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新しい人生(前・残酷な描写あり)
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これは一体どういうことだ。
白い天井をぼんやり眺めながらセルファースは考える。目に映っているのは見慣れた神殿の自室の天井で、もう二度と見られないはずのものだった。
あれだけの大怪我を負ったのに、どうして俺は生きている?
突如神殿に現れた、四人の侵入者。そのうちの一人は神殿長室に向かって走っていったのでもう一人の守護騎士であるデルクがすぐに追いかけていった。あまりにも出来が悪すぎる次代の月の乙女を支えるため、本来なら月の乙女の代替わりと共に交代するはずの神殿長職には当面ヴィレムが留まることになっている。月の乙女と同様、神殿長もまた失うわけにはいかない大事な存在だった。
セルファースは月の乙女、ではなく恋人のエステルを守りの魔法陣がある部屋に避難させてその扉の前で剣を振るった。一人で三人を相手にするのだから圧倒的に不利だったが戦わないという選択肢はなかった。当然ながら、生け捕りにして尋問するという発想もない。
全員殺してエステルを守る。
その覚悟は侵入者を見た時からできていた。
一番隙の大きかった者の首を躊躇なく斬り裂き、二人分の攻撃を必死で躱しながらセルファースは反撃の糸口を探る。エステルと一緒に食べようと思って神殿の庭から取ってきた果実がポケットに入ったままだったことを思い出し、相手の顔めがけて投げつけ目潰しをする。
焦った様子のもう片方の男が大きく振りかぶった。セルファースはすぐさま相手の懐に潜り、喉元から脳天に向かって一気に剣を突き上げて二人目を黙らせる。これであと一人になった。
三人目に相対した瞬間、背中に何かがぶつかる衝撃と焼けるような痛みを感じた。身体の中にめり込んだものが無理矢理引き抜かれる感覚に一瞬セルファースの動きが止まる。
剣が落ちる音と重いものが床に叩きつけられる音が大きく響いた。二人目が最後の反撃としてセルファースを背後から刺して剣を引き抜き、そのまま崩れ落ちたのだ。
自分の置かれた状況を悟ったセルファースは残った力を振り絞って最後の一人に立ち向かう。一撃で息の根を止めるため果汁にまみれた相手の眉間に剣の柄頭をぶつけてよろけさせ、半開きになった口の奥に剣を突き立てる。あたり一面に漂う血の臭いは、相手のものなのか自分のものなのかわからなくなっていた。
壁に背中を預けるようにしながらセルファースはその場に座り込む。不思議なことに痛みはあまり感じない。口の中に満ちる血の味がひたすら不快だった。
ごめん、エステル。
約束を守れなかった俺のことは忘れてくれていいから。
どうか、君だけは幸せに。
エステルが自分の名を呼ぶ声が遠くで響いた気がした。
白い天井をぼんやり眺めながらセルファースは考える。目に映っているのは見慣れた神殿の自室の天井で、もう二度と見られないはずのものだった。
あれだけの大怪我を負ったのに、どうして俺は生きている?
突如神殿に現れた、四人の侵入者。そのうちの一人は神殿長室に向かって走っていったのでもう一人の守護騎士であるデルクがすぐに追いかけていった。あまりにも出来が悪すぎる次代の月の乙女を支えるため、本来なら月の乙女の代替わりと共に交代するはずの神殿長職には当面ヴィレムが留まることになっている。月の乙女と同様、神殿長もまた失うわけにはいかない大事な存在だった。
セルファースは月の乙女、ではなく恋人のエステルを守りの魔法陣がある部屋に避難させてその扉の前で剣を振るった。一人で三人を相手にするのだから圧倒的に不利だったが戦わないという選択肢はなかった。当然ながら、生け捕りにして尋問するという発想もない。
全員殺してエステルを守る。
その覚悟は侵入者を見た時からできていた。
一番隙の大きかった者の首を躊躇なく斬り裂き、二人分の攻撃を必死で躱しながらセルファースは反撃の糸口を探る。エステルと一緒に食べようと思って神殿の庭から取ってきた果実がポケットに入ったままだったことを思い出し、相手の顔めがけて投げつけ目潰しをする。
焦った様子のもう片方の男が大きく振りかぶった。セルファースはすぐさま相手の懐に潜り、喉元から脳天に向かって一気に剣を突き上げて二人目を黙らせる。これであと一人になった。
三人目に相対した瞬間、背中に何かがぶつかる衝撃と焼けるような痛みを感じた。身体の中にめり込んだものが無理矢理引き抜かれる感覚に一瞬セルファースの動きが止まる。
剣が落ちる音と重いものが床に叩きつけられる音が大きく響いた。二人目が最後の反撃としてセルファースを背後から刺して剣を引き抜き、そのまま崩れ落ちたのだ。
自分の置かれた状況を悟ったセルファースは残った力を振り絞って最後の一人に立ち向かう。一撃で息の根を止めるため果汁にまみれた相手の眉間に剣の柄頭をぶつけてよろけさせ、半開きになった口の奥に剣を突き立てる。あたり一面に漂う血の臭いは、相手のものなのか自分のものなのかわからなくなっていた。
壁に背中を預けるようにしながらセルファースはその場に座り込む。不思議なことに痛みはあまり感じない。口の中に満ちる血の味がひたすら不快だった。
ごめん、エステル。
約束を守れなかった俺のことは忘れてくれていいから。
どうか、君だけは幸せに。
エステルが自分の名を呼ぶ声が遠くで響いた気がした。
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