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5 事故*
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こうして僕は出勤途中はヒソヒソと噂され、同僚には遠回りに励まされる日々となった。エミル様には申し訳なさすぎて全くコンタクトを取っていない。
警備の近衛騎士も別の分隊に変わっているのが救いだった。クラース様かもしれないと思ったけど、隊長格のかたはもっと上の役職近くに詰めているから、会おうと思わなければ機会はない。
今日も今日とて、針の筵を歩く気持ちで資料を運んでいたとき、見慣れない若い貴族に声をかけられた。
「そこのチビ。テディ・バーリだな?」
「へっ、は、はあ」
貴族といえど、王宮の一角になるここには許可なしでは入れない。今日は来客が訪れるとは聞いていないから、不法侵入!?
近衛騎士の姿は見えない。
貴族は横柄だが若く、ステファン殿下とは違うけど、どこか服装や髪型などの雰囲気の似た……いや似せている? 比べるのもおこがましい。だって似せているから余計にその精神の差が出てしまって、とても下劣に見える。
どうしよう、助けを呼ばないと。
貴族にバレないよう窓の外を見ると、クラース様と目が合った。クラース様からは貴族の姿が見えない。僕はなんとか気付いてほしくて、貴族がクラース様の視界に入るよう後ずさった。
「鈍臭いし、チビで童顔、トール様はほんとうにこんなのが?」
「あ、あの、どちら様でしょう」
「教えてやる義理はない」
もうすぐ見える、と気が緩んだのがいけなかったのか、変な液体を顔にかけられた。貴族はすぐに踵を返して駆け出す。
「わぁっ」
びっくりしてその場にへたり込んだ僕は、すぐに異常に気が付いた。身体が熱い。病気で熱が出るのとは違う馴染んだ感覚、これは発情期だ。
発情期を誘発する液体をかけられたんだ。そういうものがあるという噂しか知らなかったやつ。
理性があるうちにどうにかしなければ。王宮にはアルファが多い、せめて扉を閉めないと事故が起きてしまう。床を這いずる僕が扉にたどり着いたとき、そこにはクラース様が……いた。
欲しい。
アルファが欲しい。
この熱は、彼じゃなきゃダメだ。
僕の状態に気付いたクラース様が部屋に入り慌てて扉を閉める。彼は外に出なかった。
「誰も入るな! 医師を呼べ! 侵入者を止めろ!」
「はっ!!」
駆けていくいくつもの足音。
誰もいない。クラース様のほかには誰も。
「クラース、さま……ごめんなさい、お願い、します。助けて」
「テディ。首輪は、してるな。責任は取らせてくれ」
「責任なんて……いいから、くださいっ」
そこからは嵐のようだった。医師を呼んでも別の宮にいるから来るまでに時間がかかる。
「クラースさま、ぁあっ」
服を剥ぎ取られて、普段は存在を忘れている乳首を捏ねられる。何をされても、熱は下肢を昂らせるだけで、僕は自分からクラース様の腰に足でしがみついた。
「いい、いいから、はや、く……ぁ」
布越しに擦り合わせるだけで、クラース様の香りが濃くなって酩酊する。気持ちいいしかない。
「テディ、優しく、したいんだ」
「いい、いらない、はやく、はやくぅ」
僕の足の力でも、クラース様は片手でひょいと外してズボンを脱がせた。すっかり、はしたなく濡れているところを指が優しく暴いてくる。
強制的に発情させられた身体は、そんな優しい刺激じゃ足りなくて、僕は泣きながら早く早くと訴えた、
「好きだ。こんな形ですまない」
「ぁ、あーーーっ」
クラース様が僕にはいってきた時、初めての凄まじい幸福感に包まれた。これは僕がオメガだからアルファに抱かれて喜んでいるのだろうか。
「あっ、あっ、いいっ、あーっ」
「テディ、テディ」
だけど、喜びは繋がったところだけじゃなかった。僕の名を呼ぶ声、僕の涙を舐めとる優しい舌、目が合うと微笑んでくれるクラース様。
彼だから嬉しい。
ガードする首輪がなかったら、つがいにしてもらえたのに。首輪の上から何度も齧られて絶頂する。
お医者さんが駆けつけた頃には僕は意識を失っていて、恥ずかしい思いをしなくて済んでいた。
警備の近衛騎士も別の分隊に変わっているのが救いだった。クラース様かもしれないと思ったけど、隊長格のかたはもっと上の役職近くに詰めているから、会おうと思わなければ機会はない。
今日も今日とて、針の筵を歩く気持ちで資料を運んでいたとき、見慣れない若い貴族に声をかけられた。
「そこのチビ。テディ・バーリだな?」
「へっ、は、はあ」
貴族といえど、王宮の一角になるここには許可なしでは入れない。今日は来客が訪れるとは聞いていないから、不法侵入!?
近衛騎士の姿は見えない。
貴族は横柄だが若く、ステファン殿下とは違うけど、どこか服装や髪型などの雰囲気の似た……いや似せている? 比べるのもおこがましい。だって似せているから余計にその精神の差が出てしまって、とても下劣に見える。
どうしよう、助けを呼ばないと。
貴族にバレないよう窓の外を見ると、クラース様と目が合った。クラース様からは貴族の姿が見えない。僕はなんとか気付いてほしくて、貴族がクラース様の視界に入るよう後ずさった。
「鈍臭いし、チビで童顔、トール様はほんとうにこんなのが?」
「あ、あの、どちら様でしょう」
「教えてやる義理はない」
もうすぐ見える、と気が緩んだのがいけなかったのか、変な液体を顔にかけられた。貴族はすぐに踵を返して駆け出す。
「わぁっ」
びっくりしてその場にへたり込んだ僕は、すぐに異常に気が付いた。身体が熱い。病気で熱が出るのとは違う馴染んだ感覚、これは発情期だ。
発情期を誘発する液体をかけられたんだ。そういうものがあるという噂しか知らなかったやつ。
理性があるうちにどうにかしなければ。王宮にはアルファが多い、せめて扉を閉めないと事故が起きてしまう。床を這いずる僕が扉にたどり着いたとき、そこにはクラース様が……いた。
欲しい。
アルファが欲しい。
この熱は、彼じゃなきゃダメだ。
僕の状態に気付いたクラース様が部屋に入り慌てて扉を閉める。彼は外に出なかった。
「誰も入るな! 医師を呼べ! 侵入者を止めろ!」
「はっ!!」
駆けていくいくつもの足音。
誰もいない。クラース様のほかには誰も。
「クラース、さま……ごめんなさい、お願い、します。助けて」
「テディ。首輪は、してるな。責任は取らせてくれ」
「責任なんて……いいから、くださいっ」
そこからは嵐のようだった。医師を呼んでも別の宮にいるから来るまでに時間がかかる。
「クラースさま、ぁあっ」
服を剥ぎ取られて、普段は存在を忘れている乳首を捏ねられる。何をされても、熱は下肢を昂らせるだけで、僕は自分からクラース様の腰に足でしがみついた。
「いい、いいから、はや、く……ぁ」
布越しに擦り合わせるだけで、クラース様の香りが濃くなって酩酊する。気持ちいいしかない。
「テディ、優しく、したいんだ」
「いい、いらない、はやく、はやくぅ」
僕の足の力でも、クラース様は片手でひょいと外してズボンを脱がせた。すっかり、はしたなく濡れているところを指が優しく暴いてくる。
強制的に発情させられた身体は、そんな優しい刺激じゃ足りなくて、僕は泣きながら早く早くと訴えた、
「好きだ。こんな形ですまない」
「ぁ、あーーーっ」
クラース様が僕にはいってきた時、初めての凄まじい幸福感に包まれた。これは僕がオメガだからアルファに抱かれて喜んでいるのだろうか。
「あっ、あっ、いいっ、あーっ」
「テディ、テディ」
だけど、喜びは繋がったところだけじゃなかった。僕の名を呼ぶ声、僕の涙を舐めとる優しい舌、目が合うと微笑んでくれるクラース様。
彼だから嬉しい。
ガードする首輪がなかったら、つがいにしてもらえたのに。首輪の上から何度も齧られて絶頂する。
お医者さんが駆けつけた頃には僕は意識を失っていて、恥ずかしい思いをしなくて済んでいた。
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