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第五章 はじまりの終わり
メンバー紹介
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「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。実はこの後、高校時代の友人達と一曲演奏させていただこうと考えておりまして。僕が退席している間に友人達が準備をしてくれるので、先に皆様にご紹介します」
朋ちゃんが手を動かし、私達に立つように合図をする。すぐさま立ち上がった私達を見て、酔っぱらった親族席のオッサン……じゃなくて、おじさまが『軍隊っぽいな』とヤジを飛ばしてきた。
我が吹奏楽部は体育会系文化部だし、朋ちゃんは皆を束ねる軍曹だ。だいたい合ってる。
「今、合図をしたのがピアノの佐藤朋花さん。僕達の代の学指揮……学生指揮者で、現役の頃もあんな風にして演奏後に立ち上がるタイミングを指示してくれていました。今日の演奏曲のアレンジ担当の、頼れるリーダーなんですよ」
ヤッチの神がかり的なフォローに、おじさまを諫めていたおばさまがほっとした表情になるのが見えた。今日のヤッチ、ものすごく冴えてる。
「その隣がアルトサックスの川島琴音さんと、トランペットの前田美波さん。どんな難しいソロでも安心して任せられるエース二人が、今日のために更に腕に磨きをかけてくれました」
なんか急にハードル上げてきたし! 神がかり的なフォローって思ったの、取り消し。
「ウッドベースは菅原爽太くん。エネルギッシュで個性的な女性陣をドラムの僕と一緒に支えてくれる、大事な相棒です」
そう、私達ホーンと朋ちゃんが好き放題演れるのはリズムセクションの二人がしっかり土台を作ってくれているからだけど。
……エネルギッシュで個性的、ね。うまくオブラートに包んでるけど、昔『女三人寄れば姦し、って言うけどその通りだな』って言われたの、忘れてないから。
「九年前、高校二年生の時に同じメンバーで演奏したのをもう一度聴きたいって胡桃がずっと言っていたんです。その願いを叶えてあげたいという僕のワガママに、皆が力を貸してくれました。……本日お越しいただいた皆様にも、一緒に楽しんでいただければ幸いです」
ビシっと決めた次の瞬間、ヤッチが眼鏡の奥の瞳を細めていたずらっぽく笑った。そう、ヤッチは基本お調子者だ。
「長々と失礼しました。では、そろそろ胡桃のところへ向かいますね」
白のタキシードが、扉の向こうに消える。私達四人も会場の隅に設置されているパーティションの前に移動して、二人の写真がたくさん貼られたそれを動かす。
パーティションの奥には、白い布で覆われたいくつかの塊が隠されていた。
「よし、始めるか」
近づいてきたヤッチのお兄さんと従弟が白い布を剥ぎ取り、ドラムセットとコントラバスが姿を見せる。
ヤッチから事前に計画を聞いて手伝いを申し出てくれた二人が、リハーサルの時につけた目印に合わせてドラムのセッティングを始め、爽太がケースからコントラバスを取り出す。
私とマコは、さっき式を挙げたチャペルに移動して音出しだ。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
爽太が、私の背中を優しく押して送り出してくれた。
辿り着いたチャペルで、マコと一緒に軽めのストレッチをしてからウォーミングアップを始める。
五重奏のことを頼んできた時にヤッチは『できるだけストレスなく演れるようにする』と言ってくれていた。こうして気兼ねなく音を出せる環境を整えてもらえたのが本当にありがたいし、会場のピアノも調律済だと朋ちゃんが大喜びしていた。こういうヤッチだからこそ、力になりたいと思うのだ。
それなりにエンジンがかかってきたところで、二人の支度がもうすぐ整うとスタッフが知らせに来てくれた。
「頑張ろうね」
「うん」
短い会話とハグを交わし、私達は早足で披露宴会場に戻る。披露宴の最初から壁の近くに佇んでいたアンティーク調のグランドピアノは少しだけ場所が変わっていて、写真が貼られたパーティションはその隣に移動している。
くーちゃんがこの変化に気づくのは、いつだろうか。
「それでは、あたたかい拍手でお出迎えをお願いします」
司会者の声と共に扉が開く。並んで立つ二人の姿が見えた瞬間、あちこちから感嘆の声が上がった。
――そう来たか!
朋ちゃんが手を動かし、私達に立つように合図をする。すぐさま立ち上がった私達を見て、酔っぱらった親族席のオッサン……じゃなくて、おじさまが『軍隊っぽいな』とヤジを飛ばしてきた。
我が吹奏楽部は体育会系文化部だし、朋ちゃんは皆を束ねる軍曹だ。だいたい合ってる。
「今、合図をしたのがピアノの佐藤朋花さん。僕達の代の学指揮……学生指揮者で、現役の頃もあんな風にして演奏後に立ち上がるタイミングを指示してくれていました。今日の演奏曲のアレンジ担当の、頼れるリーダーなんですよ」
ヤッチの神がかり的なフォローに、おじさまを諫めていたおばさまがほっとした表情になるのが見えた。今日のヤッチ、ものすごく冴えてる。
「その隣がアルトサックスの川島琴音さんと、トランペットの前田美波さん。どんな難しいソロでも安心して任せられるエース二人が、今日のために更に腕に磨きをかけてくれました」
なんか急にハードル上げてきたし! 神がかり的なフォローって思ったの、取り消し。
「ウッドベースは菅原爽太くん。エネルギッシュで個性的な女性陣をドラムの僕と一緒に支えてくれる、大事な相棒です」
そう、私達ホーンと朋ちゃんが好き放題演れるのはリズムセクションの二人がしっかり土台を作ってくれているからだけど。
……エネルギッシュで個性的、ね。うまくオブラートに包んでるけど、昔『女三人寄れば姦し、って言うけどその通りだな』って言われたの、忘れてないから。
「九年前、高校二年生の時に同じメンバーで演奏したのをもう一度聴きたいって胡桃がずっと言っていたんです。その願いを叶えてあげたいという僕のワガママに、皆が力を貸してくれました。……本日お越しいただいた皆様にも、一緒に楽しんでいただければ幸いです」
ビシっと決めた次の瞬間、ヤッチが眼鏡の奥の瞳を細めていたずらっぽく笑った。そう、ヤッチは基本お調子者だ。
「長々と失礼しました。では、そろそろ胡桃のところへ向かいますね」
白のタキシードが、扉の向こうに消える。私達四人も会場の隅に設置されているパーティションの前に移動して、二人の写真がたくさん貼られたそれを動かす。
パーティションの奥には、白い布で覆われたいくつかの塊が隠されていた。
「よし、始めるか」
近づいてきたヤッチのお兄さんと従弟が白い布を剥ぎ取り、ドラムセットとコントラバスが姿を見せる。
ヤッチから事前に計画を聞いて手伝いを申し出てくれた二人が、リハーサルの時につけた目印に合わせてドラムのセッティングを始め、爽太がケースからコントラバスを取り出す。
私とマコは、さっき式を挙げたチャペルに移動して音出しだ。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
爽太が、私の背中を優しく押して送り出してくれた。
辿り着いたチャペルで、マコと一緒に軽めのストレッチをしてからウォーミングアップを始める。
五重奏のことを頼んできた時にヤッチは『できるだけストレスなく演れるようにする』と言ってくれていた。こうして気兼ねなく音を出せる環境を整えてもらえたのが本当にありがたいし、会場のピアノも調律済だと朋ちゃんが大喜びしていた。こういうヤッチだからこそ、力になりたいと思うのだ。
それなりにエンジンがかかってきたところで、二人の支度がもうすぐ整うとスタッフが知らせに来てくれた。
「頑張ろうね」
「うん」
短い会話とハグを交わし、私達は早足で披露宴会場に戻る。披露宴の最初から壁の近くに佇んでいたアンティーク調のグランドピアノは少しだけ場所が変わっていて、写真が貼られたパーティションはその隣に移動している。
くーちゃんがこの変化に気づくのは、いつだろうか。
「それでは、あたたかい拍手でお出迎えをお願いします」
司会者の声と共に扉が開く。並んで立つ二人の姿が見えた瞬間、あちこちから感嘆の声が上がった。
――そう来たか!
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