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おっさんと戦い

誘導

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 炎の噴射による軌道変更。
 長槍を軽々と片手で振り回す剛力。
 シャーロットの怒涛の連撃は常人では避けることすら困難なものだったが、男は宙を蹴って悠々と躱していく。

「騎士団長。侮っていたわけではありませんが、視野が広いですね」
「王の命を狙うものはさぞ傲慢なのだろうと思ってな! そういうやつは高所を好む!」

 ナイトリッチが呟くように口を動かすと、彼の周囲から小さな魔法陣が10ばかり出現する。

「あなたは謙虚なのですかな?」

 それぞれの魔法陣から光弾が連射され、シャーロットめがけて飛んでいく。
 しかし、彼女が槍を身体の前で回転させることで、そのことごとくが威力を失った。

「貴様に比べれば幾分かはな! すでに王には騎士団の護衛を付け、貴族たちも避難を始めている。大人しく帰るがいい」

 魔物が現れたという報を聞くと、シャーロットは迅速に部下へ指示を出した。
 まだ経験の浅いジャレッドらは貴族を避難させ、実力者は王の護衛。
 最も強い自身は残りの団員を引き連れ、侵入を試みてくるであろう魔物の迎撃に当たる。
 そうして城外で魔物を食い止めつつ、シャーロットは周囲の様子を探る。
 城下を埋め尽くさんばかりの魔物が大挙して攻めてくるとは考えられない。
 ジオがマルノーチを救ったことは知っていたが、あれは例外中の例外だろう。
 であれば、今回の侵攻は何者かによって引き起こされているはず。
 目的は?
 もちろん王の命を奪うことだろう。
 国内に混乱を招くためか、自らが政権を奪取するためか。
 どちらにせよ、その目的を達成させるわけにはいかない。
 そうして気を入れ直した彼女は、犯人が周囲の様子を把握し易い場所を考え、その結果空中に浮遊するナイトリッチを見つけたのだ。

「ふむ。逃げられるのは問題にはならないが、餌が散らばるのは効率的ではない。少々急ぐとしようか」
「そう簡単に逃すと思うか?」
「書の守護者の教え子は厄介極まりないな。仕方ない、かかってくるといい」

 言葉が終わる前にシャーロットは発進していた。
 先ほどを上回る速度で攻撃を加えていく。
 突きや薙ぎ払いだけでなく、戦闘に必要な部位を的確に狙う。

「避けているばかりでは計画が頓挫してしまうぞ?」

 しかし、彼女がいくら攻めてみても、わざと隙を作ってみてもナイトリッチは反応しない。
 ただ避けるばかりで、後方に距離を取るばかりで城からはどんどん遠ざかっていた。
 気がつくと高度も下がっていて、周囲の建物と同じ目線。

「私はこのままでも構わないが、どうする?」
「なに、これは天秤にかけただけのことだよ」
「……何が言いたい?」

 怪訝な顔をするシャーロットを前に、男は余裕を崩さない。

「君を倒すまでの時間と、予備に用意していた魔物の場所まで誘導するまでの時間。どちらが効率が良いのかということさ」
「――予備だと!?」

 ナイトリッチが指を弾くように鳴らすと、シャーロットのすぐ後ろにあった建物が弾け飛んだ。
 出現したのは巨大な魔物。
 魔物は手にしている武器で、対応が遅れたシャーロットを殴り飛ばした。
 彼女は凄まじい勢いで吹き飛ばされて民家に突っ込む。

「もちろんこの程度で死ぬとは思っていない。だが、私を止めるにはこの魔物を倒さねばならず、その頃には既に私が王に成り代わっている」
「……くっ、待て……!」
「それではさようなら、若き騎士団長。謙虚な貴女にはそこがお似合いですよ」

 シャーロットが起き上がり、再び槍を手にした時には男の姿は見えなくなっていた。
 そして、彼女へ先へは行かせないと言わんばかりに巨大な魔物が立ち塞がった。

「……あまり時間はかけていられないな。先生、見ていてください」
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