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おっさん、パーティに行く

雑談

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 ひとしきり笑い、涙で絨毯が濡れた後。
 人々がジオを見る目は、尊敬から信仰にも似たものに変わっていた。

「まさかこっちもイケる口だとは思いませんでしたよ!」
「本当、初めて笑い死ぬかと思いました!」
「ドレスは……ぷっくくっ……まだ2週間は思い出し笑いできますね」

 華麗なジョークには心からの賞賛を、というのはケンフォード出身の人にとって当たり前のことだったが、他国ではそうではないようで。
 ジオは今までジョークに対する賛辞を受け取ったことがないような、戸惑った表情を浮かべていた。
 だが、だんだんと人を笑顔にすることが心地良くなってきたのか、頬を蒸気させて喜んでいる。

「……おい、あれはマジなやつか?」
「マジってどういうことだ!? あいつ、あんな隠し球を持っていたのか!」
「あー……そうか……」

 輪から少し外れたところで見守っていたルーエとエドガー。
 ケンフォード出身の彼が感動を覚えているのに対し、ルーエが疑いの目を向けていることが、土地柄の証明になるだろう。
 ともかく、ジオはパーティに来てほんの1時間足らずで多くの友人を得たことになる。
 次に彼は、新しい友人達へ質問を投げかけることにしたようだ。

「……えっと、皆さんのお名前を聞いてもよろしいですか?」
「私はルミノー公爵です」
「僕はサウロペア男爵と言います!」
「私はトンメリッツ伯爵夫人ですの!」

 一斉に返答がある。

「こ、公爵……伯爵……?」

 もちろん、ジオは公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順で地位が高いことを知らない。
 他にも一代限りのナイトなど様々な爵位があり、後方で聞いていたエドガーは早く教えてやればよかったと後悔したが、時すでに遅し。
 とはいえジオは知らないなりに上手くやっていた。

「しゅ、趣味とかはあるんですか?」
「週末はよく乗馬に。とはいえアマチュアですが」
「私は美術館に足を運びますわ。まぁ、あまり詳しくはないのですけど」
「詳しく……そうですか」

 貴族達は何事も「それなり」にできることが良いと思っているが、一つの道を極めたジオにとっては極めて不思議なことだった。

「私は自分の夢を実現させるための努力をしています」

 人混みの中から静かに声が上がる。
 声の主を中心に人波が割れ、一人の男性が姿を現した。
 黒いジャケットを着こなし、鍛え上げられた肉体が盛り上がっている。

「当然すみません。私はハロルド・ナイトリッチ公爵。あなたが先日救ってくださったフォックスデンや、その付近を治める領主です」

 長い金髪を後ろで束ね、目つきは穏やかだが優しくはない。
 ジオは、その立ち振る舞いから底が知れないと感じていた。

「お久しぶりです、ウォリックです」
「数年ぶりですかな。お身体の調子はどうですか?」

 二人は旧知の仲のように会話をしている。

「私はほどほどと言った感じで……あなたの方こそ、近頃熱を上げている趣味があると聞きました」
「あぁ、それですか」

 ナイトリッチは手を顎に当てながら答える。

「私もケンフォードの繁栄に貢献したいと思い、賛同者と意見を交わしているのですよ。古い価値観を否定せず、今あるものをより良くするためにね」
「ほほう……それは素晴らしい心がけですな。ぜひとも私も混ぜてもらいたいものです」
「時が来たらぜひお願いします。それでは私はこれで。今日は確認したいことがありましてね」

 そう言って男は振り返らずに去っていった。

「あの、あの人はどういう……?」

 ジオが尋ねる。

「ナイトリッチ公爵は巷では有名な人物でして、家柄は古くはありませんが、ケンフォードの人々には革新的な制度を数多く生み出した方だとか。きっと最近も、人々のために知恵を絞ってくれているのでしょう」
「へぇ、そうなんですね」
「それより、またジョークを聞かせてくれませんか。あなたの紡ぐ言葉は素晴らしい。日頃からさぞ鍛錬に励んでいるのでしょう」
「そ、そうですか? 照れますね……」

 その後も彼は、乞われるがままに緻密に練られた作品を披露した。
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