暗闇の安息

爺誤

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 国王に茶を出すようになって五日が過ぎ、やっと国王が倒れた。
 報せを受けて駆け付けると、すでに言葉も覚束ない。自由に動かない身体にいら立っているらしく、私をじっと睨みつけている。

 年齢的に珍しくもない症状だ。国王自身も、それはよくわかっているはず。

 私は国王の寝台にふらふらと近づいて膝をついた。出ない涙を誤魔化すように俯き、力の入らない国王の手を両手で握る。

「父上。何ということでしょう」

 ――残念ですね、父上。神経を冒す毒は、解毒不可能だそうです。

 縋りついたふりをして、国王に耳打ちをすれば、呻き声を上げる。遅効性の毒は倒れた時点ですでに致死量を超えている。
 こうなればもって三日。意識のあるうちに会えてよかった。

 万一、医師が毒だと見抜いても、私を裁くことはできない。前の王太子と私、表向きには王の血筋は二人しかいないからだ。いま、王と仰ぐのに相応しいのは誰か、火を見るより明らかだ。

 国王の寝室から出ると、宰相であるテダグ侯爵が待っていた。憎い国王が倒れたはずなのに、やはり表情に変化はない。

「戴冠式の準備をせねばなりません。国王不在の期間があっては、国が乱れます」
「テダグ侯爵……私が国王になるのか」
「殿下しかおりません」

 その言葉に思わず彼の顔を見た。

「殿下は王太子に相応しい功績と人格を備えておられます。国民も、賢王が二代続くことに歓喜することでしょう」
「……ありがとう。期待に、答えられるよう、努める」

 初めて認められ、目頭が熱くなる。父と呼ばせてはもらえなくとも、私にまともな教育を与えてくれたのはこの人だった。そうでなければ、前王太子のようにどうしようもないクズになっていただろう。


 *


 自室に戻り、決壊した涙腺に困っていると、人の気配があった。私の部屋に勝手に入ってもいいのは一人。

「兄さん、どうされたんです」
「リュード、これは……国王陛下が倒れた。回復の見込みがないから、近いうちに私が戴冠する」

 表向きには、私が国王を慕っている話は有名だ。実際に国王が死んだら笑いを堪えるのが難しいだろうけれど。実際に倒してから、驚くほど憎んでいたことに気付いたから。もっと苦しませれば良かった。もっと……

「存じ上げず、申し訳ありません」

 リュードの言葉に飲まれそうになった憎しみが霧散する。私の光、私の良心。

「まだ私と宰相ぐらいしか知らないことだ。それよりも、リュードはどうしたんだ?」
「意外な偶然が重なり、花園と呼ばれる隠し里の場所がわかりました。ヴァンガ公爵領の端で、公爵家への報告は十日に一度だと言うから、報告を出させたのち全員保護いたしました」
「もう?」
「はい。父が小隊をひとつ預けてくれたから、話が早く進みました」

 テダグ侯爵……わかっているのかもしれない。私と国王の具体的な関係はわからずとも、共犯関係にされた私が全てを壊したいと願っていることを。
 また、涙がぽとりと流れた。リュードの前で情けない。

 すると、リュードが私を抱きしめた。心臓の音が早い。

「兄さん、俺がそばにいます。離れません」

 幸せな言葉だった。だけど……リュード、私は、おまえにそばにいてもらうには穢れすぎた……だから。

「うん、ありがとう。リュード、でも、私は……おかしいんだ。国王に相応しくない」
「おかしい?」

 言ってしまおう。ずっと近くにいては隠し通せるはずがない。一度変わってしまった身体は戻らない。リュードなら、誰かに話すこともないだろう。テダグ侯爵には話すかもしれないが、それならそれでいい。

「捕虜になっていたとき、私が男たちに犯されていたのを見ただろう」
「……はい」
「あれから、どうしても身体が疼くんだ。こんな身体では、結婚もできないだろう……この国を絶やすのは、私だ」

 それでも、実父に犯されていたとは言えなかった。
 リュードの心臓の音は早いのに、身体は時が止まったように動かない。あまりにも意外で、突き飛ばすことも出来なかったのか。

 私はそっとリュードの腕の中から抜け出そうとした。
 少し力を入れればすぐに外れると思った。なのに。

「リュード、気持ち悪いだろう。離してくれていい」
「嫌です。兄さんが気持ち悪いと思ったことはありません。……俺のほうが、俺のほうが気持ち悪い」
「どういうことだ?」
「あの日のことが忘れられないんです。夢の中で、あいつらを憎いと思うのに、気付くと俺が……兄さんを犯している」

 あまりにも意外な告白に、どうしたらいいかわからなくなった。リュードにそんな一面があったとして、軽蔑するだろうか。否、私のほうがずっと業が深いのだから、巻き込んでしまって申し訳なく思うだけだ。
 私を抱きしめるリュードの手を外し、その顔を見ると泣きそうになっている。幼い頃、悪戯を叱られたとき、よく私の背中に涙を吸わせていたのを思い出す。

「リュード。あの時は、あまりにも異様な状況だった。おまえの心の傷になったことが、夢に現れているのだろう。大丈夫、おまえはおかしくない」
「いいえ。今だって、俺は兄さんに欲情している」

 ぐいっと手を引かれて、リュードの股間に導かれた。触れる部分は硬く、思わずごくりと唾を飲んだ。

「兄さんが忘れられないと聞いて、チャンスだと思ってしまいました。俺なら……二人きりでいても誰も不審に思わない。兄さんの苦しみを、俺だけが晴らしてあげられる」
「リュード」
「近親婚についても調べました。どうしてダメなのか……あれは子どもに異常が出やすくなるからダメなんだそうです。俺たちなら、子どもなんて関係ない。兄さんが嫌なら、目隠しをしていればいいんだ。灯りを消して、わからないようにすれば!」

 どん、と押し倒されて、初めて見るリュードの表情に圧倒される。こんなに、欲情した雄の顔ができるのか。
 ぐっと股間を股間に押し付けられ、リュードがほっとしたように笑う。

「兄さんも反応してる……嬉しい」
「それは……」

 拒むべきだと分かっている。私の業にリュードを巻き込んではいけない。でも、国王は死ぬ。今晩は誰もいない……あさましい身体が、今のうちにと打算的に求め始める。
 私が逡巡している間にも、リュードは服を緩めて、美しい剛直を取り出した。口の中に唾が溜まる。

「今までどんな女性にも心惹かれなかったのに、兄さんにはこんなになってしまう」
「初めて、なのか?」
「はい」

 そんなふうに言われたら耐えられるはずがない。もとより、房事に関して私が我慢できるはずがないのだから。

「私のことは、数に数えてはいけない。そう、これはただの互いの自己処理の延長ということにしよう」
「俺は……はい。兄さんが、そう望まれるのなら」

 勢いよく押し倒したはいいものの、リュードはどうしたらいいか戸惑っていた。どうしたらリュードに慣れていると思われずに済むだろう。この期に及んで、私は少しでもましな人間と思われたかった。

 リュードの陰茎の先端には雫が溜まり、いまにも零れそうになっていた。
 香油なども何もないけれど、あれならいけるかもしれない。

「リュード、おまえの、それを……ここに入れるんだ」
「ここに……入りますか?」
「入るよ。見たことがあるだろう」

 国王に足を開いて見せていた頃は、あれほど屈辱を感じていたというのに、リュードの前ではただ嫌われないだろうかと願うばかりだ。乾いている後孔に、痛みをこらえて指を入れて開いてみせると、リュードの先端から雫がぽたりと垂れる。

「兄さん……入れます」
「ああ……っぁ……ふ……ぅ」

 少々の湿りがあっても、香油なしの挿入は痛かった。でも、見上げるとリュードが切ない顔で堪えている。

「動いて、くれ」
「は、い……っ」
「ふ……っん……ぅ……っ……ァ……」

 余裕がなかったから、下肢だけを脱いだ状態で繋がっている。あれほど嫌だった自分の身体が、リュードに快感を与えていると思うと、それだけで痛みを凌駕する。

「っ……ああ、兄さん、すごい……これ、どうなって……っ」

 どうも私のそこは複雑な動きをするらしく、一度挿入した者は何度でもしたがるようになる。リュードにも有効で良かった。私との経験が、彼の傷にならないように……

「あぁ、リュード。とてもいい……中に、出して、いいんだ……っ」
「兄さん!」

 初めてだというリュードは、長くはもたなかった。ナカでびくびくと震える彼の陰茎が愛おしく、中を濡らす感覚にも欲望が増すばかりだ。だけど、私の欲望を優先してはならない。

「ぁ……リュード、良かったか? 満足できたなら」
「いいえ、兄さん。まだです。まだ」
「え、ああっ……リュード……ぁう」
「兄さんも、まだですよね」
「はぅ……そっちは、ああっ……あ」

 名残惜しい気持ちで身を引いてリュードのものを抜こうとしたが、片足を肩に担がれ、腰を引き戻された。出されたもので滑りがよくなった、結合部がぐちゅ、と音を立てる。
 そして、リュードが私の勃起したままの陰茎を握るから、身体から力が抜けて抵抗できなくなる。

 あっという間に主導権を握られ、霞む目でリュードを見ると、噛みつくように口づけをされた。
 何もかも食らいつくすような口づけと同時に、腰を激しくぶつけられて、私の理性はあっさりと失われた。
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