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三上さんとメモ帳
モバイルバッテリーを貸してほしい その3
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「ミャオちゃん、随分積極的な子なんですね」
「い、いやぁ~そうだったんだなぁ。普段音を消してプレイしてるから、どんな子か分からなかったよ。ほんと、うん」
居心地の悪さで隣を見ることができないが、心なしか三上が目を少し細めてこちらを見ているような、刺々しい視線を感じるような気がする。
俺のやましい心がそう感じさせているのだろう。きっとそうだ。
しかし、その後も――。
『今日はミャオとずっと一緒にいてくれる?』
『君の心臓、すっごくドキドキしてる……私のも、触ってみる?』
『ねぇ、いつまで放置してるの? 早く一緒に、にゃんにゃんしようよ』
時に奇跡が起き、時に三上がタッチし、ミャオちゃんは俺に溢れんばかりの愛を囁いてくれる。
もうこれ以上の辱めは許してください。そう言おうと顔を動かすと、なぜか画面ではなく俺を見ていた彼女と目が合う。
「……黒木君は、こういう子が好きなんですか?」
「え!? そ、それはだな……」
いやもうまったくその通りなんだが、これはどう返答するのが正解なんだ!?
ルート分岐のような、実は大切な2択な気がする。
どう答えたら三上がどう思うのか、よく考えてみるべきだ。
まずは否定。
『俺はこういう子は全然好きじゃないんだ。たまたま、アプリの誤作動で表示されたんじゃないかな』
『あ、黒髪ロングの猫っぽい子は好きじゃないんですね。そうでしたか』
『い、いやそれは!』
『なら、私のこともきっと嫌いなんですね。不快にしてしまいそうなので、さよなら黒木くん……』
『待ってくれ! 三上ー!』
だめだ、この選択肢は破滅だ。
よくよく考えてみれば、こういう子が好きじゃないというのは、三上のことも好みじゃないと言っているとも受け取れる……かもしれない。
なら、逆の回答はどうなるのだろう。
次は肯定。
『俺はこういう子が好きなんだ。なんていうか、監禁してほしいんだよ』
『え……じゃあ私のこともそういう目で見てたってことですか? うわぁ……』
『い、いや、違うんだ! 確かに三上に監禁されて愛を囁かれることがあったら幸せだと思うが、誤解なんだ!」
『今世紀最大に気持ち悪いです。さようなら』
『誤解なんだ! いや誤解じゃないけど待ってくれ三上ー!』
……もしかして詰んでるんじゃないだろうか。
どちらの選択肢を選んでも、俺を待っているのは三上のゴミを見るような冷たい視線。というか絶縁。
そうか、俺の幸せな毎日は消えてしまう運命なのだ。
嗚呼、人生は無常……。
「黒木君? 大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。それで、その質問の答えなんだけど……」
そうだ、どちらを選んでも嫌われてしまうんだ。
なら、古くから言われている「やらずに後悔するよりやって後悔しろ」を実践してみるのもいいかもしれない。
最後に俺のありったけを伝えて華々しく散るとしよう。
俺は死地に赴くような覚悟を決め、堂々と口を開く。
「俺はこういう子が大好きなんだよ!」
「……え?」
突然のカミングアウトに困惑した様子の三上だが、それに怯んではいられない。
「見てくれこの艶々とした髪、黒髪ロング最高! シュッとした目やスラっとした体型も美しい!」
「た、確かに可愛いと思います……」
そうか、同意してくれたか。
半ば強引だが、否定ではなく肯定してくれたことで、俺の言葉のマシンガンはさらに火を噴く。
「それにさ、こんなに愛してくれるんだぜ。俺はめちゃくちゃに、はちゃめちゃに好意を伝えてくれる女の子が大好きなんだよ! だからミ……ミャオちゃんはパーフェクトだぜ!」
どうせ嫌われるなら好意を伝えてやろうとヤケになった俺は、ミオ…もといミャオちゃんの魅力を全力で叫び尽くした。
まぁ、最後の方には三上の顔を見るのが怖くて目を閉じていたが。
それはともかく、どんなもんだ。
全てやりきった……これでもう悔いはない。本当はめちゃくちゃあるが。
しかし、過ぎた時間はもう元には戻らない。
一度取り出したものをしまっても、取り出した事実は変わらない。
気持ちの悪い演説は無かったことにならない。
目を開けるときっと、この世の全てを凍りつかせるような絶対零度の眼差しが俺を射抜くだろう。
呼吸で上下していた肩もようやく収まり、あとは死刑宣告を待つだけ。
俺は、諦めにも似た清々しい表情で目を開けた――。
「そ、そうなんですね。いいと思います」
「う……うん?」
その目に侮蔑はなく、何故かちょっと照れたような三上。
下唇を少し噛み、視線を外している姿は初めて見るもので、それがどんな気持ちなのか分からない。
しかし、罵倒も逃走もされていないわけだし、どうやら嫌われることは回避できたみたいだ。
きっと広い心で、俺の気持ち悪さを受け入れてくれたんだろう。聖母三上の誕生である。
そして、その時ちょうど講義開始のチャイムが鳴った。
突然の電子音が、俺たちの間にあった気恥ずかしい空気を打開する。
三上は、はっとなって取り繕うようにメモ帳を開くと、さらさらと文字を書き込んでいく。
こちらもこちらで、見ているのも気まずいのでそそくさと講義の用意を始める。
俺が全ての行動を終えてから十数秒ほどの後、彼女はペンを机の上に置いた。
今日のメモには、一体どんなことが書かれているのだろう。
いまさら、自分が犯してしまった鳥肌ものの失態の数々を思い出す。
だが、繰り返しにはなるが嫌われてはいないようだ。
何を書いたか聞いても、死にたくなるような返答はないと思う。
「み、三上。今日はなんて書いたんだ?」
「今日は……めちゃくちゃに、はちゃめちゃに好意を伝えてくれる女の子が大好き。です」
「もっと他にあるだろ!?」
ま、まぁいいか!
嫌われなくてよかったぁ~!
当然、今日の講義は全く頭に入らなかった。
「い、いやぁ~そうだったんだなぁ。普段音を消してプレイしてるから、どんな子か分からなかったよ。ほんと、うん」
居心地の悪さで隣を見ることができないが、心なしか三上が目を少し細めてこちらを見ているような、刺々しい視線を感じるような気がする。
俺のやましい心がそう感じさせているのだろう。きっとそうだ。
しかし、その後も――。
『今日はミャオとずっと一緒にいてくれる?』
『君の心臓、すっごくドキドキしてる……私のも、触ってみる?』
『ねぇ、いつまで放置してるの? 早く一緒に、にゃんにゃんしようよ』
時に奇跡が起き、時に三上がタッチし、ミャオちゃんは俺に溢れんばかりの愛を囁いてくれる。
もうこれ以上の辱めは許してください。そう言おうと顔を動かすと、なぜか画面ではなく俺を見ていた彼女と目が合う。
「……黒木君は、こういう子が好きなんですか?」
「え!? そ、それはだな……」
いやもうまったくその通りなんだが、これはどう返答するのが正解なんだ!?
ルート分岐のような、実は大切な2択な気がする。
どう答えたら三上がどう思うのか、よく考えてみるべきだ。
まずは否定。
『俺はこういう子は全然好きじゃないんだ。たまたま、アプリの誤作動で表示されたんじゃないかな』
『あ、黒髪ロングの猫っぽい子は好きじゃないんですね。そうでしたか』
『い、いやそれは!』
『なら、私のこともきっと嫌いなんですね。不快にしてしまいそうなので、さよなら黒木くん……』
『待ってくれ! 三上ー!』
だめだ、この選択肢は破滅だ。
よくよく考えてみれば、こういう子が好きじゃないというのは、三上のことも好みじゃないと言っているとも受け取れる……かもしれない。
なら、逆の回答はどうなるのだろう。
次は肯定。
『俺はこういう子が好きなんだ。なんていうか、監禁してほしいんだよ』
『え……じゃあ私のこともそういう目で見てたってことですか? うわぁ……』
『い、いや、違うんだ! 確かに三上に監禁されて愛を囁かれることがあったら幸せだと思うが、誤解なんだ!」
『今世紀最大に気持ち悪いです。さようなら』
『誤解なんだ! いや誤解じゃないけど待ってくれ三上ー!』
……もしかして詰んでるんじゃないだろうか。
どちらの選択肢を選んでも、俺を待っているのは三上のゴミを見るような冷たい視線。というか絶縁。
そうか、俺の幸せな毎日は消えてしまう運命なのだ。
嗚呼、人生は無常……。
「黒木君? 大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。それで、その質問の答えなんだけど……」
そうだ、どちらを選んでも嫌われてしまうんだ。
なら、古くから言われている「やらずに後悔するよりやって後悔しろ」を実践してみるのもいいかもしれない。
最後に俺のありったけを伝えて華々しく散るとしよう。
俺は死地に赴くような覚悟を決め、堂々と口を開く。
「俺はこういう子が大好きなんだよ!」
「……え?」
突然のカミングアウトに困惑した様子の三上だが、それに怯んではいられない。
「見てくれこの艶々とした髪、黒髪ロング最高! シュッとした目やスラっとした体型も美しい!」
「た、確かに可愛いと思います……」
そうか、同意してくれたか。
半ば強引だが、否定ではなく肯定してくれたことで、俺の言葉のマシンガンはさらに火を噴く。
「それにさ、こんなに愛してくれるんだぜ。俺はめちゃくちゃに、はちゃめちゃに好意を伝えてくれる女の子が大好きなんだよ! だからミ……ミャオちゃんはパーフェクトだぜ!」
どうせ嫌われるなら好意を伝えてやろうとヤケになった俺は、ミオ…もといミャオちゃんの魅力を全力で叫び尽くした。
まぁ、最後の方には三上の顔を見るのが怖くて目を閉じていたが。
それはともかく、どんなもんだ。
全てやりきった……これでもう悔いはない。本当はめちゃくちゃあるが。
しかし、過ぎた時間はもう元には戻らない。
一度取り出したものをしまっても、取り出した事実は変わらない。
気持ちの悪い演説は無かったことにならない。
目を開けるときっと、この世の全てを凍りつかせるような絶対零度の眼差しが俺を射抜くだろう。
呼吸で上下していた肩もようやく収まり、あとは死刑宣告を待つだけ。
俺は、諦めにも似た清々しい表情で目を開けた――。
「そ、そうなんですね。いいと思います」
「う……うん?」
その目に侮蔑はなく、何故かちょっと照れたような三上。
下唇を少し噛み、視線を外している姿は初めて見るもので、それがどんな気持ちなのか分からない。
しかし、罵倒も逃走もされていないわけだし、どうやら嫌われることは回避できたみたいだ。
きっと広い心で、俺の気持ち悪さを受け入れてくれたんだろう。聖母三上の誕生である。
そして、その時ちょうど講義開始のチャイムが鳴った。
突然の電子音が、俺たちの間にあった気恥ずかしい空気を打開する。
三上は、はっとなって取り繕うようにメモ帳を開くと、さらさらと文字を書き込んでいく。
こちらもこちらで、見ているのも気まずいのでそそくさと講義の用意を始める。
俺が全ての行動を終えてから十数秒ほどの後、彼女はペンを机の上に置いた。
今日のメモには、一体どんなことが書かれているのだろう。
いまさら、自分が犯してしまった鳥肌ものの失態の数々を思い出す。
だが、繰り返しにはなるが嫌われてはいないようだ。
何を書いたか聞いても、死にたくなるような返答はないと思う。
「み、三上。今日はなんて書いたんだ?」
「今日は……めちゃくちゃに、はちゃめちゃに好意を伝えてくれる女の子が大好き。です」
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当然、今日の講義は全く頭に入らなかった。
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