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18 ”俺”と”ヒューゴ” 

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 手枷がごとん、と落ちた。
 途端に冴えわたる五感……いや、第六感も冴えている。
 封じられていた魔力が解放されて一気に広がろうとするのを、咄嗟に体内に押し込めた。やばいやばい、魔法を暴発させるところだった。

 目の前で中年の魔道具師の男が腰を抜かしている。魔力が見えたのだろう。

「悪い。これでも暴発させたことはないから、大丈夫だ」
「あんた……やべぇな」
「だろう? 私は最強なんだ」

 美しさも強さも最高だなんて、ダールはなんて幸せものだろう。ダールは俺に出会えたことに感謝するべきだ。毎日しっかり奉仕してもらわなくては。
 完全になった自分が心地いいが、久々の魔力制御に少し手間取っていると、魔道具師が外したばかりの手枷を名残惜しそうに一つ差し出してきた。研究したいと言っていたににどういうことだ。

「これ片方だけでもつけておいたほうが楽なんじゃないか?」

 目から鱗だ。貴族の家の長子として生まれた俺に、どれほど危険であっても魔力封じの魔道具をつけるなんて選択はなかった。特に帝国では魔力封じの魔道具は、犯罪を犯した魔法使いにしか使用してはならないとされていたからだ。
 ダールやその父でも思ったが、スャイハーラはずいぶんと柔軟な考え方をしている。

「そういう手があるか。だが、それは美しくない」

 魔道具師が、俺を一個人で認識し気遣ってきたことは喜ばしいが、俺は最強の魔法使いであることと同時に美しさも極まっていることを誇りにしている。
 美しい俺に無骨な手枷は、そのミスマッチさを楽しむこともできるだろうが、やはり嫌だ。せっかくの美しさなのだから、さらに高めていきたい。

「自分で作るか?」
「作れるものなのか?」
「おれは魔力が少ないから、理論的に理解していても強い魔道具は作れない。こんな、魔法陣で増幅してやっとだ。だが、あんたなら」

 この魔道具師は、どんな魔道具もその機能を見抜く力を持っていると、ダールの父親が自慢していた。相当目と腕がいいのだろう。俺の知らない知識を持っている。そうだ。

「弟子入りする」
「いいのか」
「ちょうどスャイハーラでの仕事をどうするか考えていたところだ」
「そりゃあいい。弟子たちにもいい刺激になるだろう」
「ふっ、私の美しさに気もそぞろにならねばいいな」
「あー……、露出は減らせ」
「嫌だ」
「襲われるぞ」
「この私に触れていいのはダールだけだ」
「……弟子入りしたきゃ服を着込め」
「くっ」
「ダールに新しい服を買わせればいいじゃないか」
「しかたない。そうする」

 魔力が戻ってもせいぜい記憶が戻っただけで、人格が変わらなかったことにほっとした。いや、少しだけ露出を恥ずかしいと思い始めている。これは帝国のしっかり服を着込む習慣からの気持ちだろう。
 だが、このスャイハーラでは女性も露出が激しい。もともと女性が好きだったというダールに、お前がいま愛しているのは男なのだと日々理解させてやらねばならない。……万が一にもダールがよそ見をしないように。


 ダールとの家に近付くにつれて、落ち着かない気分になってくる。
 俺は美しい、特別に美しいと言って差しさわりがないだろう。しかし、ダールにとってはそれだけだ。ガダクツク監獄で女性に乱暴をしないために、帝国貴族の犯罪者であるという俺で欲を解消しようとした、ある意味で女性に優しい男だ。身体の相性が良かったからお互いにハマった感じだったが、実はハマったのは俺だけで、ダールは……。
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