【R18】姫初めからのはじめかた

福永涼弥

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第三章 雨降って地固ま、る?

週末の予定

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『急に欠員出て帰れなくなった』
『申し訳ないけど今回はパスさせてください』

 金曜日の昼にグループトークに送られてきたマコからのメッセージと土下座スタンプに、私は思わず目を瞬かせる。
 明後日の日曜は五重奏の二度目の練習日で、隣の県に住んでいるマコは確実に帰って来られるように早めにシフト希望を出したのだと言っていた。それなのに欠員なんて気の毒に。

『了解。マコのせいじゃないから気にしないで』

 お弁当のおかずを口に放り込みながら送信する。立て続けにメッセージが入って、画面がポンポンと移り変わっていく。

『ありがと。結膜炎で二週間出勤停止らしいから、来週も帰れないっぽい』
『マコにうつってませんように』

 朋ちゃんとマコが、ほとんど同時に拝むスタンプを投下する。私も拝もうと似たようなものを探していたらマコから連続でメッセージが届いた。

『私に合わせて予定組んでもらったのに、ほんとごめん』
『式当日は今回のこと引き合いに出して絶対休むから』
『頼んだ』

 短いけれど切実さが伝わってくるヤッチのレスに笑ってしまいそうになる。
 ……あ、またヤッチからだ。

『日曜、どうする?』

 マコ抜きでも集まるか、やめておくか、ってことね。サックス抜きって正直微妙だな。

『また次にしよう。それまで自主練頑張ろうね(サムズアップ)』

 一見前向きなそのメッセージに、目が笑っていない朋ちゃんの笑顔を思い浮かべてしまって一瞬背中が冷たくなる。
 四月に集まった時の朋ちゃんは予想通り軍曹化して、練習始めたばかりで指が出来上がっていない爽太とくーちゃんにバレないように細切れの練習時間しか取れないヤッチは大目に見てもらえたけど、私とマコは『頭悪そうな音出さないの!』とボッコボコにされた。出来が悪かったら今度は何を言われるかわからない。

『頑張ります』

 同じメッセージが三つ並ぶ。送信者はマコとヤッチ、それに私だ。爽太からの反応はないし、私のメッセージの横に表示されている既読の数は『3』から変化がない。
 ……今日は一日工場回りって言ってたからなぁ。
 爽太は機械部品のメーカー勤務で、本社工場の生産管理部に配属になってからは事務所と工場を行ったり来たりしている。工場回りの日は行った先の人とお昼を食べることが多いと言っていたから、きっと今はスマホを見られる状況じゃないんだろう。
 生産管理は営業や工場、原材料の調達担当といった色々な人と連携が必要らしいけれど『東京で営業やってた時は得意先の希望ばっかり優先して生産管理に色々無茶言ったけど、今になって考えると申し訳ないことしてた』と言える、気配り上手な爽太ならきっと大丈夫。

『本当にごめん! 来月以降の予定わかったらすぐ連絡する』
『日曜はなしってことでよろしく>菅原』

 ヤッチのメッセージを最後に応酬がぴたりと途絶える。中止連絡を爽太が見逃さないように、という皆の配慮だ。
 ……夜になっても既読つかなかったら、電話しよう。
 私はお弁当の最後のひと口を飲み込んだ。水筒のお茶で口の中をさっぱりさせ、スマホを持ってデスクを離れる。昼休みが終わる前にスタジオにキャンセルの連絡を入れておかないと。
 屋上に続く階段の踊り場でスタジオに電話をかけるけれど通話中で繋がらない。しばらく待ってからかけ直すことにして、壁にもたれて時間を潰しながらぼんやり考える。
 ……明後日、キャンセルになってよかったのかも。
 結婚式でも高校の文化祭と同じ『A列車で行こう』を演るけれどそのままというわけにはいかない。なにせ、当時のトランペットの魅せ場はウケを狙った校歌のジャズアレンジだ。同じことをしたら間違いなく大事故になる。
 今はそれをどう変えるか試行錯誤している最中で、もう少しで何か見えてきそうだったから今日も仕事の後にカラオケ行って自主練するつもりでトランペットを持ってきてる。キャンセルになった分練習期間が延びたのは正直ありがたかった。
 さて、今週末はどうしようかな。
 私も爽太も明後日に向けて練習するつもりだったから明日会う約束はしていない。爽太が戻ってきてからのこの二ヶ月、週末はお互いに別の用事が入っていない限り顔を合わせていたから会う予定がないのがなんだか不思議な感じがする。
 そんなことを考えながら窓の外に視線を向ける。今朝の天気予報では梅雨の晴れ間だと言っていたのに空は重たい灰色だ。傘持ってきてないからなんとか仕事終わるまで保ってほしい。
 ひとつため息をついてからもう一度スタジオに電話をかける。
 昼休憩明けまでは残り十分。何とか電話が繋がることを願って、私は左耳にスマホを押し当てた。
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