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おっさんと再会
回想
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なんの外傷も作らず、巨大な木の中に入り込む方法は少ない。
子供なら尚更である。
見たところ、年齢は10になるかどうかというところで、今までに見たことのない独創的な髪型をしていた。
このくらいの歳なら、男女ともに顔立ちにあまり違いは見られず、髪型のせいで、男の子とも女の子ともとれる。
身につけているのはボロボロと呼ぶのが相応しい貧相な布だったが、質感に違和感があった。
好奇心に駆られて布に触れてみるが、刺々しさがなく滑らか。
もしかすると、この子は高貴な家の出身なのかもしれない。
……それにしては、捨てるにしてももう少し品のある格好を、と思ったが、あえてみすぼらしい装いをさせることで、家柄を誤魔化している可能性もあるな。
それとも、この子の出身地の技術が特殊で、どの衣服も触り心地が良いのかもしれない。
とにかく、俺は子供を家に連れ帰ることにした。
手に持っている文字の書かれた長方形の紙と、すやすや眠っている様子が気になったが、危険なことには変わりない。
仮に観光でここに来ているなら、謝った後にまた木の中に戻してやろう。
・
あれから3日が経過した。
連れ帰った子はどうやら女の子のようで、目を覚ましてからの印象は、不思議としか言いようがなかった。
1日目は、起き上がると猫のような目で周囲をキョロキョロと見回していて、俺が声をかけても、首を傾げて返事をしてくれなかった。
共に暮らしている子供たちも同様で、使用言語が違うのではないかと不安になる。
2日目の朝。
自室で目を覚ますと、布団の中に彼女が潜り込んですやすやと眠っていた。
人離れした雰囲気だからか、何故だか背筋のぞっとした俺は彼女を起こし、話しかけてみることにした。
すると、昨日とは違ってぽつぽつと返事がくる。
彼女の名前は「ミヤ」というらしく、まだ詳しい事情は理解していないようだったが、やはり捨て子だった。
また、出身の話を聞いてみるが、内容から察するにかなり遠いところだ。
つまり、このまま山の麓まで送って行っても野垂れ死ぬだけ。
彼女に了解を得て、この山で育てることにした。
3日目からは徐々に口数も増えていき、他の子供達ともコミュニケーションをとるようになる。
しかし――。
「ふあぁ……今日は腰が痛いなぁ。心なしか身体も重いし……って何やってんの!?」
「おはようございます、お館様。今日は一段と冷えると思いましたので、私が温めて差し上げようかと。人肌こそがいちばんの温もりであると、先日、本で学びました」
「今は夏だしそんなことを書いてる本は持ってないよ!?」
一年、二年と共に過ごしていくうちにスキンシップが激しくなっていき――。
「いやぁいい湯だ。こうして風呂に入ることで肉体の疲れをとって、美しい月を見て精神的な……ん? 妙にブクブク……おおお!?」
「お疲れ様でございます、お館様。ミヤがお背中を流して差し上げようかと思い――」
「もう身体洗ってるんだわ! 早く出なさい!」
ということで、彼女がいる間は油断ならない毎日だった。
だが、子供成長は早いもので、元から要領の良かったミヤは立派に成長したのだ。
そのため人里に降りてもらうことになったのだが――。
「……ぐすっ。手のかかることほど可愛いってよく言ったもんだよ。ミヤ、外に行っても元気でいるんだぞ……」
「もちろんですお館様。それでは花嫁修行の旅に出て参ります」
「え、それだけ!? もう姿見えなくなってるね!?」
辛そうなのは俺だけで、ミヤはケロッとした顔で去って行ってしまった。
うんうん、俺もまだまだ捨てたもんじゃないな。
こうやって過去のことも思い出せているし、実はそんなにおっさんじゃないのかもしれない。
温泉で疲れもとったし、老化かと思ったら過労か?
お、今のはなかなか良い洒落が……っていうか俺の身体、揺れてない?
子供なら尚更である。
見たところ、年齢は10になるかどうかというところで、今までに見たことのない独創的な髪型をしていた。
このくらいの歳なら、男女ともに顔立ちにあまり違いは見られず、髪型のせいで、男の子とも女の子ともとれる。
身につけているのはボロボロと呼ぶのが相応しい貧相な布だったが、質感に違和感があった。
好奇心に駆られて布に触れてみるが、刺々しさがなく滑らか。
もしかすると、この子は高貴な家の出身なのかもしれない。
……それにしては、捨てるにしてももう少し品のある格好を、と思ったが、あえてみすぼらしい装いをさせることで、家柄を誤魔化している可能性もあるな。
それとも、この子の出身地の技術が特殊で、どの衣服も触り心地が良いのかもしれない。
とにかく、俺は子供を家に連れ帰ることにした。
手に持っている文字の書かれた長方形の紙と、すやすや眠っている様子が気になったが、危険なことには変わりない。
仮に観光でここに来ているなら、謝った後にまた木の中に戻してやろう。
・
あれから3日が経過した。
連れ帰った子はどうやら女の子のようで、目を覚ましてからの印象は、不思議としか言いようがなかった。
1日目は、起き上がると猫のような目で周囲をキョロキョロと見回していて、俺が声をかけても、首を傾げて返事をしてくれなかった。
共に暮らしている子供たちも同様で、使用言語が違うのではないかと不安になる。
2日目の朝。
自室で目を覚ますと、布団の中に彼女が潜り込んですやすやと眠っていた。
人離れした雰囲気だからか、何故だか背筋のぞっとした俺は彼女を起こし、話しかけてみることにした。
すると、昨日とは違ってぽつぽつと返事がくる。
彼女の名前は「ミヤ」というらしく、まだ詳しい事情は理解していないようだったが、やはり捨て子だった。
また、出身の話を聞いてみるが、内容から察するにかなり遠いところだ。
つまり、このまま山の麓まで送って行っても野垂れ死ぬだけ。
彼女に了解を得て、この山で育てることにした。
3日目からは徐々に口数も増えていき、他の子供達ともコミュニケーションをとるようになる。
しかし――。
「ふあぁ……今日は腰が痛いなぁ。心なしか身体も重いし……って何やってんの!?」
「おはようございます、お館様。今日は一段と冷えると思いましたので、私が温めて差し上げようかと。人肌こそがいちばんの温もりであると、先日、本で学びました」
「今は夏だしそんなことを書いてる本は持ってないよ!?」
一年、二年と共に過ごしていくうちにスキンシップが激しくなっていき――。
「いやぁいい湯だ。こうして風呂に入ることで肉体の疲れをとって、美しい月を見て精神的な……ん? 妙にブクブク……おおお!?」
「お疲れ様でございます、お館様。ミヤがお背中を流して差し上げようかと思い――」
「もう身体洗ってるんだわ! 早く出なさい!」
ということで、彼女がいる間は油断ならない毎日だった。
だが、子供成長は早いもので、元から要領の良かったミヤは立派に成長したのだ。
そのため人里に降りてもらうことになったのだが――。
「……ぐすっ。手のかかることほど可愛いってよく言ったもんだよ。ミヤ、外に行っても元気でいるんだぞ……」
「もちろんですお館様。それでは花嫁修行の旅に出て参ります」
「え、それだけ!? もう姿見えなくなってるね!?」
辛そうなのは俺だけで、ミヤはケロッとした顔で去って行ってしまった。
うんうん、俺もまだまだ捨てたもんじゃないな。
こうやって過去のことも思い出せているし、実はそんなにおっさんじゃないのかもしれない。
温泉で疲れもとったし、老化かと思ったら過労か?
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