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おっさんと終焉
証拠
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「ルーエ……って、あのルーエですか!? 白髪で背の高い……」
「もしや、あなた方はルーエ様とお知り合いだったのですか? その通り、ルーエ様は美しい白髪をした背の高い女性だったと聞いております」
驚きで、再び言葉を詰まらせてしまう。
老人が言うことが真実だとすると、つまり、俺たちがダンジョンに行ってから少し後に天降石が落ちてきたことになる。
そして、ルーエはただ一人でそれを食い止めようとして、なんとかカグヤノムラの周辺だけは守り抜き、その他の……マルノーチやケンフォード王国は滅びてしまった。
「えぇ、えぇ。あなたの考えていることはわかります。突然未来の世界に来て、こんなことを言われれば、誰だって信じられません」
俺の顔が歪んでいたのだろう、老人は優しく頷いてくれた。
「な、なんで村がこんなに小さく……もしかして爺さんしか住んでいないってことか?」
ハナオカが老人に問いかける。
「正確には、私と孫だけが生き残りました。夜中になると、周辺にはどこからともなく魔物が現れますし、食料は常に底をつきかけていて、もうすぐ私たちも後を追うことになるでしょう。せめて、孫だけでも――」
そこまで行ったところで、足音が老人に近づいてくる。
「おじいちゃん、誰なのその人たち!? これがおじいちゃんの言ってた時間ナントカってやつ!?」
まだ10ほどの年齢の女の子が老人に抱きつく。
あどけない顔をしていて、背中ほどまで伸ばした髪を、だんご状に結んでいた。
「突然申し訳ない、この子が孫です。見ての通りまだ幼く、この子を残していくことだけが気がかりで……」
「もう、そんな悲しいこと言わないでよ! きっと、今に誰か助けに来てくれるから! そうだよね、おじさんたちが助けてくれるんだよね……?」
少女は俺たちを、縋るような目で見つめる。
「あ、あぁ……そんなに心配することないよ、お嬢ちゃん」
少女の潤む瞳に耐えきれなかったのか、ハナオカは優しく少女の頭を撫でてやる。
だが、俺たちにだけ見えるその顔は、やってしまったと言う後悔に満ちていた。
「会話の途中に申し訳ないのですが、ミヤはまだ、いまいち話を信じられていません。天降石が落ちてきた理由も、何もかもが不明ですから」
「……そうですな。ですが、私たちには何もわからないのです。私たちに残されたのは、あの日に誰かが持っていたと言う書物の切れ端と、口伝された事柄だけ……いえ、もう一つ、証拠と言えるものがあります」
「証拠?」
荒廃した世界という時点で、俺たちは信じる以外の選択肢を持っていないが、まだ他に何かあるようだ。
「とはいえ、あなた方にそれを見せるのは忍びないのですが……それでも良いでしょうか」
老人が何を言いたいのか、いまいち読み取ることができない。
だが、とりあえず頷くと、よろよろと立ち上がり歩き出す彼の後をついていった。
・
「……これが、私の提示できる証拠です」
嘘だろ、という声が胸の中から出てこなかった。
俺と同じように、ミヤも驚きに目を見開いている。
――そこには、水晶のように透き通った、ルーエが立っていた。
天に手を向け、凛々しい表情をしている。
だが、すでにその身体に命は宿っておらず、抜け殻になっていた。
輪郭だけをなぞっていて、身体の中には何もない。
「……ルーエ」
呼びかけても返事はないし、彼女の目が俺の目を見ることもない。
「かれこれ百年間、私たちはルーエ様を守り抜いてきました。もはや助けて差し上げることはできませんが、感謝だけは忘れられることもなく受け継がれてきたのです」
地表に直撃していたら、この世界は跡形もなく消え去っていたのだろう。
それほどの規模の天降石を、俺たち人間は一人で止めることはできない。
彼女が消滅させられるサイズには限度があるし、俺は天降石を破壊できたとしても、きっと周囲に被害が出てしまう。
ルーエは、苦肉の策として、その他全てを犠牲にしてでもこの地を守り抜いたのだ。
一点の陰りもない顔が、どうしてか希望を抱かせた。
「もしや、あなた方はルーエ様とお知り合いだったのですか? その通り、ルーエ様は美しい白髪をした背の高い女性だったと聞いております」
驚きで、再び言葉を詰まらせてしまう。
老人が言うことが真実だとすると、つまり、俺たちがダンジョンに行ってから少し後に天降石が落ちてきたことになる。
そして、ルーエはただ一人でそれを食い止めようとして、なんとかカグヤノムラの周辺だけは守り抜き、その他の……マルノーチやケンフォード王国は滅びてしまった。
「えぇ、えぇ。あなたの考えていることはわかります。突然未来の世界に来て、こんなことを言われれば、誰だって信じられません」
俺の顔が歪んでいたのだろう、老人は優しく頷いてくれた。
「な、なんで村がこんなに小さく……もしかして爺さんしか住んでいないってことか?」
ハナオカが老人に問いかける。
「正確には、私と孫だけが生き残りました。夜中になると、周辺にはどこからともなく魔物が現れますし、食料は常に底をつきかけていて、もうすぐ私たちも後を追うことになるでしょう。せめて、孫だけでも――」
そこまで行ったところで、足音が老人に近づいてくる。
「おじいちゃん、誰なのその人たち!? これがおじいちゃんの言ってた時間ナントカってやつ!?」
まだ10ほどの年齢の女の子が老人に抱きつく。
あどけない顔をしていて、背中ほどまで伸ばした髪を、だんご状に結んでいた。
「突然申し訳ない、この子が孫です。見ての通りまだ幼く、この子を残していくことだけが気がかりで……」
「もう、そんな悲しいこと言わないでよ! きっと、今に誰か助けに来てくれるから! そうだよね、おじさんたちが助けてくれるんだよね……?」
少女は俺たちを、縋るような目で見つめる。
「あ、あぁ……そんなに心配することないよ、お嬢ちゃん」
少女の潤む瞳に耐えきれなかったのか、ハナオカは優しく少女の頭を撫でてやる。
だが、俺たちにだけ見えるその顔は、やってしまったと言う後悔に満ちていた。
「会話の途中に申し訳ないのですが、ミヤはまだ、いまいち話を信じられていません。天降石が落ちてきた理由も、何もかもが不明ですから」
「……そうですな。ですが、私たちには何もわからないのです。私たちに残されたのは、あの日に誰かが持っていたと言う書物の切れ端と、口伝された事柄だけ……いえ、もう一つ、証拠と言えるものがあります」
「証拠?」
荒廃した世界という時点で、俺たちは信じる以外の選択肢を持っていないが、まだ他に何かあるようだ。
「とはいえ、あなた方にそれを見せるのは忍びないのですが……それでも良いでしょうか」
老人が何を言いたいのか、いまいち読み取ることができない。
だが、とりあえず頷くと、よろよろと立ち上がり歩き出す彼の後をついていった。
・
「……これが、私の提示できる証拠です」
嘘だろ、という声が胸の中から出てこなかった。
俺と同じように、ミヤも驚きに目を見開いている。
――そこには、水晶のように透き通った、ルーエが立っていた。
天に手を向け、凛々しい表情をしている。
だが、すでにその身体に命は宿っておらず、抜け殻になっていた。
輪郭だけをなぞっていて、身体の中には何もない。
「……ルーエ」
呼びかけても返事はないし、彼女の目が俺の目を見ることもない。
「かれこれ百年間、私たちはルーエ様を守り抜いてきました。もはや助けて差し上げることはできませんが、感謝だけは忘れられることもなく受け継がれてきたのです」
地表に直撃していたら、この世界は跡形もなく消え去っていたのだろう。
それほどの規模の天降石を、俺たち人間は一人で止めることはできない。
彼女が消滅させられるサイズには限度があるし、俺は天降石を破壊できたとしても、きっと周囲に被害が出てしまう。
ルーエは、苦肉の策として、その他全てを犠牲にしてでもこの地を守り抜いたのだ。
一点の陰りもない顔が、どうしてか希望を抱かせた。
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