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おっさんとオカルト観光
写真と瞑想
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続いて俺たちが訪れたのは、なんの変哲もない一軒家だった。
適度に整備されていて、風が窓をたたく音もなく、奇妙な鳴き声が響くわけでも、不気味な影が映りもせず。
正直、目を瞑りたくなるような過去などなさそうだが……。
そう思っていると、ガイドさんが一際真剣な面持ちで呟くように話す。
「この家には……なにもないんです」
ルーエが呆れたような反応をしている。
なにもないとはどういうことか。
「家の所有者が誰なのか、どのくらいの時代に建てられたものかというのは、おおよそ記録に残っているものです」
「そうだな。権利やらなにやら、主張の真偽を確かめるには記録の閲覧が手っ取り早いからな」
「……うんうん、そうだよね」
本当は意味がわからなかったが、とりあえず同意しておいた。
「しかし、この家には誰かが用意した家具はあれど、住んでいた者はおらず、建てた人すら不明なのです。そして、冷却効果のある魔術を使っていないにも関わらず、このひんやりとした温度……」
ガイドさんの言うとおり、この家は少し寒い。
窓から日差しが差し込んでいても、まったくその温度を感じないのだ。
昨日、霊が俺の身体を通り抜けたときの感覚と同質のそれ。
しかし、ルーエは意にも介していないようだった。
「ようは雰囲気というやつだろう。脳が錯覚しているだけさ」
「おそらくそうなんだと思います。もしかしたら、昔の人が未来の私たちに向けて残してくれた、粋なプレゼントなのかもですね。そうそう、ここでは記念撮影ができるのですが、いかがですか?」
「ふむ……」
なんとなく、ルーエが言い出すことがわかる。
「この場所には興味がないが、ジオとの思い出は魅力的だ。一枚よろしく頼むぞ」
・
「はーい、隣に並んでいただいて……もう少し距離を詰めて……はい、そこで大丈夫です! それではいきますよ~!」
パシャリという音と共に光が視界を覆い、思わず目を閉じそうになってしまう。
ギリギリ耐えられたと思うが、果たして出来上がりはどうだろうか。
「ジオは写真写りが悪そうだな」
「そうなの……かな? 写真なんて子供の頃にしか撮ったことがないからわからないな」
「なら、私が一歩リードということだな? ……それは喜ばしい」
誰かと何かを競っているらしい。
ともかく、俺たちは写真を撮った。
現像には時間がかかるらしく、その間、二人で街の霊感体験講座とやらを受けてみることにした。
もちろん、幼い頃からカルティアの独特な空気、風習に通じている人間ではないので、特別な技術を身につけられるわけではない。
だが、少しだけ順応できるというか、氷山の一角に触れるような体験はできるそうだ。
「よし、ジオ。頑張るんだぞ」
ここでもルーエの霊嫌いは発揮しているようで、俺だけが体験することになった。
「それでは、始めましょうか」
講師である優しそうなおじいさんの声に従って、瞑想の準備を整える。
正座で座り、目を閉じて精神統一。
何も考えず、視ず、思考を外側の世界へと向けない。
自らの体内に循環する血液や魔力の流れにのみ気を配り、一定間隔で呼吸する。
最初のうちは思考して行っていた呼吸が、徐々に自然にできるようになる。
すると、だんだんと不思議な感覚に陥り始める。
確かに自分の身体はここにあって、独立しているものなのに、世界との境目がなくなっているように感じるのだ。
己の内だけで回っていたものが、外に放出されて……違う、もっと大きな枠組みで動いている。
溶けるような、空気と一体化するような、心地の良さ。
ここで俺は理解した。
霊がすり抜けた時や一軒家で感じた冷気は、カルティア全てに漂っている。
ただ俺が気付いていなかっただけで、全てが「それ」に満ちていた。
「……はい、ここまでです」
聞こえた講師の声。
目を開けると、先ほどまでの感覚はなくなってしまった。
しかし、未知への足がかりを得た。
貴重な体験ができたわけだし、ルーエにも感想を伝えてみよう。
「……俺、さっきまでと少し変わった気がするんだけど、わかる?」
「あぁ、すごく眠そうだ」
適度に整備されていて、風が窓をたたく音もなく、奇妙な鳴き声が響くわけでも、不気味な影が映りもせず。
正直、目を瞑りたくなるような過去などなさそうだが……。
そう思っていると、ガイドさんが一際真剣な面持ちで呟くように話す。
「この家には……なにもないんです」
ルーエが呆れたような反応をしている。
なにもないとはどういうことか。
「家の所有者が誰なのか、どのくらいの時代に建てられたものかというのは、おおよそ記録に残っているものです」
「そうだな。権利やらなにやら、主張の真偽を確かめるには記録の閲覧が手っ取り早いからな」
「……うんうん、そうだよね」
本当は意味がわからなかったが、とりあえず同意しておいた。
「しかし、この家には誰かが用意した家具はあれど、住んでいた者はおらず、建てた人すら不明なのです。そして、冷却効果のある魔術を使っていないにも関わらず、このひんやりとした温度……」
ガイドさんの言うとおり、この家は少し寒い。
窓から日差しが差し込んでいても、まったくその温度を感じないのだ。
昨日、霊が俺の身体を通り抜けたときの感覚と同質のそれ。
しかし、ルーエは意にも介していないようだった。
「ようは雰囲気というやつだろう。脳が錯覚しているだけさ」
「おそらくそうなんだと思います。もしかしたら、昔の人が未来の私たちに向けて残してくれた、粋なプレゼントなのかもですね。そうそう、ここでは記念撮影ができるのですが、いかがですか?」
「ふむ……」
なんとなく、ルーエが言い出すことがわかる。
「この場所には興味がないが、ジオとの思い出は魅力的だ。一枚よろしく頼むぞ」
・
「はーい、隣に並んでいただいて……もう少し距離を詰めて……はい、そこで大丈夫です! それではいきますよ~!」
パシャリという音と共に光が視界を覆い、思わず目を閉じそうになってしまう。
ギリギリ耐えられたと思うが、果たして出来上がりはどうだろうか。
「ジオは写真写りが悪そうだな」
「そうなの……かな? 写真なんて子供の頃にしか撮ったことがないからわからないな」
「なら、私が一歩リードということだな? ……それは喜ばしい」
誰かと何かを競っているらしい。
ともかく、俺たちは写真を撮った。
現像には時間がかかるらしく、その間、二人で街の霊感体験講座とやらを受けてみることにした。
もちろん、幼い頃からカルティアの独特な空気、風習に通じている人間ではないので、特別な技術を身につけられるわけではない。
だが、少しだけ順応できるというか、氷山の一角に触れるような体験はできるそうだ。
「よし、ジオ。頑張るんだぞ」
ここでもルーエの霊嫌いは発揮しているようで、俺だけが体験することになった。
「それでは、始めましょうか」
講師である優しそうなおじいさんの声に従って、瞑想の準備を整える。
正座で座り、目を閉じて精神統一。
何も考えず、視ず、思考を外側の世界へと向けない。
自らの体内に循環する血液や魔力の流れにのみ気を配り、一定間隔で呼吸する。
最初のうちは思考して行っていた呼吸が、徐々に自然にできるようになる。
すると、だんだんと不思議な感覚に陥り始める。
確かに自分の身体はここにあって、独立しているものなのに、世界との境目がなくなっているように感じるのだ。
己の内だけで回っていたものが、外に放出されて……違う、もっと大きな枠組みで動いている。
溶けるような、空気と一体化するような、心地の良さ。
ここで俺は理解した。
霊がすり抜けた時や一軒家で感じた冷気は、カルティア全てに漂っている。
ただ俺が気付いていなかっただけで、全てが「それ」に満ちていた。
「……はい、ここまでです」
聞こえた講師の声。
目を開けると、先ほどまでの感覚はなくなってしまった。
しかし、未知への足がかりを得た。
貴重な体験ができたわけだし、ルーエにも感想を伝えてみよう。
「……俺、さっきまでと少し変わった気がするんだけど、わかる?」
「あぁ、すごく眠そうだ」
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