラウルの中で落とし所が見つかったのだろうか。

「ラウルは裁縫うまいもんな。俺は何もできないからすごく助かる」
「ふふ。サクがそうやって言ってくれるから、最近は裁縫も好きになってきた」
「そりゃ良かった」

 かなり令嬢言葉が抜けてきたが、やはりラウルは上品だ。仕草は俺の真似をしているように感じることもあるが、嫌な気はしない。卵から生まれた雛がピヨピヨ言いながら一生懸命羽ばたいているような印象だ。そぐわなさが可愛い。
 俺より大きくなった男に可愛いだなんて言うのはおかしいかもしれないが、年下だからいいだろう。頭を撫でたりはしない。したいけど、我慢している。身分の差もあるし。

「まずは完璧に木に登れるようになってからだ。枝打ちは余計な枝を取るだけだから難しくない」
「うん……木に登るためには身体が大きくなりすぎないほうが良さそう」
「お前は大きくなるだろ」

 ラウルが毎日成長する身体の痛みに耐えていることを知っている。去年から今までで、拳一つ分は大きくなったし、日に日に大人びていく顔立ちを感じている。
 抜かされていく悔しさがないわけではないが、弟分が成長していくのには楽しさが勝る。

「大きくなっても、ここに置いてほしい」

 ふっと迷子のような表情で、ラウルが俺の服の裾を掴んだ。そんなことをしなくても逃げないのに。
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