上 下
1 / 37

1 道端に悪役令嬢

しおりを挟む
 道を歩いていたら、悪役令嬢が落ちていた。どうして悪役令嬢だってわかったかって? 手配書が回っていたからだ。
  手配書には彼女が悪役令嬢になった経緯も絵物語としてついていたから、世間では無料の娯楽として大人気になった。題名も「悪役令嬢フローリア」だ。庶民にわかりやすいように物語にしたのだろう。
 紙も本も庶民には高いものなのに、王子様は令嬢憎しの力で物語付きの手配書を庶民にばらまいた。おかげでみんな王子様のことも王子様のお気に入りの聖女さまのことも大好きだ。

 話を戻そう。その手配書曰く、聖女さまを虐めた悪役令嬢フローリアを貴族社会から放り出すから、石を投げてやれってことだった。絵物語が事実なら悪役令嬢は同情の余地のない悪いやつだ。
 だけど目の前に若い娘さんが泥だらけで、うつ伏せになって肩を震わせているのは違うんじゃないかと思った。可哀想だ。宝石や豪華なレースで飾り立てられているはずの悪役令嬢は、宝石もなく泥だらけのドレスに靴すら履いていない。

 令嬢はすでに石を投げられたようで、あちこち青アザと血が滲んでいる。裸足の足はぼろぼろだ。女性にしては足がでかい。
 庶民の俺に公権力に逆らうリスクは冒せない。だって俺まで手配されて石を投げられるのは嫌だし。
 周りにひと気がないのを確認して、俺は近づいた。彼女は道端に転がる拳大の石を抱きしめるようにしていた。あんなでかい石をぶつけられたのだろうか。あんなのを気軽に投げられる人間はいないと思いたい。

「ふ、ふふ……あいつら顔覚えたからな……次会ったらケツにこの石ぶち込んでやる。うぅ、足が痛い」

「大丈夫か」と声をかけようとしたとき、低い声でボソボソ呟く声が聞こえた。紡がれた言葉の意味を理解した瞬間、俺は踵を返そうとした。できなかったのは、令嬢に足を掴まれたからだ。
 恐る恐る掴まれた足を見ると、乱れた髪の隙間からギラギラと輝く宝石のような瞳が見えた。形のいい唇が笑みの形に弧を描く。

「ひっ」
「親切なお方、助けてくれますわね?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騎士団長の秘密

さねうずる
BL
「俺は、ポラール殿を好いている」 「「「 なんて!?!?!?」」 無口無表情の騎士団長が好きなのは別騎士団のシロクマ獣人副団長 チャラシロクマ×イケメン騎士団長

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...