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おっさんと終焉

鎧の戦士

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 彼らが話し合った作戦はこうだ。
 攻撃魔術の使える3人の冒険者、そしてジオが天降石に攻撃し、ルーエの消滅魔術とミヤの英傑召喚で、砕けて地上に落下してくる破片に対処する。
 時間はかかるだろうが、確実に周辺に被害が及ばないようにするには最適だった。
 タイムリミットはまだ数時間ある。
 砂山の中心に建てられた棒を倒さないよう、少しずつ周囲の砂を削っていくように注意を払えば、きっと切り抜けられる。
 しかし――。

「……だめだ、終わりが見えない……」
「も、もう魔力が……」

 冒険者たちは滝のような汗を流し、今にも倒れそうだ。
 ジオに育てられたミヤや、莫大な魔力を持つルーエはまだまだ底は見えない様子だったが、それでも疲れが顔に浮かんでいる。
 想像よりも天降石が大きいのか、2時間ほど経過したが、削っても削っても一向に小さくならない。

「思ったよりも厳しいね、これは……」
「あぁ、これでは間に合わない。もっと、莫大な破壊力が必要だ。何かないか?」

 その問いに、ジオは少しの間沈黙していたが、やがて口を開く。

「あるにはある。でも、おそらく破片の処理が追いつかなくなると思う」
「そうか……」
 
 天降石を破壊できたとしても、世界が滅びてしまえば本末転倒。
 打つ手がないという事実が、彼らの心に深い影を落とした。
 何をしたところで徒労に終わると分かっているのに、心を折れずに立ち上がれる人間は少ない。
 しかしその時、大勢の人間の足音が、彼らの鼓膜を震わせた。

「いや、やってくれ!」
 
 村の方向へ視線を向けると、そこには避難したはずの村人たちが立っていたのだ。

「や、やっぱり私たちにも手伝わせてください!」
「このまま死ぬくらいなら、俺も最後まで戦うよ!」
「家で埃かぶってた武器を取り出してきたから、少しは役に立てると思う」

 すみませんと、村人たちについていた冒険者が謝罪する。 

「私たちは止めたんですけど、皆さんがどうしてもと……」

 死を目前にして生存本能が呼び覚まされたのか、見ず知らずの人々に未来を背負わせるのに罪悪感を抱いたのか、使い慣れない錆びた武器や、破れかけの魔術書を持ち出す村人たち。
 自分たちの運命を、たとえ滅びしか待っていないとしても、せめて決断したいと思ったのだろう。

「ジオさん、天降石を破壊してください!」
「で、ですが……」
「私たちも命をかけてぶつかります! だから、お願いします!」

 他に方法がないのも確かだった。
 ジオは村人たちに深く頭を下げると、冒険者たちに指示を出す。

「天降石は、私一人で破壊します。ですが、破片を全て片付けることはできません。破片の掃除を任せても良いですか?」

 一人で巨大な隕石を破壊するという現実離れした提案に、冒険者たちは首を傾げそうになったが、ここで立ち止まっても仕方がない。
 元気よく返事をするのを見届けると、続けてジオは、先ほどから掃討に当たっていた二人に声をかける。

「二人は、できるだけ大きな破片に対処してほしい」
「わかった」
「承知いたしました。ですが、お館様は平気なのですか? あれほどの物体を破壊するなど、人間の肉体では……そもそもどのようにして空中に――」

 ミヤの言葉を手で遮る。

「それは……こうするんだよ」

 周囲の地面が盛り上がり、ジオの身体を覆っていく。

「俺もみんなに負けていられないと思ってね、新しい魔術を考えてみたんだ」

 全身を隠すように被さった土が硬質化していき、鋭さを増していく。
 続いて、磨かれた床のように、鏡のように表面が澄んでいった。
 その姿は、さながら鎧を纏った騎士のよう。
 だが、背中には地面に向けるように二本の筒が装備されていて、それだけが異質だった。

「ミヤ、ここに札を詰めてもらってもいい?」

 天降石から身を守れる鎧は手に入れた。
 恩師の意図が不明瞭だったが、作戦の遂行のために何が足りないのかを思考したミヤは、答えに辿り着く。

「わかりました。どうか、お気をつけて」

 左右に5枚ずつ、合計10枚の札が詰められた。
 筒の中で札を発火させ、ジオの身体が宙に浮く。

「おう!」

 天降石目掛けて、鎧の戦士が飛び立った。
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