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おっさんと戦い

勝利

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 魔人を跡形もなく消し飛ばしたルーエ。
 フォックスデンへ戻った彼女を出迎えたのはロジャーだけではなかった。

「……おい! ジオの嫁が戻ってきたぞ!」

 村人の避難を手伝いながら生き延びたエドガー。
 彼の言葉を聞いて、周囲の人間たちが一斉に声を上げる。

「あなたがあの恐ろしい魔人を倒してくれた方ですか!?」
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「美しい……長生きはしてみるもんじゃな」
「強く美しく、女神のようなお方だ!」
「お……おお…………?」

 四方八方から浴びせられる賛辞の言葉に戸惑うルーエ。
 反対にジオと縁深い者たちは満足げな顔をしていた。

「村の窮地を救ってくださった守り神様……銅像など建ててみても良いかもしれませんね」
「村長もたまには良いこと言うじゃないか。俺も彼女を讃える詩を紡ごう。そしてそれを次作の頭に持ってくることで注目を……おっと」
「では私は教会にルーエさんの……」
「なんだその謎の盛り上がりは!? というか傷は大丈夫なのか!?」

 よく見ればエドガーは身体のあちこちに傷を負っていた。
 実際は彼が駆け出してからすぐ魔物は殲滅されたため、全て転んでできた傷なのだが、見てくれだけは立派な戦士に見える。
 ロジャーに関しては決死の戦いを行っていたわけだし、攻撃の直撃こそ避けられたものの、魔人の瘴気に当てられている可能性がある。
 倒しこそすれ、まだまだ余力のあったルーエからすると二人の方が重症なのだ。

「俺は大丈夫だ。見ての通り右手は守り切ったし、日頃の運動不足も解消できたからな」
「あはは。逆に健康に悪そうですけどね、それ。私も筋肉痛くらいで大事はないです」
「怪我人こそいるが村から死者は出ていないそうだ。紛れもない俺たちの功績だよ」
「そ、そうか。それは良いことだが……」

 彼女を取り囲む村人の熱気は収まらない。

「あなたのお陰で逃げ遅れていた私の父も助かりました。本当にありがとうございます」
「いや、助け出したのは俺だけどな?」
「崩れた家に巻き込まれそうになったワシを救ってくださったのぅ……」
「いや、爺さんを抱き抱えて転がったのも俺だけどな?」
「俺が今まさに魔物に殺されるって時に助けてくださって……命の恩人です!」
「いや、それも……俺ではないな。ペンより重いものを持てないからな俺は」
「私だな」
「普段から農作業を手伝ってくださって、おかげで今年は冬を越せそうです」
「もちろん俺じゃないぞ」
「……私でもないぞ?」
「あ、すみませんジオさんのことでした。まぁでも、夫が良く在れるのも妻のおかげということで」
「なら女神様の功績もジオさんのものになるな! あの人の銅像も作っちまうか!」
「グッズを作れば観光客も増えて栄えるんじゃないか?」
「そうですね。では私はステンドグラスにお二方の……」
「なんでお前は村人側にいるんだ!?」
 
 曲がりなりにもルーエは魔王である。
 そんな彼女が銅像だのなんだのともてはやされていて、面倒なことになったと言いたげにため息をつく。

「……勝利のムードですっかり頭から抜け落ちていたが、あいつは大丈夫なんだろうか?」
「そうでした。ジオさんのことだから無事だとは思いますが……心配ですね」

 遠く離れたフォックスデンから王都の様子は確認できない。
 高く聳える城門が内部の様子を隠していたからだ。
 しかし数分後。
 手のひらに収まるほどの街から黒い煙が上がっているのを彼らは目撃した。
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