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黒木くんとメモ帳
黒木直輝の日常
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昼ごろに起きて、動画サイトやSNSを見て適当に時間を潰し、スマホゲームをやりながら用意をして、そしてバイトに行く。
バイトが終わったあとはコンビニに寄って、甘いものを買って家に帰る。
我ながら味気ないというか、友達がいないのが痛々しいほど伝わってくる休日の過ごし方だ。
だが、今日に限っては例外で、俺はバイト先の先輩である新田さんと、バイト終わりに夕飯を食べに来ていた。
「それでさぁ聞いてよ! その時彼、なんて言ったと思う!?」
駅から程近くのカフェ、薄暗い店内。
各席には蝋燭が置かれていて、淡い雰囲気を醸し出していた。
確かに、あまりカフェに行ったことのない自分でもお洒落だと理解でき、都内でも人気のカフェと言われているだけのことはある。
しかし、俺の目の前で半泣きで崩れている新田さんによって、そのお洒落さの半分……いや、7割が消滅していた。
「あれですか、ちょっとお腹痛くなっちゃった、とかですか?」
「そんなわけないじゃん! ぶっ飛ばすよ!?」
突然、怒りの矛先が自分に向いてきたことに驚く。
俺と同じく――と言ってしまったら失礼だが――異性との関係の薄い新田さんだが、最近気になる人ができたらしい。
そして、相手方から度々デートに誘われることもあってそれを承諾し、つい先日二人きりで会ったらしいのだが――。
「『二人っきりがいいから家がいいな。それが無理なら今日は帰るよ』だって! 馬鹿じゃないの!? 私はそんな安い女じゃないっつーの!」
簡単に説明すると、二人で夕飯を食べたあと、飲みにいくかという話になったらしい。
だが、男の方が、新田さん、または自分の家で飲みたいと誘ったらしく、彼女がそれを拒否したため、お開きになったそうだ。
そして、別れた後から男は音信不通。
ブチギレた新田さんに飯を奢ってもらう代わりに、俺は話を聞く役として雇われたのだった。
「でも、家に行ったからって、そういうことになると決まったわけじゃ――」
「なに言ってんの!? 大学生の男女が二人だよ!? 密室に入ったら最後、どんないかがわしいことになるか……」
「えぇ……」
そもそも異性と密室にいるシチュエーションを経験したことがないのだが、そういうものなのか?
「え、もしかして黒木くん……あぁ、そういえば彼女いたことないんだったか……」
「なんで先輩を励ましにきて俺の心がボコボコになってるんですか?」
「いや、ごめんて……」
片手をふらふら振って謝罪されても、俺のガラスの心は砕けたままなんだが。
まぁでも、大学生は浮かれるものとよく聞くし、二人っきりになって過ちを犯してしまうのも不思議なことではないのかもしれない。
「むしろ、先輩はよく断れましたね。気になってる相手なのに」
「顔もスタイルも声も服装も全部タイプだったし、タイプだったけど……。むしろタイプだったから、付き合う前にそういうことできると思われてたのが嫌だったの!」
結婚と違い、恋人関係でいる状態というのは口約束的な脆さがあるし、付き合ってから性行為をするというのが正しいと決まっているわけではない。
ただ、どこの誰が決めたのかもわからない社会通念上、そちらの方が望ましいというだけだ。
しかし、付き合ってからの方がロマンチックであることは確かだし、俺もしっかり順を追っていきたい派だ。
そんな経験ないだろ、というツッコミはするなよ。
「相手が本当に良かったからこそ、自分を同じように見てくれなかったことが悲しいんですね」
「……そう。それそれ! やるじゃん黒木くん!」
「あ、ありがとうございます……」
どうやら俺の言葉がお気に召したようだ。
新田さんはモヒートを呷りながら、うんうんと頷いている。
「いやでもさぁ、最近そういう、いかがわしい目的で近付いてくるやつが多いのよ。身体目当てなことくらい私にだってわかるんだから……」
怒ったり感心したり悲しんだり、情緒が不安定すぎる。
「やっぱり、怪しい目で見てくる人って多いんですか?」
「そりゃあ多いよ。私でさえ経験あるんだし、可愛い子はもっと……っていうかあり得ないくらい危ないと思うよ」
「そうなんですか……」
俺の周りの女子といえば、三上や渋谷、一応南條先輩もいたな。
南條先輩は……ちょっと特殊な人だし、むしろそういう相手をボコボコにして脚本に取り入れそうなところがある。
三上はどうだろう。
彼女が男子と話すところをほとんど見たことがないが、やっぱり異性の知り合いは多いのだろうか。
新田さんのように、身体目当てで言い寄られていたら……と考えると、少し胸が苦しくなる。
モデルとして活躍している渋谷はどうだろう。
浅い知識だが、芸能人は常にスキャンダルを狙われているらしいし、人並み以上に周りに気をつけなければならないだろう。
現在進行形で結果を出しているなら尚更だ。
道端や大学で声をかけてくる相手をあしらうならお手のものだろうが、例えば同じ芸能人で、彼女に対してよからぬ考えを企んでいる人はいるかもしれない。
一挙手一投足が溌剌としていて、見ていると元気がもらえる魅力溢れた人物。
動画サイトで暴露されているような事が彼女に起こらなければ良いと、友達として心から願っている。
「ちょっと、黒木くん聞いてる?」
「あ、すいません……ぼーっとしてました。なんて言ってました?」
「黒木くんはそういう時、女の子をちゃんと守ってあげなきゃだめだよって言ってるの!」
そういう時。
よくラブコメで見かける、はぐれている時にヒロインがナンパ男に声をかけられ、危ないところを男が助けるというものだろう。
もはや定番中の定番というイベントだが、果たして俺に同じ事ができるのか?
自分よりも強そうな相手に向かって「やめろ」と勇ましく声をかけられるのか?
当然、相手も「はいそうですか」ということを聞いてくれるわけもない。
こちらを攻撃してきた時、的確に対処して彼女を守れればいいが、現実はそう上手くいかない。
考える時間は僅かしかないだろうし、即決力やひらめきが試される。
でも、それでも――。
「……そうですね。頑張ります」
人間には誰しも、やらなければいけない時が来るのだ。
「いや、そんなマジなトーンで言われたら逆にびっくりするんだけど……」
「…………すいませんパフェ追加で! あ、アイストッピングしてください!」
「待ってごめん! 私が悪かったから三つ目のパフェは勘弁して~!」
先輩から受けたダメージを回復してやろうと、パフェを食べ続けることにした。
人の金で甘い物が食べられるなんて最高だぜ!
バイトが終わったあとはコンビニに寄って、甘いものを買って家に帰る。
我ながら味気ないというか、友達がいないのが痛々しいほど伝わってくる休日の過ごし方だ。
だが、今日に限っては例外で、俺はバイト先の先輩である新田さんと、バイト終わりに夕飯を食べに来ていた。
「それでさぁ聞いてよ! その時彼、なんて言ったと思う!?」
駅から程近くのカフェ、薄暗い店内。
各席には蝋燭が置かれていて、淡い雰囲気を醸し出していた。
確かに、あまりカフェに行ったことのない自分でもお洒落だと理解でき、都内でも人気のカフェと言われているだけのことはある。
しかし、俺の目の前で半泣きで崩れている新田さんによって、そのお洒落さの半分……いや、7割が消滅していた。
「あれですか、ちょっとお腹痛くなっちゃった、とかですか?」
「そんなわけないじゃん! ぶっ飛ばすよ!?」
突然、怒りの矛先が自分に向いてきたことに驚く。
俺と同じく――と言ってしまったら失礼だが――異性との関係の薄い新田さんだが、最近気になる人ができたらしい。
そして、相手方から度々デートに誘われることもあってそれを承諾し、つい先日二人きりで会ったらしいのだが――。
「『二人っきりがいいから家がいいな。それが無理なら今日は帰るよ』だって! 馬鹿じゃないの!? 私はそんな安い女じゃないっつーの!」
簡単に説明すると、二人で夕飯を食べたあと、飲みにいくかという話になったらしい。
だが、男の方が、新田さん、または自分の家で飲みたいと誘ったらしく、彼女がそれを拒否したため、お開きになったそうだ。
そして、別れた後から男は音信不通。
ブチギレた新田さんに飯を奢ってもらう代わりに、俺は話を聞く役として雇われたのだった。
「でも、家に行ったからって、そういうことになると決まったわけじゃ――」
「なに言ってんの!? 大学生の男女が二人だよ!? 密室に入ったら最後、どんないかがわしいことになるか……」
「えぇ……」
そもそも異性と密室にいるシチュエーションを経験したことがないのだが、そういうものなのか?
「え、もしかして黒木くん……あぁ、そういえば彼女いたことないんだったか……」
「なんで先輩を励ましにきて俺の心がボコボコになってるんですか?」
「いや、ごめんて……」
片手をふらふら振って謝罪されても、俺のガラスの心は砕けたままなんだが。
まぁでも、大学生は浮かれるものとよく聞くし、二人っきりになって過ちを犯してしまうのも不思議なことではないのかもしれない。
「むしろ、先輩はよく断れましたね。気になってる相手なのに」
「顔もスタイルも声も服装も全部タイプだったし、タイプだったけど……。むしろタイプだったから、付き合う前にそういうことできると思われてたのが嫌だったの!」
結婚と違い、恋人関係でいる状態というのは口約束的な脆さがあるし、付き合ってから性行為をするというのが正しいと決まっているわけではない。
ただ、どこの誰が決めたのかもわからない社会通念上、そちらの方が望ましいというだけだ。
しかし、付き合ってからの方がロマンチックであることは確かだし、俺もしっかり順を追っていきたい派だ。
そんな経験ないだろ、というツッコミはするなよ。
「相手が本当に良かったからこそ、自分を同じように見てくれなかったことが悲しいんですね」
「……そう。それそれ! やるじゃん黒木くん!」
「あ、ありがとうございます……」
どうやら俺の言葉がお気に召したようだ。
新田さんはモヒートを呷りながら、うんうんと頷いている。
「いやでもさぁ、最近そういう、いかがわしい目的で近付いてくるやつが多いのよ。身体目当てなことくらい私にだってわかるんだから……」
怒ったり感心したり悲しんだり、情緒が不安定すぎる。
「やっぱり、怪しい目で見てくる人って多いんですか?」
「そりゃあ多いよ。私でさえ経験あるんだし、可愛い子はもっと……っていうかあり得ないくらい危ないと思うよ」
「そうなんですか……」
俺の周りの女子といえば、三上や渋谷、一応南條先輩もいたな。
南條先輩は……ちょっと特殊な人だし、むしろそういう相手をボコボコにして脚本に取り入れそうなところがある。
三上はどうだろう。
彼女が男子と話すところをほとんど見たことがないが、やっぱり異性の知り合いは多いのだろうか。
新田さんのように、身体目当てで言い寄られていたら……と考えると、少し胸が苦しくなる。
モデルとして活躍している渋谷はどうだろう。
浅い知識だが、芸能人は常にスキャンダルを狙われているらしいし、人並み以上に周りに気をつけなければならないだろう。
現在進行形で結果を出しているなら尚更だ。
道端や大学で声をかけてくる相手をあしらうならお手のものだろうが、例えば同じ芸能人で、彼女に対してよからぬ考えを企んでいる人はいるかもしれない。
一挙手一投足が溌剌としていて、見ていると元気がもらえる魅力溢れた人物。
動画サイトで暴露されているような事が彼女に起こらなければ良いと、友達として心から願っている。
「ちょっと、黒木くん聞いてる?」
「あ、すいません……ぼーっとしてました。なんて言ってました?」
「黒木くんはそういう時、女の子をちゃんと守ってあげなきゃだめだよって言ってるの!」
そういう時。
よくラブコメで見かける、はぐれている時にヒロインがナンパ男に声をかけられ、危ないところを男が助けるというものだろう。
もはや定番中の定番というイベントだが、果たして俺に同じ事ができるのか?
自分よりも強そうな相手に向かって「やめろ」と勇ましく声をかけられるのか?
当然、相手も「はいそうですか」ということを聞いてくれるわけもない。
こちらを攻撃してきた時、的確に対処して彼女を守れればいいが、現実はそう上手くいかない。
考える時間は僅かしかないだろうし、即決力やひらめきが試される。
でも、それでも――。
「……そうですね。頑張ります」
人間には誰しも、やらなければいけない時が来るのだ。
「いや、そんなマジなトーンで言われたら逆にびっくりするんだけど……」
「…………すいませんパフェ追加で! あ、アイストッピングしてください!」
「待ってごめん! 私が悪かったから三つ目のパフェは勘弁して~!」
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