【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚

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おっさんと戦い

特訓

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 その後もジオとロジャーの修行は続いていた。
 賢者の手によって地面から勢いよく飛び出してくる土の柱たち。
 一本、二本と副牧師は柱を躱していくが、不意打ちのように近くの木の幹から発射されたものが肩を擦り、コマのように吹き飛ばす。

「――くうっ! はぁ……はぁ……」
「大丈夫!? ちょっと無理させちゃったみたいだね。少し休もうか」

 特訓のためとはいえ、自分の魔術で人を傷つけるのは辛いのだろう。
 ジオは五体投地して呼吸を整えているロジャーに近づいて手を差し出す。

「ありがとうございます……でも」

 立ち上がったロジャー。
 彼の目は疲労を感じさせるどころか、さらに闘志が燃え上がっているようだった。

「……それじゃあもう一本行ってみようか!」
「はい!」

 再び勢いよく射出される柱。
 先ほど以上の速度、繊細さでロジャーは避けていく。

「いやぁ……若いっていいなぁ」
「わかるよ。俺はまだ26だが、近頃急激に体力が落ちてきたと感じてね」

 近くで特訓を見守っていたエドガーが答える。
 
「それ、40近くでもう一回来ますよ。エドガーさんも特訓してみます?」
「やめておくよ。手を怪我したら執筆に支障が出るし、そもそも俺が一本でも避けられると思うか?」

 小説家に運動は必要ない……そう思われることが多いようだが、実際は取材や執筆に莫大な体力を使う。
 そのため、エドガーも日頃から軽い運動はしているが、やはり若者や勇者と比べるとないも同然。
 自嘲気味な言葉に、ジオは苦笑いするしかなかった。

「なら私がやるとしよう」

 どのタイミングから見ていたのかは不明だが、ルーエがジオ式特訓に名乗り出る。

「いやルーエは余裕でしょ……」
「こういうのは行為に意味があるんだ。二人で苦楽を共にすれば仲も深まるというもの」
「それはそうかもだけどね? また時間がある時にしようね」

 悔しそうに舌打ちし、彼女は消えていった。


 
「ジオさん、全部避けられるようになりましたよ!」

 本来の仕事があるためまとまった時間を取ることは難しいが、陽が落ちかけた頃、ついにロジャーは全ての柱を躱せるようになった。

「よく頑張ったね! 途中からプレッシャーもかかってただろうに」
「そ、そうなんですか?」

 彼は気づいていなかったようだが、やはり何日も過酷な特訓を続けていると噂が立ってしまう。
 この日も数人の村人が陰ながらロジャーの特訓を覗いていた。
 彼らは日頃からロジャーの副牧師としての仕事ぶりを知っているため、誰もが好意的な視線を送っていた。
 だが、噂のよくないところは誰彼構わず伝ってしまうところで、フォックスデンで唯一彼に警戒心を抱いている人物の耳にも入ってしまったようだ。



「なぁ、最近ロジャーさんがジオさんと何かやってるみたいだぜ」
「そうなの? いいなぁ、俺も仕事ばっかりじゃ飽きちゃうから会いに行ってみようかなぁ」
「そうするか! でも、今は忙しそうだしまた今度だな」

 珍しく教会の庭掃除をしていたトマスはぴたりと足を止めた。

「……あいつが書の守護者と……?」

 鈍く、自分の「仕事」にばかり目を向けていた彼であっても、近頃ロジャーが何かしていることには気付いていた。
 しかし、牧師としての勤めもほどほど、半ば放棄して贅の限りを尽くしているトマスにはその理由が推し量れず、女でもできたのだろうという主観的な結論に達したのだ。
 だからこそ、今の今まで意にも介さずにいたのだが……。

「こ、これはまずいのでは……? いや、たとえあいつが戦えるようになったとしてもせいぜい村周辺の魔物を蹴散らす程度……私たちの計画の邪魔にはならないはず」

 足を止め、もう一度声が聞こえてこないか待ってみるものの、噂をしていた村人たちはすでに立ち去ってしまったようだった。

「そもそも、多少の邪魔は入るという前提だったはず。なら大丈夫だ! よし、よし!」

 自分に言い聞かせるように呟く。

「……でも、一応あの方に報告しておかなくては。私たちの時代のため、そのために……」
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