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おっさん、パーティに行く
洒落の伝道師の奇跡
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「お久しぶりです! あの時はどうも……」
「もっと気楽にしてください。それより、ジオさんが凶悪な魔物を退治されたということは私の耳にも入ってきていますよ。さぁ、こちらで詳しく聞かせてください」
ウォリックはペコペコと頭を下げようとするジオを止め、彼らを自分のいるグループに招待する。
「こちらは書の守護者と呼ばれているジオさんです。私も最近知ったのですが、魔王を討伐してくださったのは彼なのですよ」
グループの人間達はジオに怪訝な表情を浮かべるわけでもなく、むしろ神話の戦士に出会ったかのように興奮していた。
しかも、老若男女関係なしにこの様子である。
「そのお話、ぜひ私にもお聞かせください!」
「僕も気になっていたんだ。ぜひ!」
「くたびれたように見えるけど、目の奥に芯の強さが隠れているわ。素敵……」
彼らは一斉にジオを取り囲み、期待や誘惑の眼差しを向けている。
「あ、はい、えっと……」
常日頃から感謝の視線を向けられることが多いジオではあるが、こうまで熱烈なものは初めてなのか、何を話せばいいか分からないようだった。
「まあまあ、落ち着いてください。それでは私が一つずつジオさんに質問していくとしましょう」
ウォリックの助け船によってひとまず場は収まり、ジオは質問に丁寧に答えていく。
「……するとマルノーチで洞察賢者と呼ばれたのも……」
「た、多分私です……」
「おお! 素晴らしい活躍ですな」
一答一答に賞賛の拍手が送られ、その盛り上がりを面白そうだと思った参加者が話に加わる。
そうしてどんどん人数が膨れ上がっていき、実にパーティ参加者の半分ほどがジオを囲んでいた。
「……あぁ、ロバートさんに仕立てていただいたんですか。通りで美しいわけだ」
「そうなんです。でも、初めてこういう服を着たので似合っているか不安でした」
「えぇ!? 初めてなんですか!?」
驚きこそすれど、それはジオの田舎者度合いにではなく、こうも着こなしているのに……という点に対してだ。
「お恥ずかしながら……でも、一応ドレスは知っていましたよ。だから『ドレスはどれっすか?』なんて聞くこともなく……」
この瞬間、盛り上がっていた場がしんと静まり返った。
唐突に夜が訪れたような、一人水中に潜り込んだような静寂。
誰もジオのジョークを理解できなかったわけではない。
ケンフォードの人間はジョークを好み、どれだけ上手いジョークが言えるかで夜を明かすこともある。
異性を口説く時の言い回しにも応用できるそれは、ある意味第二の言語。
必要不可欠なものなのだ。
そして、人脈を築かねばならない貴族にとってもそれは同じで、むしろ幼い頃から英才教育を受けている分、言い回しには敏感でなければならない。
ジオを取り囲む人々は、呆気に取られた顔をしている。
「……あ、あれ?」
・
「……あ、あれ?」
聡明な読者諸君なら理解していると思うが、一応断っておく。
これは決してジオがスベったわけではない。
ドレスが分からないわけがないという常識的な発想。
それ自体にはなんの面白味もない。
だが、魔王を撃破して書の守護者と称えられ、先日には洞察賢者と称されたばかりのジオが言うなら別だ。
明らかに人がどの人物である彼が、驕り、傲慢になってもバチの当たらない偉業を成し遂げた彼が、自らを「田舎者」だとへりくだることへのギャップ。
それが面白くないわけがない。
もちろん参加者達は、年に一度発行されるジョーク辞典の表紙に載っても良いほどの逸品に気付いている。
面白いとも感じている。
しかし、絶対的な力を持っているジオが、まさかジョークまで華麗にこなすと言うことに言葉を失っているのだ。
「……あのぉ……」
そして、理解が驚嘆を経て、再び理解に戻ってきたころ。
城下どころか他国にまで聞こえそうなほどの爆笑の渦が巻き起こる。
気品高く微笑の仮面を湛えた貴族達が顔面を歪ませて笑う、またとない状況。
これはのちに「洒落の伝道師の奇跡」と呼ばれることになる。
「もっと気楽にしてください。それより、ジオさんが凶悪な魔物を退治されたということは私の耳にも入ってきていますよ。さぁ、こちらで詳しく聞かせてください」
ウォリックはペコペコと頭を下げようとするジオを止め、彼らを自分のいるグループに招待する。
「こちらは書の守護者と呼ばれているジオさんです。私も最近知ったのですが、魔王を討伐してくださったのは彼なのですよ」
グループの人間達はジオに怪訝な表情を浮かべるわけでもなく、むしろ神話の戦士に出会ったかのように興奮していた。
しかも、老若男女関係なしにこの様子である。
「そのお話、ぜひ私にもお聞かせください!」
「僕も気になっていたんだ。ぜひ!」
「くたびれたように見えるけど、目の奥に芯の強さが隠れているわ。素敵……」
彼らは一斉にジオを取り囲み、期待や誘惑の眼差しを向けている。
「あ、はい、えっと……」
常日頃から感謝の視線を向けられることが多いジオではあるが、こうまで熱烈なものは初めてなのか、何を話せばいいか分からないようだった。
「まあまあ、落ち着いてください。それでは私が一つずつジオさんに質問していくとしましょう」
ウォリックの助け船によってひとまず場は収まり、ジオは質問に丁寧に答えていく。
「……するとマルノーチで洞察賢者と呼ばれたのも……」
「た、多分私です……」
「おお! 素晴らしい活躍ですな」
一答一答に賞賛の拍手が送られ、その盛り上がりを面白そうだと思った参加者が話に加わる。
そうしてどんどん人数が膨れ上がっていき、実にパーティ参加者の半分ほどがジオを囲んでいた。
「……あぁ、ロバートさんに仕立てていただいたんですか。通りで美しいわけだ」
「そうなんです。でも、初めてこういう服を着たので似合っているか不安でした」
「えぇ!? 初めてなんですか!?」
驚きこそすれど、それはジオの田舎者度合いにではなく、こうも着こなしているのに……という点に対してだ。
「お恥ずかしながら……でも、一応ドレスは知っていましたよ。だから『ドレスはどれっすか?』なんて聞くこともなく……」
この瞬間、盛り上がっていた場がしんと静まり返った。
唐突に夜が訪れたような、一人水中に潜り込んだような静寂。
誰もジオのジョークを理解できなかったわけではない。
ケンフォードの人間はジョークを好み、どれだけ上手いジョークが言えるかで夜を明かすこともある。
異性を口説く時の言い回しにも応用できるそれは、ある意味第二の言語。
必要不可欠なものなのだ。
そして、人脈を築かねばならない貴族にとってもそれは同じで、むしろ幼い頃から英才教育を受けている分、言い回しには敏感でなければならない。
ジオを取り囲む人々は、呆気に取られた顔をしている。
「……あ、あれ?」
・
「……あ、あれ?」
聡明な読者諸君なら理解していると思うが、一応断っておく。
これは決してジオがスベったわけではない。
ドレスが分からないわけがないという常識的な発想。
それ自体にはなんの面白味もない。
だが、魔王を撃破して書の守護者と称えられ、先日には洞察賢者と称されたばかりのジオが言うなら別だ。
明らかに人がどの人物である彼が、驕り、傲慢になってもバチの当たらない偉業を成し遂げた彼が、自らを「田舎者」だとへりくだることへのギャップ。
それが面白くないわけがない。
もちろん参加者達は、年に一度発行されるジョーク辞典の表紙に載っても良いほどの逸品に気付いている。
面白いとも感じている。
しかし、絶対的な力を持っているジオが、まさかジョークまで華麗にこなすと言うことに言葉を失っているのだ。
「……あのぉ……」
そして、理解が驚嘆を経て、再び理解に戻ってきたころ。
城下どころか他国にまで聞こえそうなほどの爆笑の渦が巻き起こる。
気品高く微笑の仮面を湛えた貴族達が顔面を歪ませて笑う、またとない状況。
これはのちに「洒落の伝道師の奇跡」と呼ばれることになる。
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