52 / 62
悪役王子だるまにされたけど四肢を取り戻した 1
しおりを挟む
動かないおれの肩を抱いたイリアスだったが、なにもエロいことを仕掛けてこなかった。今なら何してもいいと思ったのに、むしろお前の嫌な思い出で上書きしてくれると……。
いちいち癪に障るやつだ。おれの気持ちを全部わかっているみたいな態度に腹が立つ。
「イリアスの馬鹿」
「ドゥルマほどじゃない」
「頭のいい奴は嫌いだ」
「馬鹿で良いということにしてやる」
両手もある。イリアスの力はそう強くない。振り払おうと思えば簡単に振り払えるだろう。
でも、べつにエロいことを仕掛けられているわけじゃない……。カリデュカに降られて傷心すぎて、イリアスの体温にさえ慰められてしまう。
「……本気で好きだった」
「そのようだな」
「ど、童貞のままで死にたくない」
ぐすぐすと泣いてしまった。手足がなくなったのはショックだったし、今でもたまに夢に見て飛び起きるけれど、本当に悲しかったのは誰もおれを愛してくれないということだ。
本気で愛し合ったと信じたカリデュカでさえ、インキュバスの部分――ちんこでおれに惚れてくれていた。結局は穴なんだ。女の子もいるのに、BLから抜け出せない。抜け出せないなら……。
「ドゥルマ、シャイオが来たようだ」
「あ、うん。ちょっと待って」
流れた涙をぬぐおうとしたら、イリアスがハンカチをさっと出して拭いてくれた。間近で見る真面目な顔のイリアスは、さすが攻略対象と言えるだけの美貌を持っている。中身もただのヤンデレではなく、緩急つけた絶妙なバランスで心を崩しにかかってくる。
「これで大丈夫だ」
「ありがと……」
イリアスが入室を許可すると、魔石を持ったシャイオが入ってきた。どことなく元気がない。おれにふられたからだろう。ふられるのって悲しいよな。
よく考えなくても、だるまの刑になったのはシャイオの責任じゃない。むしろおれが受ける苦痛を最低限にするように尽力してくれたのはシャイオだ。最初の無理やりだって、シャイオが履修した本が悪かっただけで……だけかな。うーん、そこは難しい判定ポイントだ。
変態だけど悪いやつじゃない。こうしてふられても足を生やすために準備をしてくれた。
「シャイオ、頼む」
「はい」
おれが声をかけるだけでぱっと表情を明るくして、隣にイリアスがいることに肩を落とす。もとはと言えば、おれが気を持たせるようなことを言ってこいつを操ろうとしたのもある。
魔法が終わって、シャイオがふらふらのまま退出しようとするのは引き留めた。
「イリアス、見てるか、出るかどうする」
おれはシャイオの腕を掴んで、イリアスに選択を迫った。このままシャイオを退出させたら、二度と会えない予感がしたからだ。シャイオが王宮を辞するか、イリアスがシャイオを始末するか。
どちらも嫌だった。
この世界は嫌いだけれど、二人ともおれに嫌なことばかりしたけれど。……誰からも顧みられなかったおれを見つけたのも、この二人だけだ。
いちいち癪に障るやつだ。おれの気持ちを全部わかっているみたいな態度に腹が立つ。
「イリアスの馬鹿」
「ドゥルマほどじゃない」
「頭のいい奴は嫌いだ」
「馬鹿で良いということにしてやる」
両手もある。イリアスの力はそう強くない。振り払おうと思えば簡単に振り払えるだろう。
でも、べつにエロいことを仕掛けられているわけじゃない……。カリデュカに降られて傷心すぎて、イリアスの体温にさえ慰められてしまう。
「……本気で好きだった」
「そのようだな」
「ど、童貞のままで死にたくない」
ぐすぐすと泣いてしまった。手足がなくなったのはショックだったし、今でもたまに夢に見て飛び起きるけれど、本当に悲しかったのは誰もおれを愛してくれないということだ。
本気で愛し合ったと信じたカリデュカでさえ、インキュバスの部分――ちんこでおれに惚れてくれていた。結局は穴なんだ。女の子もいるのに、BLから抜け出せない。抜け出せないなら……。
「ドゥルマ、シャイオが来たようだ」
「あ、うん。ちょっと待って」
流れた涙をぬぐおうとしたら、イリアスがハンカチをさっと出して拭いてくれた。間近で見る真面目な顔のイリアスは、さすが攻略対象と言えるだけの美貌を持っている。中身もただのヤンデレではなく、緩急つけた絶妙なバランスで心を崩しにかかってくる。
「これで大丈夫だ」
「ありがと……」
イリアスが入室を許可すると、魔石を持ったシャイオが入ってきた。どことなく元気がない。おれにふられたからだろう。ふられるのって悲しいよな。
よく考えなくても、だるまの刑になったのはシャイオの責任じゃない。むしろおれが受ける苦痛を最低限にするように尽力してくれたのはシャイオだ。最初の無理やりだって、シャイオが履修した本が悪かっただけで……だけかな。うーん、そこは難しい判定ポイントだ。
変態だけど悪いやつじゃない。こうしてふられても足を生やすために準備をしてくれた。
「シャイオ、頼む」
「はい」
おれが声をかけるだけでぱっと表情を明るくして、隣にイリアスがいることに肩を落とす。もとはと言えば、おれが気を持たせるようなことを言ってこいつを操ろうとしたのもある。
魔法が終わって、シャイオがふらふらのまま退出しようとするのは引き留めた。
「イリアス、見てるか、出るかどうする」
おれはシャイオの腕を掴んで、イリアスに選択を迫った。このままシャイオを退出させたら、二度と会えない予感がしたからだ。シャイオが王宮を辞するか、イリアスがシャイオを始末するか。
どちらも嫌だった。
この世界は嫌いだけれど、二人ともおれに嫌なことばかりしたけれど。……誰からも顧みられなかったおれを見つけたのも、この二人だけだ。
16
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる