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2 まずは地下牢だってよ
しおりを挟む俺は自分が何者かわからないけど、なんとなく状況はわかってきた。たぶん都合のいい記憶喪失なのだろう。ある程度一般常識の知識はあるようだから。
誰も居なくなってから、アイリーンさんが床に転がる俺ににじり寄ってきた。手枷から体力が吸い取られているように体が重くて動けないのだ。
「お兄様、ごめんなさい。わたくしのせいで」
おおっとアイリーンは俺の妹でした。髪の色が同じな理由がわかった。俺は直毛だが、アイリーンはゴージャスな巻毛だ。顔立ちは精巧な人形のようで、とにかく美しい。これは俺の容姿も期待できる。いやその前に悲しそうにしてるのが可哀想だから、慰めなければ。
「お前を守りきれなくてすまなかった、アイリーン。あの女の魅了を私には解くことができなかった。王国はおしまいだ」
少しも思っていないことが口から出た。記憶の残滓か? オートモードのようだ。ちょっとだけ状況がわかったぞ。
俺は最強の魔法使いで、妹は王子と婚約していたけど破棄されて投獄。その原因が王子の背後霊……もとい背後にいた地味な女の魅了能力のせいね。オーケーオーケー。
しかし俺はいいけど、アイリーンみたいな美女がこのまま無事にいられるとは思えない。後ろ盾を失ったら野獣の群れに酷い目に合わされるんじゃないか。なんとか逃してやりたいが、俺は完全に無力化されている。いや、完全か……?
うーんなんとかならないか。ナントカ牢獄へ送られる前に逃げないとやばい気がする。だって牢獄の名前聞いた周りの奴らが、ヤベえ本気だって王子にドン引きしてたもん。
それにしても正統派イケメン(仮)のはずの俺が、どうして中身がこうなってしまっているのか。美女妹であるアイリーンに申し訳ない。ここは何とか記憶を捻り出して彼女を守れる人間と、手立てを考えねばならない。
最強の魔法使いならこんな手枷ぐらいどうにかならないかな。魔法魔法……あっ、なんか変な感覚がある。これか? こうか?
黙って己の内なる力と対話していた俺を、アイリーンが心配してくれる。美人でいい子だから、是非とも幸せになってほしい。モブ女の魅了にも負けず、アイリーンに惚れてる男の一人や二人や十人はいそうじゃないか。
「お兄様?」
「アイリーン、お前だけでも逃すと誓う」
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