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黒木くんとメモ帳
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その後の話を簡単にさせてもらおう。
三上の言った通り、渋谷は特に怪我もなく無事だった。
司については警察の取り調べに対して全てを認めたそうだ。
本当に申し訳ないことをしたからお詫びをさせてほしいと徳本さんから連絡が来ていると、南條先輩伝で知らされた。
俺もその後は特に何もなかったし、すこぶる元気である。
今日も大学で三上と講義を受けているからな。
「おはようございます、黒木くん」
「三上か。おはよう」
「今日は天気がいいですね。体調はどうですか?」
「全然元気。若干寝不足で眠たいけどな」
「そうですか。もし体調が悪くなったらいつでも言ってくださいね」
「お、おう……?」
あれから三上と会うと少し……ほんの少しだけ彼女が心配症になった気がしているが、気のせいかもしれない。
そして、肝心の渋谷のドラマについてなのだが……。
「おはよ! ねえ聞いて、新しく徳本さんが脚本を書くドラマのヒロイン役のオファーをもらったの! ヤバくない!?」
重ねてにはなるが、渋谷に怪我やら何やらはなかった。
だが、ほぼ他人という間柄の相手に手足を縛られ監禁されたショックは大きいとマネージャーが判断したのか、出演予定のドラマは降板ということになったらしい。
モデル業についても少しの間だけ休業し、精神面の回復に充てることになったそうだ。
しかし、そうは言っても渋谷はパワフルで魅力的な人物。
徳本さんの要望で、彼女に再びチャンスが巡ってきたということだ。
当の本人が喜んでいるのだし、これで良いのだろう。
「すごいですね。でも、今はゆっくり休んでくださいね」
「そうだぞ。普段休みも少ないんだし、今のうちに英気を養った方がいいと思う」
「もう~二人とも過保護だなぁ! でもちゃんと言う通りにするよ!」
渋谷はそう言って頷いていたが、その顔は次第に、面白いものを見つけた子供のようになっていく。
「でもさ、せっかくの休みをダラダラして過ごすのも良くないと思うのよ、やっぱり」
「それは……まぁ」
「一理あるかも……ですね」
同調してしまったのがよくなかったのかもしれない。
渋谷は「これはしめた」という顔をする。
「休業が明けたらドラマの撮影が始まるわけだし、その特訓も必要じゃん?」
「確かにな」
スポーツ選手が休みの日にも体力作りを欠かさないのと同じように、演技についても日頃から考えていないと……ということか。
「それで、何が言いたいんだ?」
「えっと、つまりね? ……いや待って、やっぱりもう少ししたらにする! いいこと考えついちゃったから、またね!」
「えっ、渋谷!?」
嵐のように去っていく渋谷。
「……一体なんだったんだ?」
「……なんですかね?」
二人して、渋谷の出て行った教場の扉を見つめていた。
渋谷美奈は電車に揺られていた。
澪や直輝と別れたあと、軽く買い物をした美奈の帰路。
夕陽は沈み、優しい闇が辺りを覆い尽くすのを見ながら彼女は考えていた。
当然、この間の一件のこと……ではない。
澪と直輝がショッピングモールに遊びにいったという話だ。
話は概ね理解していたし、二人が楽しいのならそれで良いと美奈は思っている。
だが……。
(せっかくのデートなのに、なんでそんなに進展しないのかな……)
直輝が澪に対して好意を向けているのは、誰の目から見ても明らかだろう。
好意を向けられている当の本人を除いて。
そして澪もおそらく、深さは違えど直輝に対して好意を持っている。
彼のことを話している時の澪はとても楽しそうで、少なくとも美奈は、他の何かで彼女がそんな顔をするところを見たことがない。
だというのに。
(進展したのがおすすめの本を買っただけって、奥手すぎない?)
美奈はその仕事柄、あまり大手を振って恋愛することができないし、経験が多いともいえない。
でも、それでもだ。
(大学生だよ? もう少し浮かれた恋愛の仕方をしてもいいと思うんだけど)
そう思うが、二人は亀並みの速度で恋愛をしている。
いっそのことどちらかが想いを伝えれば、互いの気持ちを知ることができるのに。
今の二人は両片思いというやつだろう。
(まぁ、澪に関しては、高校を卒業するまでお父さんが異性と遊ぶことを禁止してたみたいだし、今まで好きな人ができたことがないみたいだから、その気持ちをどうなおちゃんに伝えればいいかわからないんだろうな)
しかし、問題は直輝の方だった。
(なんかなぁ……なおちゃんは自分を卑下し過ぎっていうか。自分じゃ澪と釣り合わないと思ってるのがひしひし伝わってくるっていうか……)
美奈は、直輝が思っているような評価のされ方はしていないと知っている。
彼は身長こそ平均的だが、服装にも気を遣っていて顔も整っている。
その上優しくて、澪の隣にいなければ引くて数多だろう。
(というか、澪が好意を持ってなかったら私がアプローチかけてたっての)
直輝と美奈は一年生の時知り合ったが、あまり関わりがない時ですら、美奈は彼が他の男子より抜きん出て魅力的だと感じていた。
もちろん、他の女子もそれを感じ、アプローチをかけようとした猛者もいたようだが、当の本人はそれに気付いていない。
その上学内でもトップクラスに綺麗な、私でも認めるほどの女子の隣にいることで、とうとう彼に挑戦する人間はいなくなったのだった。
だから――。
(私が恩返しを兼ねて、二人の距離を近づけるしかない……!)
窓からの風景を見ながら、美奈は一人決意を固めた。
三上の言った通り、渋谷は特に怪我もなく無事だった。
司については警察の取り調べに対して全てを認めたそうだ。
本当に申し訳ないことをしたからお詫びをさせてほしいと徳本さんから連絡が来ていると、南條先輩伝で知らされた。
俺もその後は特に何もなかったし、すこぶる元気である。
今日も大学で三上と講義を受けているからな。
「おはようございます、黒木くん」
「三上か。おはよう」
「今日は天気がいいですね。体調はどうですか?」
「全然元気。若干寝不足で眠たいけどな」
「そうですか。もし体調が悪くなったらいつでも言ってくださいね」
「お、おう……?」
あれから三上と会うと少し……ほんの少しだけ彼女が心配症になった気がしているが、気のせいかもしれない。
そして、肝心の渋谷のドラマについてなのだが……。
「おはよ! ねえ聞いて、新しく徳本さんが脚本を書くドラマのヒロイン役のオファーをもらったの! ヤバくない!?」
重ねてにはなるが、渋谷に怪我やら何やらはなかった。
だが、ほぼ他人という間柄の相手に手足を縛られ監禁されたショックは大きいとマネージャーが判断したのか、出演予定のドラマは降板ということになったらしい。
モデル業についても少しの間だけ休業し、精神面の回復に充てることになったそうだ。
しかし、そうは言っても渋谷はパワフルで魅力的な人物。
徳本さんの要望で、彼女に再びチャンスが巡ってきたということだ。
当の本人が喜んでいるのだし、これで良いのだろう。
「すごいですね。でも、今はゆっくり休んでくださいね」
「そうだぞ。普段休みも少ないんだし、今のうちに英気を養った方がいいと思う」
「もう~二人とも過保護だなぁ! でもちゃんと言う通りにするよ!」
渋谷はそう言って頷いていたが、その顔は次第に、面白いものを見つけた子供のようになっていく。
「でもさ、せっかくの休みをダラダラして過ごすのも良くないと思うのよ、やっぱり」
「それは……まぁ」
「一理あるかも……ですね」
同調してしまったのがよくなかったのかもしれない。
渋谷は「これはしめた」という顔をする。
「休業が明けたらドラマの撮影が始まるわけだし、その特訓も必要じゃん?」
「確かにな」
スポーツ選手が休みの日にも体力作りを欠かさないのと同じように、演技についても日頃から考えていないと……ということか。
「それで、何が言いたいんだ?」
「えっと、つまりね? ……いや待って、やっぱりもう少ししたらにする! いいこと考えついちゃったから、またね!」
「えっ、渋谷!?」
嵐のように去っていく渋谷。
「……一体なんだったんだ?」
「……なんですかね?」
二人して、渋谷の出て行った教場の扉を見つめていた。
渋谷美奈は電車に揺られていた。
澪や直輝と別れたあと、軽く買い物をした美奈の帰路。
夕陽は沈み、優しい闇が辺りを覆い尽くすのを見ながら彼女は考えていた。
当然、この間の一件のこと……ではない。
澪と直輝がショッピングモールに遊びにいったという話だ。
話は概ね理解していたし、二人が楽しいのならそれで良いと美奈は思っている。
だが……。
(せっかくのデートなのに、なんでそんなに進展しないのかな……)
直輝が澪に対して好意を向けているのは、誰の目から見ても明らかだろう。
好意を向けられている当の本人を除いて。
そして澪もおそらく、深さは違えど直輝に対して好意を持っている。
彼のことを話している時の澪はとても楽しそうで、少なくとも美奈は、他の何かで彼女がそんな顔をするところを見たことがない。
だというのに。
(進展したのがおすすめの本を買っただけって、奥手すぎない?)
美奈はその仕事柄、あまり大手を振って恋愛することができないし、経験が多いともいえない。
でも、それでもだ。
(大学生だよ? もう少し浮かれた恋愛の仕方をしてもいいと思うんだけど)
そう思うが、二人は亀並みの速度で恋愛をしている。
いっそのことどちらかが想いを伝えれば、互いの気持ちを知ることができるのに。
今の二人は両片思いというやつだろう。
(まぁ、澪に関しては、高校を卒業するまでお父さんが異性と遊ぶことを禁止してたみたいだし、今まで好きな人ができたことがないみたいだから、その気持ちをどうなおちゃんに伝えればいいかわからないんだろうな)
しかし、問題は直輝の方だった。
(なんかなぁ……なおちゃんは自分を卑下し過ぎっていうか。自分じゃ澪と釣り合わないと思ってるのがひしひし伝わってくるっていうか……)
美奈は、直輝が思っているような評価のされ方はしていないと知っている。
彼は身長こそ平均的だが、服装にも気を遣っていて顔も整っている。
その上優しくて、澪の隣にいなければ引くて数多だろう。
(というか、澪が好意を持ってなかったら私がアプローチかけてたっての)
直輝と美奈は一年生の時知り合ったが、あまり関わりがない時ですら、美奈は彼が他の男子より抜きん出て魅力的だと感じていた。
もちろん、他の女子もそれを感じ、アプローチをかけようとした猛者もいたようだが、当の本人はそれに気付いていない。
その上学内でもトップクラスに綺麗な、私でも認めるほどの女子の隣にいることで、とうとう彼に挑戦する人間はいなくなったのだった。
だから――。
(私が恩返しを兼ねて、二人の距離を近づけるしかない……!)
窓からの風景を見ながら、美奈は一人決意を固めた。
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