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おっさんと終焉
変わる世界
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河童は足をもつれさせて、転けそうになりながらも俺の前に辿り着く。
「あっしのいる階層に食べ物が戻ってきたんです!」
「それは良かったです」
八岐大蛇を倒したことで、ダンジョン内の環境が元に戻ったのだろう。
相変わらず食物が落ちているという現象は謎だが、河童たちが平和に暮らせるのなら良いことだ。
だというのに、河童の顔には焦りが見える。
何かに追われているような、店の売り物をかっぱらったのがバレたような慌てよう。
「皆さんには聞こえなかったかもしれませんが、ダンジョンの外ですごい音がしてたんです! な、なぜか匂いも変わっていて……」
「匂い?」
「へい、ダンジョンの外からは自然の匂いがするんですが、それがぴたりと止んでしまっているんです!」
「……一度外に出てみた方がよろしいですね」
ミヤが言う通り、ダンジョンの外の様子を確認するべきだろう。
周囲を見回すと、落ち着いた様子のミヤの他に、慌てているハナオカと、息を切らしている河童、地面に転がっている箱。
ここで再び何かが起こらないとも限らない。
俺たちは四人で地上に上がることにした。
夜、川、岩場、竹林と、今までの階層を遡っていく。
「あなたはダンジョンの生物なのですか?」
ミヤが河童に問いかける。
「いえ、あっしたちは元は外に住んでいました。んでも、このダンジョンは侵入者がいなければモンスターも出ないし、かなり平和なんで数十年前に住み着いたんです」
「そうでしたか。てっきりあなた方も謎解きの一部なのかと、危うく始末してしまうところでした」
「は、はは……恐ろしいですね……」
もう少し俺が止めるのが遅ければ、河童は紙札で燃やされていただろう。
いや、感電かもしれない。どちらでも結果には違いないが。
「おい、そろそろ外が見えてくる頃だろう。村の奴らが心配だ、先に行くぞ」
村に住んでいるハナオカは、肌で異変を感じ取ったのかもしれない。
徐々に表情が硬くなっていき、俺たちに一言断ると走っていってしまう。
「あ、私もいきますよ!」
しかし、彼一人で行かせるわけにはいかない。
ダンジョンから村までの道のりにモンスターが出現する気はしないが、流石に心配になる。
小走りで彼の後を追いかけるが、意外と足が速くてどんどん先に進んで行ってしまう。
だが、ようやく外の光が差し込んできたというところで、ハナオカは突然足を止めた。
「はあ、はぁ……ハナオカさん?」
呆然と立ちすくむ足が折れて、膝から崩れ落ちる。
「ハナオカさん!? どうしたんですか!?」
「も、もしかして……ワシのせい……なのか……?」
聴覚を強化すると、彼がそんなことを呟いているのが聞こえた。
ようやくへたり込んでいるハナオカに追いつき、背中をさすりながら、彼の視線の先を見る。
「――嘘だろ」
俺たちは森の中にあるダンジョンに入ったはずだ。
しかし、目の前に広がるのは一面の荒野。
緑、と呼べる物はなにもない。
ただひたすらに平らな地面が広がっているだけで、生命の痕跡が感じられなかった。
空には厚い雲が広がり、太陽の光が薄暗い世界を照らしている。
それは希望を感じさせるものではなく、ある種の終焉を示唆しているかのよう。
野生動物の鳴き声や風に揺れる木々の葉、人々が生活を営む音。
何もないのだ。
「……これは、一体……」
「ひ、ひえぇ……時間が巻き戻ったみたいな世界になってます……」
後から追いついたミヤと河童も、この景色を見て絶望を抱いている。
「な、なぁ兄ちゃん……もしかして、ワシがあの箱を開けちまったから、こんな、こんなことになったのか?」
あの箱には魅了の魔術がかかっていたようだったし、普通の人間であるハナオカがそれに操られてしまうのは仕方のないことだ。
だが、俺たちは目の前の世界の変わりように言葉を失い、彼の背中をさすることしかできなかった。
「あっしのいる階層に食べ物が戻ってきたんです!」
「それは良かったです」
八岐大蛇を倒したことで、ダンジョン内の環境が元に戻ったのだろう。
相変わらず食物が落ちているという現象は謎だが、河童たちが平和に暮らせるのなら良いことだ。
だというのに、河童の顔には焦りが見える。
何かに追われているような、店の売り物をかっぱらったのがバレたような慌てよう。
「皆さんには聞こえなかったかもしれませんが、ダンジョンの外ですごい音がしてたんです! な、なぜか匂いも変わっていて……」
「匂い?」
「へい、ダンジョンの外からは自然の匂いがするんですが、それがぴたりと止んでしまっているんです!」
「……一度外に出てみた方がよろしいですね」
ミヤが言う通り、ダンジョンの外の様子を確認するべきだろう。
周囲を見回すと、落ち着いた様子のミヤの他に、慌てているハナオカと、息を切らしている河童、地面に転がっている箱。
ここで再び何かが起こらないとも限らない。
俺たちは四人で地上に上がることにした。
夜、川、岩場、竹林と、今までの階層を遡っていく。
「あなたはダンジョンの生物なのですか?」
ミヤが河童に問いかける。
「いえ、あっしたちは元は外に住んでいました。んでも、このダンジョンは侵入者がいなければモンスターも出ないし、かなり平和なんで数十年前に住み着いたんです」
「そうでしたか。てっきりあなた方も謎解きの一部なのかと、危うく始末してしまうところでした」
「は、はは……恐ろしいですね……」
もう少し俺が止めるのが遅ければ、河童は紙札で燃やされていただろう。
いや、感電かもしれない。どちらでも結果には違いないが。
「おい、そろそろ外が見えてくる頃だろう。村の奴らが心配だ、先に行くぞ」
村に住んでいるハナオカは、肌で異変を感じ取ったのかもしれない。
徐々に表情が硬くなっていき、俺たちに一言断ると走っていってしまう。
「あ、私もいきますよ!」
しかし、彼一人で行かせるわけにはいかない。
ダンジョンから村までの道のりにモンスターが出現する気はしないが、流石に心配になる。
小走りで彼の後を追いかけるが、意外と足が速くてどんどん先に進んで行ってしまう。
だが、ようやく外の光が差し込んできたというところで、ハナオカは突然足を止めた。
「はあ、はぁ……ハナオカさん?」
呆然と立ちすくむ足が折れて、膝から崩れ落ちる。
「ハナオカさん!? どうしたんですか!?」
「も、もしかして……ワシのせい……なのか……?」
聴覚を強化すると、彼がそんなことを呟いているのが聞こえた。
ようやくへたり込んでいるハナオカに追いつき、背中をさすりながら、彼の視線の先を見る。
「――嘘だろ」
俺たちは森の中にあるダンジョンに入ったはずだ。
しかし、目の前に広がるのは一面の荒野。
緑、と呼べる物はなにもない。
ただひたすらに平らな地面が広がっているだけで、生命の痕跡が感じられなかった。
空には厚い雲が広がり、太陽の光が薄暗い世界を照らしている。
それは希望を感じさせるものではなく、ある種の終焉を示唆しているかのよう。
野生動物の鳴き声や風に揺れる木々の葉、人々が生活を営む音。
何もないのだ。
「……これは、一体……」
「ひ、ひえぇ……時間が巻き戻ったみたいな世界になってます……」
後から追いついたミヤと河童も、この景色を見て絶望を抱いている。
「な、なぁ兄ちゃん……もしかして、ワシがあの箱を開けちまったから、こんな、こんなことになったのか?」
あの箱には魅了の魔術がかかっていたようだったし、普通の人間であるハナオカがそれに操られてしまうのは仕方のないことだ。
だが、俺たちは目の前の世界の変わりように言葉を失い、彼の背中をさすることしかできなかった。
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