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おっさんとオカルト観光
ミステリーツアー
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「超自然都市……と呼ばれるだけあって、このカルティアでは不可解な事件が数多く起こっています。ということで今日はミステリーツアーと題しまして、お客様に過去の事件現場をご紹介したいと思います!」
ギョタールさんが手配してくれた街の観光ツアー。
てっきりエドガーさんも付いてくるものと思ったが、彼は自分で行きたいところがあるらしく、俺とルーエの2人での参加となった。
案内役の女性が説明してくれた通り、カルティアでは常軌を逸した事件、惨劇が何度か起きているらしく、大抵の場合、犯人は見つかっていないらしい。
巧妙な手口での犯行か、超常的な力で引き起こされたかは定かではないが、人々はいつしかそれすらもエンターテイメントにしてしまったようだ。
「なぁ、こういうのは平気なのか?」
「実際に見えなければどうということはない。コカローチと一緒だ」
「あれは……一度出たらどこにいるのか気にならない?」
「――それ以上言うんじゃない。そもそも、なにが起こったか知らないが、間違いなく人間や魔族が引き起こしたものだろう。霊が隣に立っているわけでもなし、案外、魔力の足跡が残っているかもしれんぞ?」
昨日と人が違うレベルで余裕をかましているルーエだが、このまま無事に観光ツアーを終えることができるだろうか。
かくして、俺たちは休日……街の不気味な一面の探索を楽しむことになった。
・
「――ということで、ここが幽霊屋敷として伝わる場所でございます」
枯れ葉を踏み締め、最初に訪れたのは幽霊が出ると噂の屋敷だ。
カルティアの街並みは異質というか、奇妙な建物が多く立ち並んでいたが、ここはその中でもさらに独特だった。
一段と古びた建物で、壁は荒れ果ててボロボロだし、窓ガラスは半分くらいが割れている。
最初は周囲の景観に溶け込むような印象を受けたが、よく見てみると対照的で、廃墟という表現がしっくりきた。
ガイドさんと共に屋敷の内部に足を踏み入れると、窓から入り込んできたであろう木の葉や枯れ草が床に散らばっていて、光が差し込んでいるにも関わらず、不安を抱いてしまう。
「夜になったら何も見えませんね……」
「そうですねぇ~。でも、夜間に忍び込んだ人の話によれば、小さな玉のような光がそこかしこに飛んでいて、不思議と周囲が見えるらしいですよ~」
「玉のような光?」
問いかけると、ガイドさんは館の悲劇について解説してくれた。
なんでも、この館には、過去3人の主人がいたらしい。
最初の主人こそが全ての始まりとも言える存在らしく、彼は武器に並々ならない情熱を抱いていた。
自身も過去には名うての鍛治師だったようで、自らの作品や、各地で調達してきた珍しい武器を飾っていたのだとか。
しかし、そのうち一本の刀が呪われていて、主人は徐々に狂気に侵されていき、ついには自ら命を経ってしまった……。
「――それ以降も2人の方が屋敷に住まわれましたが、いずれも最期は……」
恐ろしい話だ。
世界には呪われた武器なんてものがあるのか。
「ち、ちなみに……その刀は回収されたんですか?」
「いえ、屋敷の話が広まり、買い手が見つからなくなってから、刀は姿を消したそうです」
自ら意思を持ち、移動まで可能な刀か……。
「くだらない。そんなもの、作り話に決まっているだろう」
鼻で笑っているルーエ。
やっぱり怖いんじゃないかと彼女に視線を向けると、むっとしたような表情。
「なんだ、信じられないか? なら、私がこの謎を解いてやろう」
ルーエは目を閉じて魔力の流れを探っているようだ。
そして――
「――ちょうどこの下の階だな。ガイド、この下にはなにがある?」
「えっ? い、いえ……ちょうどこの下には何もなく――」
「いや、ある。扉はなくとも空間はあるだろう?」
そう言い、先行する彼女を追っていく。
「ここだな。妙だと思わないか?」
「……確かに、ここだけ不自然だな」
長い廊下には、一定間隔で部屋が設けられている。
しかし、俺たちの目の前の壁だけは扉がない。
「なに、簡単な話だ。見ているがいい」
何もない壁に手をかざしたルーエ。
しばらくすると、その中心に亀裂が入り、開いていく。
「えっ……」
ガイドさんが驚きの声を漏らすのも無理はない。
壁の中には、多くの武器が収められた部屋があったのだから。
「おっと、まだ行くなよ? そうだな……この魔力……」
隠された部屋は明らかになったが、ルーエはいまだに手を引っ込めようとしない。
そして、「そこだな?」と声を発すると同時に、彼女が見ていた位置に立てかけられていた刀が浮き上がり、その手の中に吸い込まれていった。
「ソードミミック。最近ではなかなか珍しい魔物だな。刀に擬態して人間を魅了し、その身体から正気を奪う。最終的には命を奪って隠れるのさ。武器が一人でに動いて人間を襲うなど作り話のようだし、だからこそ正体を悟られにくい。合理的な魔物だな」
世界のどこかには「ミミック」という、宝箱に擬態して冒険者を襲う魔物がいるらしいが、この刀はその近縁にあたる魔物のようだ。
彼女の言う通り合理的な生物のように感じるが、多くの個体は冒険者の武器として使われてつつ、溢れるバイタリティをゆっくりと奪うため、途中で刃こぼれして死んでしまうらしい。
そのため徐々に数を減らし、今では絶滅危惧種なのだとか。
「保管されつつ生気を吸えたこの個体は幸運だったのか……」
「そうだな。簡易的な魔術を使うこともできるし、それで屋敷の扉を隠蔽し、次の主人が来るのを待っていたんだろうよ。ほら、お前も持ってみろ」
ルーエに手渡されたソードミミック。
普通の刀のように重みがあるが、微かに魔力が通っているのを感じる。
生命力を吸ってから持ち主を殺すあたり、単体の戦闘力は低いのだろうか、俺たちには危害を加えようとしない。
「……と、いうことで、一つ謎が解けたようだな。ガイドよ、望むならこいつはこちらで処理するが……どうする?」
得意げなルーエにドン引きしつつ、ガイドさんは「お願いします……」と述べた。
ギョタールさんが手配してくれた街の観光ツアー。
てっきりエドガーさんも付いてくるものと思ったが、彼は自分で行きたいところがあるらしく、俺とルーエの2人での参加となった。
案内役の女性が説明してくれた通り、カルティアでは常軌を逸した事件、惨劇が何度か起きているらしく、大抵の場合、犯人は見つかっていないらしい。
巧妙な手口での犯行か、超常的な力で引き起こされたかは定かではないが、人々はいつしかそれすらもエンターテイメントにしてしまったようだ。
「なぁ、こういうのは平気なのか?」
「実際に見えなければどうということはない。コカローチと一緒だ」
「あれは……一度出たらどこにいるのか気にならない?」
「――それ以上言うんじゃない。そもそも、なにが起こったか知らないが、間違いなく人間や魔族が引き起こしたものだろう。霊が隣に立っているわけでもなし、案外、魔力の足跡が残っているかもしれんぞ?」
昨日と人が違うレベルで余裕をかましているルーエだが、このまま無事に観光ツアーを終えることができるだろうか。
かくして、俺たちは休日……街の不気味な一面の探索を楽しむことになった。
・
「――ということで、ここが幽霊屋敷として伝わる場所でございます」
枯れ葉を踏み締め、最初に訪れたのは幽霊が出ると噂の屋敷だ。
カルティアの街並みは異質というか、奇妙な建物が多く立ち並んでいたが、ここはその中でもさらに独特だった。
一段と古びた建物で、壁は荒れ果ててボロボロだし、窓ガラスは半分くらいが割れている。
最初は周囲の景観に溶け込むような印象を受けたが、よく見てみると対照的で、廃墟という表現がしっくりきた。
ガイドさんと共に屋敷の内部に足を踏み入れると、窓から入り込んできたであろう木の葉や枯れ草が床に散らばっていて、光が差し込んでいるにも関わらず、不安を抱いてしまう。
「夜になったら何も見えませんね……」
「そうですねぇ~。でも、夜間に忍び込んだ人の話によれば、小さな玉のような光がそこかしこに飛んでいて、不思議と周囲が見えるらしいですよ~」
「玉のような光?」
問いかけると、ガイドさんは館の悲劇について解説してくれた。
なんでも、この館には、過去3人の主人がいたらしい。
最初の主人こそが全ての始まりとも言える存在らしく、彼は武器に並々ならない情熱を抱いていた。
自身も過去には名うての鍛治師だったようで、自らの作品や、各地で調達してきた珍しい武器を飾っていたのだとか。
しかし、そのうち一本の刀が呪われていて、主人は徐々に狂気に侵されていき、ついには自ら命を経ってしまった……。
「――それ以降も2人の方が屋敷に住まわれましたが、いずれも最期は……」
恐ろしい話だ。
世界には呪われた武器なんてものがあるのか。
「ち、ちなみに……その刀は回収されたんですか?」
「いえ、屋敷の話が広まり、買い手が見つからなくなってから、刀は姿を消したそうです」
自ら意思を持ち、移動まで可能な刀か……。
「くだらない。そんなもの、作り話に決まっているだろう」
鼻で笑っているルーエ。
やっぱり怖いんじゃないかと彼女に視線を向けると、むっとしたような表情。
「なんだ、信じられないか? なら、私がこの謎を解いてやろう」
ルーエは目を閉じて魔力の流れを探っているようだ。
そして――
「――ちょうどこの下の階だな。ガイド、この下にはなにがある?」
「えっ? い、いえ……ちょうどこの下には何もなく――」
「いや、ある。扉はなくとも空間はあるだろう?」
そう言い、先行する彼女を追っていく。
「ここだな。妙だと思わないか?」
「……確かに、ここだけ不自然だな」
長い廊下には、一定間隔で部屋が設けられている。
しかし、俺たちの目の前の壁だけは扉がない。
「なに、簡単な話だ。見ているがいい」
何もない壁に手をかざしたルーエ。
しばらくすると、その中心に亀裂が入り、開いていく。
「えっ……」
ガイドさんが驚きの声を漏らすのも無理はない。
壁の中には、多くの武器が収められた部屋があったのだから。
「おっと、まだ行くなよ? そうだな……この魔力……」
隠された部屋は明らかになったが、ルーエはいまだに手を引っ込めようとしない。
そして、「そこだな?」と声を発すると同時に、彼女が見ていた位置に立てかけられていた刀が浮き上がり、その手の中に吸い込まれていった。
「ソードミミック。最近ではなかなか珍しい魔物だな。刀に擬態して人間を魅了し、その身体から正気を奪う。最終的には命を奪って隠れるのさ。武器が一人でに動いて人間を襲うなど作り話のようだし、だからこそ正体を悟られにくい。合理的な魔物だな」
世界のどこかには「ミミック」という、宝箱に擬態して冒険者を襲う魔物がいるらしいが、この刀はその近縁にあたる魔物のようだ。
彼女の言う通り合理的な生物のように感じるが、多くの個体は冒険者の武器として使われてつつ、溢れるバイタリティをゆっくりと奪うため、途中で刃こぼれして死んでしまうらしい。
そのため徐々に数を減らし、今では絶滅危惧種なのだとか。
「保管されつつ生気を吸えたこの個体は幸運だったのか……」
「そうだな。簡易的な魔術を使うこともできるし、それで屋敷の扉を隠蔽し、次の主人が来るのを待っていたんだろうよ。ほら、お前も持ってみろ」
ルーエに手渡されたソードミミック。
普通の刀のように重みがあるが、微かに魔力が通っているのを感じる。
生命力を吸ってから持ち主を殺すあたり、単体の戦闘力は低いのだろうか、俺たちには危害を加えようとしない。
「……と、いうことで、一つ謎が解けたようだな。ガイドよ、望むならこいつはこちらで処理するが……どうする?」
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