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12 不穏の理由

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「ただいま」
「おかえり、サク」

 俺を迎えたラウルが俺の後ろ、家の周りを見回す。

「何をそんなに警戒しているんだ?」

 流石に聞かずにはいられない。少しだけ俺よりも上になったラウルの目を見つめて問いかける。

「う、そう、あの……えっと」
「どうしても言いたくないってのは無理だぞ」

 荷物を下ろした俺に、ラウルが茶を用意してくれる。飲めればいい程度に思っていた茶も、ラウルが来てから味が格段に良くなった。

「その、僕、というかフローリアが追放された影響が出始めるならそろそろだから」
「どういうことだ?」

 ラウルが言うには、ラウルの故郷は辺境だが公爵家であり、かなり権力を持っている。もともと一つの国だったグロウルという地域が、勢いの良かった昔の我が国ロウヤーに併合された難しい土地柄なのだという。
 定期的に王家と婚姻関係を結ぶことで平和な関係を保っていたが、今回は無理矢理婚約者にしたフローリアを騙し打ちのように排斥したことで、くすぶっていた火種が燃え広がりグロウルを焼こうとしているようだという。

 現当主であるラウルの父は切れ者で、併合された頃とはまるで違うほどに領地に力を蓄えた。だからフローリアの件をきっかけに、独立戦争を仕掛けるのではないかということだ。
 塩の値段が上がったり、その他のものも値段が上がっていったことで、ラウルは確信したらしい。

「父上にとっては、わ……僕のことも、周りのものの全てが目的を達成するための駒なんだ。父上の父、僕にとって祖父にあたる先代からグロウルの独立は悲願だから。公爵家の中でもほんの一部しか知らないことだけど。いまはまだロウヤーのいち領地に過ぎないからね。失敗してロウヤー王家に潰されるわけにはいかないし」

 かなり女性的な言葉遣いはなくなってきたが、染みついた言葉遣いを変えるのは難しいようだ。滅多にないが、慌てていると口調だけは完全に女性になる。声は低く男そのものだ。

 ラウルの手の中で、玻璃のグラスが光る。ラウルの瞳の色に似ていたから、つい有り金はたいて買ってきてしまった一品だ。渡したら無駄遣いを怒られてから、頬を染めて礼を言われた。大事に使ってくれている。

「そんなことを俺に話してしまっていいのか?」
「サクは誰かに話したりしないでしょう?」
「ああ」

 信頼しきった瞳を真っすぐに向けられて、照れくさい気持ちになる。
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