6 / 14
約束の成れの果て(前)
しおりを挟む
新婚生活が始まってからも、エステルは手洗いと入浴以外で自室から出てくることはなかった。
エステルは引っ越しの翌日から三日ほどは体調を崩していて姿を見かける度に辛そうにしていたが、それは病気ではなく女性特有の体調の波によるものだとセルファースは理解していた。守護騎士として、恋人として四年もエステルの側にいたのだから周期的に体調を崩していることは何となく察せられる。引っ越しの日に手を握ろうとして拒まれたのはそれが理由なのだと思っていた。
しかし、どうやらそうではないようだった。
普段ならとっくに回復している頃になってもエステルは自室に閉じこもったままだ。月の乙女として常に誰かに身の回りの世話をしてもらっていたエステルには家事能力がない。当分は通いの家政婦とセルファースが家事をすることになっていたから生活には困っていないけれど、今のままでいいはずがなかった。
セルファースの心に疑問と焦りが浮かぶ。
あの襲撃はこれほどまでにエステルに深い傷を残してしまったということなのだろか。それとも。
――エステルは、俺を避けているのだろうか。
結婚式をしたくないと言ったのも本当は俺との結婚を望んでいなかったからなのだろうか。
できることならすぐにでもエステルの部屋に乗り込んで問い質したいくらいだったが、それが逆効果だということは考えるまでもなくわかっていた。エステルが話してくれる気になるまで待つしかないのだと自分に言い聞かせながらセルファースは日々を過ごしていた。
半月経ってエステルはようやく部屋から出てきた。しかし、それはエステルの心境に変化が生じたからでもセルファースと話をするためでもない。
当代の月の乙女ハブリエレからの呼び出しに応じ、聖地マヌラハへと向かうためだった。
神殿からの迎えの馬車に乗り込むエステルを見送って家事を済ませた後、セルファースは騎士団の詰所に向かった。そろそろ身体を動かしたかったし騎士団の近況も気になる。守護騎士として神殿務めをしていた間に入団した者との顔合わせも必要だ。
それに、家に一人でいるとエステルとの関係について思い悩んでしまうので気分転換もしたかった。
あちこちの隊に顔を出してからデルクに軽めの稽古に付き合ってもらい、休憩しながら雑談を交わす。神殿にいた頃はこれが日常で、時々エステルが二人の稽古を眺めていることもあった。
エステルは今も、神殿にいた頃と同じような肌を見せない服を着て手袋をしている。
エステルは引っ越しの翌日から三日ほどは体調を崩していて姿を見かける度に辛そうにしていたが、それは病気ではなく女性特有の体調の波によるものだとセルファースは理解していた。守護騎士として、恋人として四年もエステルの側にいたのだから周期的に体調を崩していることは何となく察せられる。引っ越しの日に手を握ろうとして拒まれたのはそれが理由なのだと思っていた。
しかし、どうやらそうではないようだった。
普段ならとっくに回復している頃になってもエステルは自室に閉じこもったままだ。月の乙女として常に誰かに身の回りの世話をしてもらっていたエステルには家事能力がない。当分は通いの家政婦とセルファースが家事をすることになっていたから生活には困っていないけれど、今のままでいいはずがなかった。
セルファースの心に疑問と焦りが浮かぶ。
あの襲撃はこれほどまでにエステルに深い傷を残してしまったということなのだろか。それとも。
――エステルは、俺を避けているのだろうか。
結婚式をしたくないと言ったのも本当は俺との結婚を望んでいなかったからなのだろうか。
できることならすぐにでもエステルの部屋に乗り込んで問い質したいくらいだったが、それが逆効果だということは考えるまでもなくわかっていた。エステルが話してくれる気になるまで待つしかないのだと自分に言い聞かせながらセルファースは日々を過ごしていた。
半月経ってエステルはようやく部屋から出てきた。しかし、それはエステルの心境に変化が生じたからでもセルファースと話をするためでもない。
当代の月の乙女ハブリエレからの呼び出しに応じ、聖地マヌラハへと向かうためだった。
神殿からの迎えの馬車に乗り込むエステルを見送って家事を済ませた後、セルファースは騎士団の詰所に向かった。そろそろ身体を動かしたかったし騎士団の近況も気になる。守護騎士として神殿務めをしていた間に入団した者との顔合わせも必要だ。
それに、家に一人でいるとエステルとの関係について思い悩んでしまうので気分転換もしたかった。
あちこちの隊に顔を出してからデルクに軽めの稽古に付き合ってもらい、休憩しながら雑談を交わす。神殿にいた頃はこれが日常で、時々エステルが二人の稽古を眺めていることもあった。
エステルは今も、神殿にいた頃と同じような肌を見せない服を着て手袋をしている。
10
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる