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第一章 一年の計は元旦にあり
一年の計は元旦にあり
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「ちゃんと好きって伝えなきゃダメだったな。本当にごめん」
「ちゃんと言ってくれたから、もう大丈夫」
「彼女になってくれる、ってことで間違いない?」
「間違ってない。菅わ……っ!」
急におでこを押されて顔を上げさせられ、眉を顰める菅原と目が合った。
「その菅原っての、やめて」
「えー」
今更そう言われても十年間そう呼んできたから簡単には変えられない。
……でも、そういうところ気にするんだ。ちょっと意外。
「あの時はちゃんと名前呼んでくれたのに?」
「あれは、その」
彼女だったら、と思ったら口から出ていた。雰囲気って怖い。
「とにかく、菅原は禁止」
「さすスガは?」
「時と場合による」
それはいいのか。そう呼ばれるの結構気に入ってるんだと知ったらちょっと面白くなってきた。今後も事あるごとに言わせてもらおう。
「で、『間違ってない』の続きは?」
改めて言い直すのは照れくさいけれど、言わなきゃ伝わらないことはたくさんある。これもきっとその中のひとつ。
「菅……爽太が好き。爽太の、彼女になりたい」
「ありがとう」
おでこにキスをされて、寝る前の感覚が間違いじゃなかったことを確信した。……雰囲気からすると、たぶんこれ、爽太、が好きな人にだけするキスなんだろうな。
爽太が腕を緩めて私の顔を見る。
「これから初詣行こうか」
「行く」
彼氏と初詣。行ったことないけどなんだか楽しそうでワクワクする。
「じゃあ昼は外で食べよう。……帰るの、明日にできる?」
「できるけど、明日仕事って言ってなかった?」
だから同期会不参加だったはず。私が予定通りに行動していたら、爽太が同期会に出ていたら。どっちでもなかったからこそ今こうして一緒にいると思うとすごく不思議な気分になった。
「異動準備始めたいだけだから三日に行く。で、初詣の帰りに買い出しして、夜は鍋にしよう」
「いいねぇ」
鍋なら料理が下手な私でもなんとかなる。さすスガ、段取りと気配り上手。
「食べ終わったら一緒に風呂入っ」
「それは無理!」
とんでもない発言が来たから最後まで言われる前に拒否しておく。絶対普通に入るだけじゃすまないに決まってる。お風呂で今日みたいなことされたら死んじゃうから無理!
慌てる私を見て爽太が微笑む。
「今、俺とやらしいことするの想像したでしょ。……上書きしなくて大丈夫そうだね」
「あ」
一緒にお風呂、と言われて頭に浮かんだのは昨日のあの二人じゃなくて、今日の私と爽太だった。
……上書き、されてる。
「……大丈夫、みたい。心配してくれてありがとう」
「それはよかった」
軽い口調だけれど爽太は明らかにほっとした表情をしていて、たくさん心配させてたんだな、と改めて申し訳なく思う。
……これからは心配させないよう、もう少しちゃんとしなきゃ。
「美波、どうした?」
静かになった私の頬を爽太がつつく。
「あんまり心配させないようにしなくちゃな、って思ってた」
「彼女の心配するのは当たり前。気にしなくていいよ」
そうかもしれないけど、それでもやっぱり心配はさせたくないな、と思う。傷ついた顔や心配そうな顔を見たくないのは、爽太だけじゃなくて私も同じだから。
「美波」
爽太が私の目を見る。
「今夜、さ。もう一回しよう」
「……うん」
「手を繋いで初詣行って、一緒に買い物して同じ部屋に帰って、一緒に夕飯の支度して、一緒に食べて。ちゃんと恋人らしいことしてから、恋人同士の初めて、しよう」
「うん」
恋人同士の、初めて。ものすごく恥ずかしいような気がするけど、悪くないような気もする。
……じゃあ、今日のあれは?
そんなことを思っていたらまたもや爽太に頬をつつかれた。
「何か余計なこと考えてる顔してる」
「ねえ爽太、すごくしょうもないこと聞いてもいい?」
「美波のしょうもないことって高確率で爆弾発言なんだけど。で、今回は何?」
呆れたような顔の爽太に促され、私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「今夜するのが『恋人同士の初めて』ってことはさ。今日のあれは、何て言えばいいんだろうね」
「本当にしょうもないな」
「新年最初だから……姫初め?」
爽太が「やっぱり爆弾発言が来た」と言いながら肩を震わせる。ぴったり寄り添ってひとしきり笑い合った後、もう一度しっかり抱きしめられた。
「いくら何でもそれはなし」
「えー」
「当たり前だろ。あと、そういうこと言うの俺の前だけにして」
「はーい」
「まったく、相変わらずほっといたら何言いだすかわからないな。……まぁ、そういうところがかわいいんだけど」
爽太が私の髪を撫で、笑う、のではなくて穏やかに微笑む。
「……とりあえず、初めて、ってことにしておこうか。俺と美波の初めて」
あれは、初めて。今夜するのは、恋人同士の初めて。
ちょっとややこしいけど、十年前に初めて出会って、今日初めて触れあって、ついさっき恋人になったちょっと特殊なはじまり方の私と爽太らしいなと思った。
「ちゃんと言ってくれたから、もう大丈夫」
「彼女になってくれる、ってことで間違いない?」
「間違ってない。菅わ……っ!」
急におでこを押されて顔を上げさせられ、眉を顰める菅原と目が合った。
「その菅原っての、やめて」
「えー」
今更そう言われても十年間そう呼んできたから簡単には変えられない。
……でも、そういうところ気にするんだ。ちょっと意外。
「あの時はちゃんと名前呼んでくれたのに?」
「あれは、その」
彼女だったら、と思ったら口から出ていた。雰囲気って怖い。
「とにかく、菅原は禁止」
「さすスガは?」
「時と場合による」
それはいいのか。そう呼ばれるの結構気に入ってるんだと知ったらちょっと面白くなってきた。今後も事あるごとに言わせてもらおう。
「で、『間違ってない』の続きは?」
改めて言い直すのは照れくさいけれど、言わなきゃ伝わらないことはたくさんある。これもきっとその中のひとつ。
「菅……爽太が好き。爽太の、彼女になりたい」
「ありがとう」
おでこにキスをされて、寝る前の感覚が間違いじゃなかったことを確信した。……雰囲気からすると、たぶんこれ、爽太、が好きな人にだけするキスなんだろうな。
爽太が腕を緩めて私の顔を見る。
「これから初詣行こうか」
「行く」
彼氏と初詣。行ったことないけどなんだか楽しそうでワクワクする。
「じゃあ昼は外で食べよう。……帰るの、明日にできる?」
「できるけど、明日仕事って言ってなかった?」
だから同期会不参加だったはず。私が予定通りに行動していたら、爽太が同期会に出ていたら。どっちでもなかったからこそ今こうして一緒にいると思うとすごく不思議な気分になった。
「異動準備始めたいだけだから三日に行く。で、初詣の帰りに買い出しして、夜は鍋にしよう」
「いいねぇ」
鍋なら料理が下手な私でもなんとかなる。さすスガ、段取りと気配り上手。
「食べ終わったら一緒に風呂入っ」
「それは無理!」
とんでもない発言が来たから最後まで言われる前に拒否しておく。絶対普通に入るだけじゃすまないに決まってる。お風呂で今日みたいなことされたら死んじゃうから無理!
慌てる私を見て爽太が微笑む。
「今、俺とやらしいことするの想像したでしょ。……上書きしなくて大丈夫そうだね」
「あ」
一緒にお風呂、と言われて頭に浮かんだのは昨日のあの二人じゃなくて、今日の私と爽太だった。
……上書き、されてる。
「……大丈夫、みたい。心配してくれてありがとう」
「それはよかった」
軽い口調だけれど爽太は明らかにほっとした表情をしていて、たくさん心配させてたんだな、と改めて申し訳なく思う。
……これからは心配させないよう、もう少しちゃんとしなきゃ。
「美波、どうした?」
静かになった私の頬を爽太がつつく。
「あんまり心配させないようにしなくちゃな、って思ってた」
「彼女の心配するのは当たり前。気にしなくていいよ」
そうかもしれないけど、それでもやっぱり心配はさせたくないな、と思う。傷ついた顔や心配そうな顔を見たくないのは、爽太だけじゃなくて私も同じだから。
「美波」
爽太が私の目を見る。
「今夜、さ。もう一回しよう」
「……うん」
「手を繋いで初詣行って、一緒に買い物して同じ部屋に帰って、一緒に夕飯の支度して、一緒に食べて。ちゃんと恋人らしいことしてから、恋人同士の初めて、しよう」
「うん」
恋人同士の、初めて。ものすごく恥ずかしいような気がするけど、悪くないような気もする。
……じゃあ、今日のあれは?
そんなことを思っていたらまたもや爽太に頬をつつかれた。
「何か余計なこと考えてる顔してる」
「ねえ爽太、すごくしょうもないこと聞いてもいい?」
「美波のしょうもないことって高確率で爆弾発言なんだけど。で、今回は何?」
呆れたような顔の爽太に促され、私は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「今夜するのが『恋人同士の初めて』ってことはさ。今日のあれは、何て言えばいいんだろうね」
「本当にしょうもないな」
「新年最初だから……姫初め?」
爽太が「やっぱり爆弾発言が来た」と言いながら肩を震わせる。ぴったり寄り添ってひとしきり笑い合った後、もう一度しっかり抱きしめられた。
「いくら何でもそれはなし」
「えー」
「当たり前だろ。あと、そういうこと言うの俺の前だけにして」
「はーい」
「まったく、相変わらずほっといたら何言いだすかわからないな。……まぁ、そういうところがかわいいんだけど」
爽太が私の髪を撫で、笑う、のではなくて穏やかに微笑む。
「……とりあえず、初めて、ってことにしておこうか。俺と美波の初めて」
あれは、初めて。今夜するのは、恋人同士の初めて。
ちょっとややこしいけど、十年前に初めて出会って、今日初めて触れあって、ついさっき恋人になったちょっと特殊なはじまり方の私と爽太らしいなと思った。
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