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おっさんと戦い
目論見
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シャーロットが王の間に辿りついた時、ジオは既にその場に到着していた。
王は腰を抜かしているものの無事で、隣には見覚えのある貴族が寝ている。
そして、ジオが対面しているのはナイトリッチという影が薄いながらも切れ物だと噂の貴族と……。
――息も絶え絶えで力尽きようとしている獣だった。
・
「シャーロット! 王様とウォリックさんを連れて外へ!」
誰かがこの場に来たということに、呼吸の音で気がついた。
それが自分に攻撃してこないということで、そして外の惨状に負けていないということでシャーロットだと当たりをつける。
「わかりました! 先生、あとは任せます!」
聞き覚えのある凛とした声に安心する。
未だに視線はナイトリッチから外せないが、迅速にシャーロットが二人を逃すのは伝わった。
これで心配事が減った。
「……困りましたね。あなたを殺したあと、鬼ごっこをしなければなりません」
「余裕をかましているようだけど、頼みの駒は倒されちゃったよ?」
頼みの駒というのは、もちろんブラッドウルフのことだ。
一度戦った事があるのもあって、この獣の動きを止めるのは簡単だった。
既に死したものを攻撃するのは心が痛む。
なぜなら、死んでいるが故に心臓を潰しても活動をやめないからだ。
その四肢を折って、ようやくブラッドウルフは静かになった。
自らこの場に出向いている以上、ナイトリッチもなかなかの実力者なのだろう。
だが、機動力や冷酷さで人間を凌駕するブラッドウルフが役に立たなくなった今、彼は俺に止められることになる。
俺と魔物の戦いは一分かそこらだったが、その間に何もしなかった油断が敗因だ。
そうだとわかっているはずなのに、ナイトリッチは余裕の笑みを崩さない。
「……いやいや、まさかここまで強いとは思いませんでしたよ。ブラッドウルフに関しても、多くの実験によって生前よりもはるかに強くなっているはずなのですがね」
「失敗したんじゃないのか? 生き物の命を利用した実験なんてろくなもんじゃない」
人間に被害を与えたからと言って、死んだ後まで身体を弄られるのは忍びない。
「……それはそれは、平和主義で結構」
「平和に越したことはないだろ」
「私も同感です。なので、私は王になり変わってこの国を支配しようと思ったのですよ」
「……支配?」
ナイトリッチはジャケットの裾をはたきながら言葉を続ける。
「えぇ。今ある制度を利用し、さらに多くの利益を得るのが私たちの理念でしてね。今の王では貴族を屈服させることはできないので、代わりに私が……ということですよ」
「ということですよって、田舎者の俺に理解できるわけがないだろう」
言っていて恥ずかしい気持ちもあったが、事実だ。
「なら引き下がってはくれませんか?」
「……それはできない。エドワード王は善い人に見えるし、教え子も良くしてもらっている。フォックスデンにも将来有望そうな若者がいるからな。俺は部外者だが、彼らの未来を守りたいと思う」
正直、一つの国がどうなるとか、そういうことに興味はない。
人間は醜いという経験が染み付いているからだ。
……だが、俺が関わってきた人たちや、自分の子供のような存在に同じ思いはしてほしくない。
ひっそりと暮らしてきた俺だが、一度外に出た以上、少しくらいは良いことをしたい。
だから戦うのだ。
「……やはりそうですか。では、実験の最終段階を行いましょうか」
「最終段階?」
ナイトリッチが手をかざすと、彼とブラッドウルフの足元に魔法陣が出現する。
それは禍々しい気を放っていて、とても人間が使う魔術とは――。
「――おい、そんなことしたら!」
俺が言い切る前に周囲は光に包まれた。
水と油のように、本来混ざり合わないものが一つになる感覚。
内臓が浮くような気味の悪さ。
目を開けると、そこにいたのは――。
「――はあぁ……。もう少し痛むかと思いましたが、かなり馴染みますね」
赤い皮膚の魔人だった。
王は腰を抜かしているものの無事で、隣には見覚えのある貴族が寝ている。
そして、ジオが対面しているのはナイトリッチという影が薄いながらも切れ物だと噂の貴族と……。
――息も絶え絶えで力尽きようとしている獣だった。
・
「シャーロット! 王様とウォリックさんを連れて外へ!」
誰かがこの場に来たということに、呼吸の音で気がついた。
それが自分に攻撃してこないということで、そして外の惨状に負けていないということでシャーロットだと当たりをつける。
「わかりました! 先生、あとは任せます!」
聞き覚えのある凛とした声に安心する。
未だに視線はナイトリッチから外せないが、迅速にシャーロットが二人を逃すのは伝わった。
これで心配事が減った。
「……困りましたね。あなたを殺したあと、鬼ごっこをしなければなりません」
「余裕をかましているようだけど、頼みの駒は倒されちゃったよ?」
頼みの駒というのは、もちろんブラッドウルフのことだ。
一度戦った事があるのもあって、この獣の動きを止めるのは簡単だった。
既に死したものを攻撃するのは心が痛む。
なぜなら、死んでいるが故に心臓を潰しても活動をやめないからだ。
その四肢を折って、ようやくブラッドウルフは静かになった。
自らこの場に出向いている以上、ナイトリッチもなかなかの実力者なのだろう。
だが、機動力や冷酷さで人間を凌駕するブラッドウルフが役に立たなくなった今、彼は俺に止められることになる。
俺と魔物の戦いは一分かそこらだったが、その間に何もしなかった油断が敗因だ。
そうだとわかっているはずなのに、ナイトリッチは余裕の笑みを崩さない。
「……いやいや、まさかここまで強いとは思いませんでしたよ。ブラッドウルフに関しても、多くの実験によって生前よりもはるかに強くなっているはずなのですがね」
「失敗したんじゃないのか? 生き物の命を利用した実験なんてろくなもんじゃない」
人間に被害を与えたからと言って、死んだ後まで身体を弄られるのは忍びない。
「……それはそれは、平和主義で結構」
「平和に越したことはないだろ」
「私も同感です。なので、私は王になり変わってこの国を支配しようと思ったのですよ」
「……支配?」
ナイトリッチはジャケットの裾をはたきながら言葉を続ける。
「えぇ。今ある制度を利用し、さらに多くの利益を得るのが私たちの理念でしてね。今の王では貴族を屈服させることはできないので、代わりに私が……ということですよ」
「ということですよって、田舎者の俺に理解できるわけがないだろう」
言っていて恥ずかしい気持ちもあったが、事実だ。
「なら引き下がってはくれませんか?」
「……それはできない。エドワード王は善い人に見えるし、教え子も良くしてもらっている。フォックスデンにも将来有望そうな若者がいるからな。俺は部外者だが、彼らの未来を守りたいと思う」
正直、一つの国がどうなるとか、そういうことに興味はない。
人間は醜いという経験が染み付いているからだ。
……だが、俺が関わってきた人たちや、自分の子供のような存在に同じ思いはしてほしくない。
ひっそりと暮らしてきた俺だが、一度外に出た以上、少しくらいは良いことをしたい。
だから戦うのだ。
「……やはりそうですか。では、実験の最終段階を行いましょうか」
「最終段階?」
ナイトリッチが手をかざすと、彼とブラッドウルフの足元に魔法陣が出現する。
それは禍々しい気を放っていて、とても人間が使う魔術とは――。
「――おい、そんなことしたら!」
俺が言い切る前に周囲は光に包まれた。
水と油のように、本来混ざり合わないものが一つになる感覚。
内臓が浮くような気味の悪さ。
目を開けると、そこにいたのは――。
「――はあぁ……。もう少し痛むかと思いましたが、かなり馴染みますね」
赤い皮膚の魔人だった。
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