69 / 154
おっさんと戦い
特訓
しおりを挟む
その後もジオとロジャーの修行は続いていた。
賢者の手によって地面から勢いよく飛び出してくる土の柱たち。
一本、二本と副牧師は柱を躱していくが、不意打ちのように近くの木の幹から発射されたものが肩を擦り、コマのように吹き飛ばす。
「――くうっ! はぁ……はぁ……」
「大丈夫!? ちょっと無理させちゃったみたいだね。少し休もうか」
特訓のためとはいえ、自分の魔術で人を傷つけるのは辛いのだろう。
ジオは五体投地して呼吸を整えているロジャーに近づいて手を差し出す。
「ありがとうございます……でも」
立ち上がったロジャー。
彼の目は疲労を感じさせるどころか、さらに闘志が燃え上がっているようだった。
「……それじゃあもう一本行ってみようか!」
「はい!」
再び勢いよく射出される柱。
先ほど以上の速度、繊細さでロジャーは避けていく。
「いやぁ……若いっていいなぁ」
「わかるよ。俺はまだ26だが、近頃急激に体力が落ちてきたと感じてね」
近くで特訓を見守っていたエドガーが答える。
「それ、40近くでもう一回来ますよ。エドガーさんも特訓してみます?」
「やめておくよ。手を怪我したら執筆に支障が出るし、そもそも俺が一本でも避けられると思うか?」
小説家に運動は必要ない……そう思われることが多いようだが、実際は取材や執筆に莫大な体力を使う。
そのため、エドガーも日頃から軽い運動はしているが、やはり若者や勇者と比べるとないも同然。
自嘲気味な言葉に、ジオは苦笑いするしかなかった。
「なら私がやるとしよう」
どのタイミングから見ていたのかは不明だが、ルーエがジオ式特訓に名乗り出る。
「いやルーエは余裕でしょ……」
「こういうのは行為に意味があるんだ。二人で苦楽を共にすれば仲も深まるというもの」
「それはそうかもだけどね? また時間がある時にしようね」
悔しそうに舌打ちし、彼女は消えていった。
・
「ジオさん、全部避けられるようになりましたよ!」
本来の仕事があるためまとまった時間を取ることは難しいが、陽が落ちかけた頃、ついにロジャーは全ての柱を躱せるようになった。
「よく頑張ったね! 途中からプレッシャーもかかってただろうに」
「そ、そうなんですか?」
彼は気づいていなかったようだが、やはり何日も過酷な特訓を続けていると噂が立ってしまう。
この日も数人の村人が陰ながらロジャーの特訓を覗いていた。
彼らは日頃からロジャーの副牧師としての仕事ぶりを知っているため、誰もが好意的な視線を送っていた。
だが、噂のよくないところは誰彼構わず伝ってしまうところで、フォックスデンで唯一彼に警戒心を抱いている人物の耳にも入ってしまったようだ。
・
「なぁ、最近ロジャーさんがジオさんと何かやってるみたいだぜ」
「そうなの? いいなぁ、俺も仕事ばっかりじゃ飽きちゃうから会いに行ってみようかなぁ」
「そうするか! でも、今は忙しそうだしまた今度だな」
珍しく教会の庭掃除をしていたトマスはぴたりと足を止めた。
「……あいつが書の守護者と……?」
鈍く、自分の「仕事」にばかり目を向けていた彼であっても、近頃ロジャーが何かしていることには気付いていた。
しかし、牧師としての勤めもほどほど、半ば放棄して贅の限りを尽くしているトマスにはその理由が推し量れず、女でもできたのだろうという主観的な結論に達したのだ。
だからこそ、今の今まで意にも介さずにいたのだが……。
「こ、これはまずいのでは……? いや、たとえあいつが戦えるようになったとしてもせいぜい村周辺の魔物を蹴散らす程度……私たちの計画の邪魔にはならないはず」
足を止め、もう一度声が聞こえてこないか待ってみるものの、噂をしていた村人たちはすでに立ち去ってしまったようだった。
「そもそも、多少の邪魔は入るという前提だったはず。なら大丈夫だ! よし、よし!」
自分に言い聞かせるように呟く。
「……でも、一応あの方に報告しておかなくては。私たちの時代のため、そのために……」
賢者の手によって地面から勢いよく飛び出してくる土の柱たち。
一本、二本と副牧師は柱を躱していくが、不意打ちのように近くの木の幹から発射されたものが肩を擦り、コマのように吹き飛ばす。
「――くうっ! はぁ……はぁ……」
「大丈夫!? ちょっと無理させちゃったみたいだね。少し休もうか」
特訓のためとはいえ、自分の魔術で人を傷つけるのは辛いのだろう。
ジオは五体投地して呼吸を整えているロジャーに近づいて手を差し出す。
「ありがとうございます……でも」
立ち上がったロジャー。
彼の目は疲労を感じさせるどころか、さらに闘志が燃え上がっているようだった。
「……それじゃあもう一本行ってみようか!」
「はい!」
再び勢いよく射出される柱。
先ほど以上の速度、繊細さでロジャーは避けていく。
「いやぁ……若いっていいなぁ」
「わかるよ。俺はまだ26だが、近頃急激に体力が落ちてきたと感じてね」
近くで特訓を見守っていたエドガーが答える。
「それ、40近くでもう一回来ますよ。エドガーさんも特訓してみます?」
「やめておくよ。手を怪我したら執筆に支障が出るし、そもそも俺が一本でも避けられると思うか?」
小説家に運動は必要ない……そう思われることが多いようだが、実際は取材や執筆に莫大な体力を使う。
そのため、エドガーも日頃から軽い運動はしているが、やはり若者や勇者と比べるとないも同然。
自嘲気味な言葉に、ジオは苦笑いするしかなかった。
「なら私がやるとしよう」
どのタイミングから見ていたのかは不明だが、ルーエがジオ式特訓に名乗り出る。
「いやルーエは余裕でしょ……」
「こういうのは行為に意味があるんだ。二人で苦楽を共にすれば仲も深まるというもの」
「それはそうかもだけどね? また時間がある時にしようね」
悔しそうに舌打ちし、彼女は消えていった。
・
「ジオさん、全部避けられるようになりましたよ!」
本来の仕事があるためまとまった時間を取ることは難しいが、陽が落ちかけた頃、ついにロジャーは全ての柱を躱せるようになった。
「よく頑張ったね! 途中からプレッシャーもかかってただろうに」
「そ、そうなんですか?」
彼は気づいていなかったようだが、やはり何日も過酷な特訓を続けていると噂が立ってしまう。
この日も数人の村人が陰ながらロジャーの特訓を覗いていた。
彼らは日頃からロジャーの副牧師としての仕事ぶりを知っているため、誰もが好意的な視線を送っていた。
だが、噂のよくないところは誰彼構わず伝ってしまうところで、フォックスデンで唯一彼に警戒心を抱いている人物の耳にも入ってしまったようだ。
・
「なぁ、最近ロジャーさんがジオさんと何かやってるみたいだぜ」
「そうなの? いいなぁ、俺も仕事ばっかりじゃ飽きちゃうから会いに行ってみようかなぁ」
「そうするか! でも、今は忙しそうだしまた今度だな」
珍しく教会の庭掃除をしていたトマスはぴたりと足を止めた。
「……あいつが書の守護者と……?」
鈍く、自分の「仕事」にばかり目を向けていた彼であっても、近頃ロジャーが何かしていることには気付いていた。
しかし、牧師としての勤めもほどほど、半ば放棄して贅の限りを尽くしているトマスにはその理由が推し量れず、女でもできたのだろうという主観的な結論に達したのだ。
だからこそ、今の今まで意にも介さずにいたのだが……。
「こ、これはまずいのでは……? いや、たとえあいつが戦えるようになったとしてもせいぜい村周辺の魔物を蹴散らす程度……私たちの計画の邪魔にはならないはず」
足を止め、もう一度声が聞こえてこないか待ってみるものの、噂をしていた村人たちはすでに立ち去ってしまったようだった。
「そもそも、多少の邪魔は入るという前提だったはず。なら大丈夫だ! よし、よし!」
自分に言い聞かせるように呟く。
「……でも、一応あの方に報告しておかなくては。私たちの時代のため、そのために……」
0
お気に入りに追加
893
あなたにおすすめの小説
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
エロゲーの悪役に転生した俺、なぜか正ヒロインに溺愛されてしまった件。そのヒロインがヤンデレストーカー化したんだが⁉
菊池 快晴
ファンタジー
入学式当日、学園の表札を見た瞬間、前世の記憶を取り戻した藤堂充《とうどうみつる》。
自分が好きだったゲームの中に転生していたことに気づくが、それも自身は超がつくほどの悪役だった。
さらに主人公とヒロインが初めて出会うイベントも無自覚に壊してしまう。
その後、破滅を回避しようと奮闘するが、その結果、ヒロインから溺愛されてしまうことに。
更にはモブ、先生、妹、校長先生!?
ヤンデレ正ヒロインストーカー、不良ヤンキーギャル、限界女子オタク、個性あるキャラクターが登場。
これは悪役としてゲーム世界に転生した俺が、前世の知識と経験を生かして破滅の運命を回避し、幸せな青春を送る為に奮闘する物語である。
無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです
青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。
その理由は、スライム一匹テイムできないから。
しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。
それは、単なるストレス解消のため。
置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。
そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。
アイトのテイム対象は、【無生物】だった。
さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。
小石は石でできた美少女。
Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。
伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。
アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。
やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。
これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。
※HOTランキング6位
転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。
異世界で遥か高嶺へと手を伸ばす 「シールディザイアー」
プロエトス
ファンタジー
――我は請う! デザイア! 星に願い、月に吠え、高嶺の花を掴まんと!
秘めたる願いが形を成し、運命を切り拓く!
誰かに恋することなど、誰かに愛されることなど、きっとないだろうと思っていた。
請い願い、戦い、手に入れること……それを知ったのは異世界。
君と共に生き、歓びを分かち合えるのなら、僕は高嶺へと手を伸ばす!
【あらすじ】
善良で真面目とは言えるものの自己評価が低いヘタレ男。
高嶺の花と言える名家出身のワケあり美少女。
交わることなく離れていくはずだった二本の運命の糸が、二人同時に異世界へ導かれることで、やがて一本に絡まり始める。
一目惚れをしながら、想いは絶対に秘めて生きていこうと決心していた学園の日々は終わり、信頼し合い、協力し合わなければ生き残れない過酷な異世界へ。
与えられた力は自然を意のままに操るチート【精霊術】!
戦う相手は自然環境……病……そして、モンスター!?
紡がれていく彼らの未来は、どのような結末へと繋がるのか……?
【第一部の概要 ※ややネタバレ】
第一章: 現実世界を舞台とした学園美少女アドベンチャー。
第二章: ヒロインと二人っきり異世界サバイバル。
第三章: バディとなってバトル&ラブコメ。
第四章: 作中最大級のモンスターバトル。
第五章: そして物語は衝撃のクライマックスへ! ラストは魂込めて書きました!
【第二部の概要】
第一部とは舞台と内容が大きく変わり、本格的なハイファンタジーが幕を開けます。
どうか、ここまで読んでみてください。楽しんでいただけたら嬉しいです。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」でも公開されています。
なろう: https://ncode.syosetu.com/n9575ij/
カクヨム: https://kakuyomu.jp/works/16817330663201292736
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める
忍原富臣
ファンタジー
おっさんがもう一度ダンジョンへと参ります!
その名はビオリス・シュヴァルツ。
目立たないように後方で大剣を振るい適当に過ごしている人間族のおっさん。だがしかし、一方ではギルドからの要請を受けて単独での討伐クエストを行うエリートの顔を持つ。
性格はやる気がなく、冒険者生活にも飽きが来ていた。
四十後半のおっさんには大剣が重いのだから仕方がない。
逆行魔法を使われ、十六歳へと変えられる。だが、不幸中の幸い……いや、おっさんからすればとんでもないプレゼントがあった。
経験も記憶もそのままなのである。
モンスターは攻撃をしても手応えのないビオリスの様子に一目散に逃げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる