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おっさんと戦い

駆け引き

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 生物本来の性能では圧倒的に優っていて、片手でも捻り潰せるであろう相手。
 そんな貧弱な存在の纏う闘気が色濃くなったのを、トロルキングは本能的に理解した。
 どのような理由があっての変化か知る由もないが、攻め気を強く見せた相手は防御が疎かになる。
 つまり、肉弾戦において圧倒的な攻撃力・防御力を誇る魔物にとっては願ってもない好機。
 殺した人間の血肉を喰らってさらに強くなることができると、トロルキングは加虐的な笑みを浮かべる。

「――行くぞッ!」

 炎を噴かしてシャーロットは接近する。
 光明を見出した騎士の動きに迷いはなく、カウンターで攻撃を喰らうことも恐れずに突っ込む。
 性格で鋭い槍の一撃をトロルキングは身体に似合わぬ軽快な動きで躱し、それができなかった時でも急所を外して受けた。
 反対に魔物の攻撃は大盾で防がれてしまう。
 片手では吹き飛ばされてしまうが、両足に力を込めれば十分耐え切ることができる。
 決着までそう遠くないとたかをくくっていたトロルキングは苛立たし気に攻撃を強める。

「……はっ。闇雲に攻撃していても私の守りは崩せないぞ?」

 言葉の意味は分からなかったが、この人間が自分を馬鹿にしていることは理解できる。
 魔物はさらに激昂し、全力で腕を振り下ろしていく。
 しかし、これは凶暴な魔物の演技だった。
 力一辺倒な魔物だと認識され、小癪な策を弄されてきたトロル時代。
 その頃から生き抜き、いつからか身につけていた技術だった。
 怒っているのは外見だけで、その内面は至って冷静。
 トロルキングはシャーロットに打撃を加えるたびに盾の破損具合を確認し、鎧が軋む音を聞いていた。
 そして、気付く。相手に弱点が発生していることを。
 炎の噴射による軌道修正は厄介だ。
 当たると思って繰り出した攻撃を避けられ、それによって生まれた隙を突かれてしまう。
 相手が動くであろう方向を狙ってみても、数々の戦いを潜り抜けたシャーロットに察知されてしまう。
 このちょこまかとした動きを封じなければ、いずれ敗北するのは自分だ。
 とはいえ、時間がかかるためにナイトリッチの目的は達成されるのだが……あいにくトロルキングはここで死ぬつもりはなかった。
 もっと多くの人間を、それだけではなく他の生き物をも殺し尽くし、自分の帝国を作る。
 それがトロルキングの脳裏にうっすらと浮かぶ理想だった。
 一介の魔物には不釣り合いな夢を持ったからだろうか、魔物は騎士の鎧の綻びに気がついた。
 先ほどからシャーロットは、右肘から炎の噴射を行っていないのだ。
 左右への動きのうち半分が抑制されれば、はるかに楽に攻撃を命中させられる。
 やはり勝利は目前だった。

「もうお前の動きは覚えた。これで決めさせてもらうぞ!」

 シャーロットは腹や足に攻撃を集中させていた。
 それにはもちろん、出血や下半身へのダメージから機動力を落とす目論みはあったが、真に狙っていたのは違う理由からだった。
 最大出力で噴射した炎が、シャーロットの身体を認識不可能なレベルに加速させる。
 さらに、意識を下へと集中させてから、トロルキングの目に急激に切先を向けた。

「終わりだ!」

 再三に渡って足を攻撃したことで、トロルキングは完全に意識を下へと向けている。
 この状態で目を突けば、通常の魔物ならまず間違いなく防ぐことはできない。
 ……だが、それは「通常の魔物」の話だ。
 頭蓋骨を突き破る勢いで放たれた一撃は空を切り、刹那の間にトロルキングの姿が消えていた。
 そして、燃え盛る炎に照らされていたシャーロットの姿が影に隠れる。
 
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