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三上さんとメモ帳
演劇をみろ!
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ある日のこと。
「Mサイズのピザってさ、約1200キロカロリーくらいあるらしいんだよ」
「へぇ。だったら一切れあたり大体150キロカロリーですね」
「そうだな。ただ、俺は甘いもの以外ならピザが大好物で、三度の飯より……というより、三度の飯をピザにしたい男だ。つまり、一人でMサイズを平らげるくらいわけない」
「私はキツイですけど、同年代の男の子だったらいけちゃいそうです」
「でな、俺の年代の1日の平均カロリー摂取量は、だいたい1800キロカロリーくらいなんだと」
「そうすると、ピザ一枚はちょっと多いですね」
「そこなんだよ! でも、ピザって野菜とかいっぱい乗ってるだろ?」
「乗ってます。たまにパイナップルも乗ってます」
「野菜があるってことは健康にいいし、実質カロリーが相殺されていると思わないか……? それに、ピザのお供であるコーラだって、炭酸が弾けてるしきっとカロリーも軽減されてると思うんだよな」
「……一理ありますね」
「ないだろ」
「なかったです」
世界破滅の危機に立ち向かえと謎の存在に見初められるわけでもなく、全国一位を目指してスポーツに専念するわけでもなく、俺と三上は、今日も変わらず平穏な一日を過ごしていた。
空き教室の窓からは、生徒たちが昼休みを満喫するためにそぞろ歩いているのが見える。
俺たちはというと、既に本日の講義は消化済みで、この後どうするかをゆっくり考えているところだ。
窓から三上の方に視線を戻すと、彼女はなにやら真剣に考え事をしているようだった。
組んだ腕の先、人差し指の第二関節が触れそうな唇が、ゆっくりと動き出す。
「……ピザには烏龍茶が合いません? 油っぽい口の中をリセットできるし、相性いいと思うんですよね」
「あぁ、確かに……?」
てっきりこの話題は終わったと思っていたのだが、違ったようだ。
そう考えていたら、三上は「そうですよね」と呟き、今度こそ本当に会話が終了した。
二人の間に、しばし沈黙が流れる。
しかし、会話をしないことへの焦りはなく、むしろ心地良さを感じていた。
日差しが照れば暖かく、風が吹けば爽やかで。木々が揺れる音が、生徒たちの話す声とデュオを組んでいた。
であれば、口を閉じているこの瞬間であっても、俺たち二人の間に「暇」はないのだ。俺だけかもしれないが。
この静寂を破ったのは、机の家に置いてある三上のスマホのバイブレーションだった。
彼女はこちらに軽く頭を下げ、スマホを耳に当てる。
「……はい。あ、おはようございます~」
電話をしながら、どこか遠くの相手に頷いている。
怒られてる時とか、相手が目の前にいなくても無意識で頭を下げちゃうよな。
「今ですか? えっと、4号館の3階の空き教室にいます。……はい、黒木くんも一緒です」
黒木くんも一緒?
俺のことを聞いてくるということは、電話の相手は共通の知り合いということか。
渋谷だったらこんなに畏まらないだろうし、誰と話しているのだろう。
「……わかりました。それじゃあここで待ってますね。はい、それじゃあ切りますね~」
通話を切ると、三上はこちらの方を向き、口の端をほんの少しだけ吊り上げて、心躍る様子で言った。
「黒木くん。この後の予定が決まりましたよ」
10分後。
誰が来るのかと聞いても一向に教えてくれない、というやりとりを続けていると、かなり遠くの方から……なんなら下の階から、バンバンと忙しない足音が聞こえてきた。
「あ……階段登ってますね」
それは凄まじい速さでこちらへ近づいて来ているようで、ただでさえ五月蝿い足音が、さらに増幅されていく。
「これは……あの人か」
「あっ。気付きました?」
理解したときにはもう、俺の脳内に浮かんでいる人物は目の前に到着していた。
「Mサイズのピザってさ、約1200キロカロリーくらいあるらしいんだよ」
「へぇ。だったら一切れあたり大体150キロカロリーですね」
「そうだな。ただ、俺は甘いもの以外ならピザが大好物で、三度の飯より……というより、三度の飯をピザにしたい男だ。つまり、一人でMサイズを平らげるくらいわけない」
「私はキツイですけど、同年代の男の子だったらいけちゃいそうです」
「でな、俺の年代の1日の平均カロリー摂取量は、だいたい1800キロカロリーくらいなんだと」
「そうすると、ピザ一枚はちょっと多いですね」
「そこなんだよ! でも、ピザって野菜とかいっぱい乗ってるだろ?」
「乗ってます。たまにパイナップルも乗ってます」
「野菜があるってことは健康にいいし、実質カロリーが相殺されていると思わないか……? それに、ピザのお供であるコーラだって、炭酸が弾けてるしきっとカロリーも軽減されてると思うんだよな」
「……一理ありますね」
「ないだろ」
「なかったです」
世界破滅の危機に立ち向かえと謎の存在に見初められるわけでもなく、全国一位を目指してスポーツに専念するわけでもなく、俺と三上は、今日も変わらず平穏な一日を過ごしていた。
空き教室の窓からは、生徒たちが昼休みを満喫するためにそぞろ歩いているのが見える。
俺たちはというと、既に本日の講義は消化済みで、この後どうするかをゆっくり考えているところだ。
窓から三上の方に視線を戻すと、彼女はなにやら真剣に考え事をしているようだった。
組んだ腕の先、人差し指の第二関節が触れそうな唇が、ゆっくりと動き出す。
「……ピザには烏龍茶が合いません? 油っぽい口の中をリセットできるし、相性いいと思うんですよね」
「あぁ、確かに……?」
てっきりこの話題は終わったと思っていたのだが、違ったようだ。
そう考えていたら、三上は「そうですよね」と呟き、今度こそ本当に会話が終了した。
二人の間に、しばし沈黙が流れる。
しかし、会話をしないことへの焦りはなく、むしろ心地良さを感じていた。
日差しが照れば暖かく、風が吹けば爽やかで。木々が揺れる音が、生徒たちの話す声とデュオを組んでいた。
であれば、口を閉じているこの瞬間であっても、俺たち二人の間に「暇」はないのだ。俺だけかもしれないが。
この静寂を破ったのは、机の家に置いてある三上のスマホのバイブレーションだった。
彼女はこちらに軽く頭を下げ、スマホを耳に当てる。
「……はい。あ、おはようございます~」
電話をしながら、どこか遠くの相手に頷いている。
怒られてる時とか、相手が目の前にいなくても無意識で頭を下げちゃうよな。
「今ですか? えっと、4号館の3階の空き教室にいます。……はい、黒木くんも一緒です」
黒木くんも一緒?
俺のことを聞いてくるということは、電話の相手は共通の知り合いということか。
渋谷だったらこんなに畏まらないだろうし、誰と話しているのだろう。
「……わかりました。それじゃあここで待ってますね。はい、それじゃあ切りますね~」
通話を切ると、三上はこちらの方を向き、口の端をほんの少しだけ吊り上げて、心躍る様子で言った。
「黒木くん。この後の予定が決まりましたよ」
10分後。
誰が来るのかと聞いても一向に教えてくれない、というやりとりを続けていると、かなり遠くの方から……なんなら下の階から、バンバンと忙しない足音が聞こえてきた。
「あ……階段登ってますね」
それは凄まじい速さでこちらへ近づいて来ているようで、ただでさえ五月蝿い足音が、さらに増幅されていく。
「これは……あの人か」
「あっ。気付きました?」
理解したときにはもう、俺の脳内に浮かんでいる人物は目の前に到着していた。
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