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おっさんとオカルト都市
小説家再び
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カグヤノムラを出発してからいくつかの都市を渡り歩いたが、何かに導かれるようにしてたどり着いたのがカルティア。
いや、「導かれるようにして」という表現は普通に言いすぎた。
ただ単に、ガイドブックをパラパラめくっていた時に、霊と交信できるとか、絶対に当たる占いとか胡散臭いことが書いてあったから、気になってルーエと共に訪れたのだ。
「気になっているのはジオ、お前だけだけどな」
昨日から泊まっている宿の一室。
難解な文様が描かれたダブルベッドに腰を下ろしながらルーエが言う。
「だいたい、霊なんていう非魔術的なもの、存在するわけがないだろう。先ほどの老婆こそ慧眼を持っていたが、霊ではない」
「そうかね? 俺はあながちいないとは言い切れないと思うが。なんでも、絶対に当たると噂の占い師がいるらしいぞ」
いまだに懐疑的なルーエに言葉を差し込んだのは、青い長髪の男……カルティアで偶然再開したエドガーだった。
「あんたは信じてるんだろ? 非魔術的なあれこれを」
「……まぁ、そうですね。この世界には解明されていないことがたくさんあるだろうし、それを見つけたのがカルティアの人々……かもしれませんよね」
あぁ、と短く返事をして、エドガーさんは手にしている紙に文字を書き始める。
彼はケンフォード王国を出発したあと、小説のネタ探しのために転々としていたらしい。
彼曰く、俺の教え子にも何人か会ったとか。
「そういえば、ルーエ嬢……まだ嬢だよな? まぁいい、良い話があるぞ。今夜、実際に霊を身体に下ろし、交信を図る儀式が街の外れで行われるそうだ。俺も着いていっていいのなら、三人で見物に行かないか?」
「ふん。霊を下ろすなど、似たようなことがケンフォードであったのだろう?」
「いや、あれは悪魔との融合っていうか……。悪魔は目に見えるし、やっぱり霊とは違う……んじゃないか?」
個人的には見にいきたい催しだし、渋るルーエを説得したいんだが、どうにもうまく説明できない。
エドガーさんを見てみると、ちょうど目が合った。
彼はニヤリと口の端を釣り上げて頷く。
「……そういえば、この街には世界中から『求める者』がやって来るらしくてな」
「求める者? ふっ、私には縁のない言葉だな。強者とは常に自分の欲するものを力で――」
「……恋愛成就の効果があるお守りが売ってるとか」
勢いよく立ち上がり身支度を始めるルーエ。
彼女の変わりようをぽかんと見つめていると、呆れ顔をされてしまった。
「なんだ、用意が遅いぞ? 新たな都市に訪れるとは、すなわち新たな見識を得る好機。いくつになっても向上心を忘れたくはないものだな」
「……こ、こいつ……!」
・
宿の外に出ると、ちょうどパフォーマンスが行われていた。
赤と青、黄色の太い筆で描かれた仮面、藁のような植物を外套のように身に纏い、貧相な槍を上下させて歩く団体。
詳しくはないが、彼らはカルティアではシャーマンと呼ばれていて、予言や病の治癒ができるらしい。
「おぉ……! さっそく未知との遭遇だ! 彼らの服装には何か意味があるのか、彼らの使う技術を呪術と呼ぶらしいが、それと関係があるのかもしれない。黙って見ていられないな!」
背後から早口でまくしたてていたエドガーさんは、シャーマンの軍団に突撃していく。
「なぁ、あんたたちは人の病を治すこともできるんだろ? その力の源はなんなんだ!?」
しかし、彼の熱意を受け流すように、シャーマンは踊り、歌を口ずさむ。
「それに未来が見えるそうじゃないか! どうだ、俺の未来は見えるか!?」
こちらもスルーされ、一団は過ぎ去っていく……が、しかし。
最後尾の一人は飛び跳ねながらエドガー目を向けて「オマエ、アトデチョットキケン」と告げた。
「……アトデチョットキケン……どういうことだ? 俺になにかの災いが降りかかるとでも……?」
「ジオ、守ってやらなくていいぞ」
「そうはいかないよ。エドガーさんの新作は俺も楽しみにしてるから」
いただいた本は宝物だとはいえ、俺を作品に出すのはもうやめてほしいけど。
「もちろん、書き上がったら1番に見せるとも。だが、妙だな。ジオほどの男がいるというのに危険とは……やはり彼らには未来を見通す力などないのか?」
首を傾げるエドガーを見つつ、俺たちは街のはずれを目指す。
カルティアの建築物には歴史を感じさせるものが多々あり、それはカグヤノムラとはまた違う方向性のものだった。
石材に独特の妖しい色をつけ、小難しい模様を掘り込んでいる。
これによって不気味さや神秘性が増していて、超自然的な出来事が起こる場所としての説得力を高めているのだろうが、きっと、それ以外にも理由はあるのだと思う。
また、路地裏や暗い通りが多く、これらは一般的な都市では安全性の観点からあまり生じないようにされているのだろうが、こちらでは謎めいた店舗や住居が建ち並んでいた。
日が落ち、徐々に暗くなっていくにつれて、幻想的な街灯やろうそくといった光の装飾が働き始め、人々の影を長く引き伸ばす。
観光客はまだしも、カルティアの住民はみな、それぞれ意味合いのありそうな衣服を着用していて、はるか過去の人みたいだ。
総じて異質な雰囲気を放つ街と言えるだろう。
いや、「導かれるようにして」という表現は普通に言いすぎた。
ただ単に、ガイドブックをパラパラめくっていた時に、霊と交信できるとか、絶対に当たる占いとか胡散臭いことが書いてあったから、気になってルーエと共に訪れたのだ。
「気になっているのはジオ、お前だけだけどな」
昨日から泊まっている宿の一室。
難解な文様が描かれたダブルベッドに腰を下ろしながらルーエが言う。
「だいたい、霊なんていう非魔術的なもの、存在するわけがないだろう。先ほどの老婆こそ慧眼を持っていたが、霊ではない」
「そうかね? 俺はあながちいないとは言い切れないと思うが。なんでも、絶対に当たると噂の占い師がいるらしいぞ」
いまだに懐疑的なルーエに言葉を差し込んだのは、青い長髪の男……カルティアで偶然再開したエドガーだった。
「あんたは信じてるんだろ? 非魔術的なあれこれを」
「……まぁ、そうですね。この世界には解明されていないことがたくさんあるだろうし、それを見つけたのがカルティアの人々……かもしれませんよね」
あぁ、と短く返事をして、エドガーさんは手にしている紙に文字を書き始める。
彼はケンフォード王国を出発したあと、小説のネタ探しのために転々としていたらしい。
彼曰く、俺の教え子にも何人か会ったとか。
「そういえば、ルーエ嬢……まだ嬢だよな? まぁいい、良い話があるぞ。今夜、実際に霊を身体に下ろし、交信を図る儀式が街の外れで行われるそうだ。俺も着いていっていいのなら、三人で見物に行かないか?」
「ふん。霊を下ろすなど、似たようなことがケンフォードであったのだろう?」
「いや、あれは悪魔との融合っていうか……。悪魔は目に見えるし、やっぱり霊とは違う……んじゃないか?」
個人的には見にいきたい催しだし、渋るルーエを説得したいんだが、どうにもうまく説明できない。
エドガーさんを見てみると、ちょうど目が合った。
彼はニヤリと口の端を釣り上げて頷く。
「……そういえば、この街には世界中から『求める者』がやって来るらしくてな」
「求める者? ふっ、私には縁のない言葉だな。強者とは常に自分の欲するものを力で――」
「……恋愛成就の効果があるお守りが売ってるとか」
勢いよく立ち上がり身支度を始めるルーエ。
彼女の変わりようをぽかんと見つめていると、呆れ顔をされてしまった。
「なんだ、用意が遅いぞ? 新たな都市に訪れるとは、すなわち新たな見識を得る好機。いくつになっても向上心を忘れたくはないものだな」
「……こ、こいつ……!」
・
宿の外に出ると、ちょうどパフォーマンスが行われていた。
赤と青、黄色の太い筆で描かれた仮面、藁のような植物を外套のように身に纏い、貧相な槍を上下させて歩く団体。
詳しくはないが、彼らはカルティアではシャーマンと呼ばれていて、予言や病の治癒ができるらしい。
「おぉ……! さっそく未知との遭遇だ! 彼らの服装には何か意味があるのか、彼らの使う技術を呪術と呼ぶらしいが、それと関係があるのかもしれない。黙って見ていられないな!」
背後から早口でまくしたてていたエドガーさんは、シャーマンの軍団に突撃していく。
「なぁ、あんたたちは人の病を治すこともできるんだろ? その力の源はなんなんだ!?」
しかし、彼の熱意を受け流すように、シャーマンは踊り、歌を口ずさむ。
「それに未来が見えるそうじゃないか! どうだ、俺の未来は見えるか!?」
こちらもスルーされ、一団は過ぎ去っていく……が、しかし。
最後尾の一人は飛び跳ねながらエドガー目を向けて「オマエ、アトデチョットキケン」と告げた。
「……アトデチョットキケン……どういうことだ? 俺になにかの災いが降りかかるとでも……?」
「ジオ、守ってやらなくていいぞ」
「そうはいかないよ。エドガーさんの新作は俺も楽しみにしてるから」
いただいた本は宝物だとはいえ、俺を作品に出すのはもうやめてほしいけど。
「もちろん、書き上がったら1番に見せるとも。だが、妙だな。ジオほどの男がいるというのに危険とは……やはり彼らには未来を見通す力などないのか?」
首を傾げるエドガーを見つつ、俺たちは街のはずれを目指す。
カルティアの建築物には歴史を感じさせるものが多々あり、それはカグヤノムラとはまた違う方向性のものだった。
石材に独特の妖しい色をつけ、小難しい模様を掘り込んでいる。
これによって不気味さや神秘性が増していて、超自然的な出来事が起こる場所としての説得力を高めているのだろうが、きっと、それ以外にも理由はあるのだと思う。
また、路地裏や暗い通りが多く、これらは一般的な都市では安全性の観点からあまり生じないようにされているのだろうが、こちらでは謎めいた店舗や住居が建ち並んでいた。
日が落ち、徐々に暗くなっていくにつれて、幻想的な街灯やろうそくといった光の装飾が働き始め、人々の影を長く引き伸ばす。
観光客はまだしも、カルティアの住民はみな、それぞれ意味合いのありそうな衣服を着用していて、はるか過去の人みたいだ。
総じて異質な雰囲気を放つ街と言えるだろう。
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