36 / 62
黒木くんとメモ帳
能力者再び
しおりを挟む
己の身体に突き刺さる第三者の言葉からようやく解放され、課題のためにファミレスに向かっている最中。
二年生の双天使は、俺の一歩前を歩きながら楽しげに話している。
「澪っていつもどこで勉強してるの?」
「家でやることが多いですね」
「そっかぁ……家って集中できる? テレビとか動画サイトとか、誘惑が多くない?」
確かにな。妙に落ち着いちゃって、勉強しようとしてもなかなか身が入らない。
俺は適度な緊張感がほしいから、カフェで勉強することが多い。
「もちろん外で時間がある時はカフェとかで勉強するんですけど、家でもテレビとかあんまり見ないから変わらないんです」
「えぇ~。前に観た番組って覚えてる?」
「覚えてますよ。カタツムリの生態について解説してる番組でした」
「…………面白いの、それ?」
カタツムリの解説番組を見てる三上って図がちょっと面白いな。
ロイコクロリディウムとか出てきた時、どんな顔してるんだろう。
こんな感じで脳内で会話に加わること数分、目的地のファミレスが目の前まで迫ってきていた。
が、しかし――。
「……が…………じゃないか!」
「…………なの!?」
店の前で、何やら喚いている二人組がいる。
まだ顔が確認できないが、声からして男女の組み合わせ。
おそらく、痴話喧嘩がもつれにもつれた結果、店を追い出され、すぐに第二ラウンドを開始したのだろう。
それにしても、家の中じゃないんだし、もう少し離れたところでやってくれればいいのに。
「あのさ、あの二人が落ち着くまで少し待たないか?」
今の状態なら、もしかすると目の前を通っただけでいちゃもんをつけられるかもしれない。
どんなに怒っていたとしても、その頂点は6秒ほどしか持続しないと聞いたことがあるし、念には念を……ということだ。
「あー確かに。ちょっと様子見てみよっか。面白そうだし」
「本音漏れてるぞ」
「冗談だから!」
まぁ、客観的に見る痴話喧嘩ほど面白いものはそうないだろう。
当人たちは必死で仕方ないだろうがな。
と言っても、俺には恋人がいたことがないので、その気持ちは分からないんだが。
「じゃあ、そのあたりで待ってましょうか」
三上に促され、俺たちはファミレスの向かい側で待機することにした。
カップルとの距離は先ほどより縮まっているため、少し耳をすませば会話内容を聞き取ることができそうだ。
「……だったら…………なんじゃ……か!」
「私は…………………………よ!」
もう少し集中してみよう。
なになに?
「じゃあ俺は一体どうすればいいんだ!」
「落ち着いてタケルくん! まだ方法はあるはずだわ!」
……ん?
タケルくんって、どこかで聞き覚えのある名前だぞ。
いや、名前だけじゃない。二人の声にも覚えがある。
「ミチル……俺は一体どうしたら……」
ミチル……ってまさか!
「な、なぁ三上? あの二人ってもしかして……」
「はい。靴下の色が左右で違う人ですよね」
「……そうだよな」
俺は能力者カップルとして覚えていたんだが、三上は靴下に目が行っていたのを思い出した。
いやまさか、またあの二人に会えるなんて。
ついにシーズン3が始まってしまったということだ。
「え、なに? どういうこと?」
そうだ、渋谷は前回のレポートの時にいなかったんだよな。
俺がしっかり教えてやらないと、新規層が減ってしまう。
「あの二人は実は能力者なんだ。今でこそカップルとして仲睦まじく過ごしているが、元々は彼女の方は、彼氏を監視する役目を負っていたんだ。だが、段々と彼女の中に愛が芽生えていき、ついに二人は結ばれたのさ……」
「いや、能力者ってなに……?」
「そしてシーズン2の――」
「なにシーズンって……」
シーズンはシーズンだ。
1シーズンあたり、おそらく8か12話くらいだろう。
毎回一時間近くあるから、数話見逃すと追うのがダルくなるんだよな。
「シーズン2のラストでは、お互いの秘密を打ち明けて再び手を取り合った二人が、組織を潰すためにカチコミをかける……というところで終わったんだ」
「うんうん。何にもわかんないことがわかった」
怪訝そうな渋谷の顔。混乱していますと顔に書いてあった。
「……あれか? 海外ドラマとかあんま見ないのか?」
「めっちゃ見るけど……そういうことじゃなくて! その能力者とかなんとかって、本当に信じてるの?」
「もちろん」
「えぇ……」
動画配信者でもなければ、街中でいきなりあんなことはしないだろう。
下手すると警察に通報されてもおかしくない声のボリュームだし。
しかも前回と今回で、2回も擦るほどのネタじゃない。
二年生の双天使は、俺の一歩前を歩きながら楽しげに話している。
「澪っていつもどこで勉強してるの?」
「家でやることが多いですね」
「そっかぁ……家って集中できる? テレビとか動画サイトとか、誘惑が多くない?」
確かにな。妙に落ち着いちゃって、勉強しようとしてもなかなか身が入らない。
俺は適度な緊張感がほしいから、カフェで勉強することが多い。
「もちろん外で時間がある時はカフェとかで勉強するんですけど、家でもテレビとかあんまり見ないから変わらないんです」
「えぇ~。前に観た番組って覚えてる?」
「覚えてますよ。カタツムリの生態について解説してる番組でした」
「…………面白いの、それ?」
カタツムリの解説番組を見てる三上って図がちょっと面白いな。
ロイコクロリディウムとか出てきた時、どんな顔してるんだろう。
こんな感じで脳内で会話に加わること数分、目的地のファミレスが目の前まで迫ってきていた。
が、しかし――。
「……が…………じゃないか!」
「…………なの!?」
店の前で、何やら喚いている二人組がいる。
まだ顔が確認できないが、声からして男女の組み合わせ。
おそらく、痴話喧嘩がもつれにもつれた結果、店を追い出され、すぐに第二ラウンドを開始したのだろう。
それにしても、家の中じゃないんだし、もう少し離れたところでやってくれればいいのに。
「あのさ、あの二人が落ち着くまで少し待たないか?」
今の状態なら、もしかすると目の前を通っただけでいちゃもんをつけられるかもしれない。
どんなに怒っていたとしても、その頂点は6秒ほどしか持続しないと聞いたことがあるし、念には念を……ということだ。
「あー確かに。ちょっと様子見てみよっか。面白そうだし」
「本音漏れてるぞ」
「冗談だから!」
まぁ、客観的に見る痴話喧嘩ほど面白いものはそうないだろう。
当人たちは必死で仕方ないだろうがな。
と言っても、俺には恋人がいたことがないので、その気持ちは分からないんだが。
「じゃあ、そのあたりで待ってましょうか」
三上に促され、俺たちはファミレスの向かい側で待機することにした。
カップルとの距離は先ほどより縮まっているため、少し耳をすませば会話内容を聞き取ることができそうだ。
「……だったら…………なんじゃ……か!」
「私は…………………………よ!」
もう少し集中してみよう。
なになに?
「じゃあ俺は一体どうすればいいんだ!」
「落ち着いてタケルくん! まだ方法はあるはずだわ!」
……ん?
タケルくんって、どこかで聞き覚えのある名前だぞ。
いや、名前だけじゃない。二人の声にも覚えがある。
「ミチル……俺は一体どうしたら……」
ミチル……ってまさか!
「な、なぁ三上? あの二人ってもしかして……」
「はい。靴下の色が左右で違う人ですよね」
「……そうだよな」
俺は能力者カップルとして覚えていたんだが、三上は靴下に目が行っていたのを思い出した。
いやまさか、またあの二人に会えるなんて。
ついにシーズン3が始まってしまったということだ。
「え、なに? どういうこと?」
そうだ、渋谷は前回のレポートの時にいなかったんだよな。
俺がしっかり教えてやらないと、新規層が減ってしまう。
「あの二人は実は能力者なんだ。今でこそカップルとして仲睦まじく過ごしているが、元々は彼女の方は、彼氏を監視する役目を負っていたんだ。だが、段々と彼女の中に愛が芽生えていき、ついに二人は結ばれたのさ……」
「いや、能力者ってなに……?」
「そしてシーズン2の――」
「なにシーズンって……」
シーズンはシーズンだ。
1シーズンあたり、おそらく8か12話くらいだろう。
毎回一時間近くあるから、数話見逃すと追うのがダルくなるんだよな。
「シーズン2のラストでは、お互いの秘密を打ち明けて再び手を取り合った二人が、組織を潰すためにカチコミをかける……というところで終わったんだ」
「うんうん。何にもわかんないことがわかった」
怪訝そうな渋谷の顔。混乱していますと顔に書いてあった。
「……あれか? 海外ドラマとかあんま見ないのか?」
「めっちゃ見るけど……そういうことじゃなくて! その能力者とかなんとかって、本当に信じてるの?」
「もちろん」
「えぇ……」
動画配信者でもなければ、街中でいきなりあんなことはしないだろう。
下手すると警察に通報されてもおかしくない声のボリュームだし。
しかも前回と今回で、2回も擦るほどのネタじゃない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる