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おっさん、パーティに行く
パーティ開始
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ジオの内に潜む気高さを的確に表現したスーツを手に入れた翌日。
ついに一同は社交界デビューを飾ることになった。
「うう……緊張する……」
「何を言っている。お前より輝く者など他にいやしないさ」
今にも吐いてしまいそうな青い顔のジオ。
朝早くに起きてからずっとこの調子である。
返答したのは余裕綽々な様子のルーエ。
二人の顔色は対照的だった。
だが、ジオは態度こそ庶民のそれだったが、格好は貴族と呼んでも違和感のないものだ。
ダブルブレストのジャケットということで白いシャツが隠され、一般的なものよりも爽やかさは出ないが、同時に派手な赤いネクタイの主張を抑えていて、ミステリアスな魅力を演出している。
対するルーエは夜の闇を纏っているかのような、真っ黒なドレス。
黒一色のドレスの美しさといえば他の追随を許さないものだが、反面のっぺりして見えるという欠点がある。
だが、人間離れしたスタイルのルーエが着れば立ち所にドレスは立体的になり、腰までまっすぐに伸びた白い髪が一層際立つ。
まさに二人は本日の「主役」と言える姿をしていた。
「安心してください。先生なら必ずやパーティを乗り越えられますから。私は警備にあたっていますので、大船に乗ったつもりで楽しんでくださいね」
シャーロットも広義的に言えばパーティの参加者であったが、彼女は騎士団長であり、業務としてこの場に訪れていた。
……ちなみに、エドガーもジオ達と共にパーティに望んでいたが、彼のスーツは安っぽいもので、少々パーティには似つかわしくない。
彼曰く。
「なに、ドレスコードさえ守れればそれでいいさ。高いスーツなんて買っても埃の下敷きになるだけだろうし、俺は俺の作品と弁舌でパトロンを得てみせるからな!」
だそうだ。
・
以前、ジオが目にしたのは城内でのパーティだったが、今回は城の庭園での開催である。
王都の貴族たちが集まるに相応しい美しい庭園が会場となっていた。
夜空には大きな星が瞬き、銀色に淡く光る月が優雅に浮かび上がっている。
主催は王ということになっていて、貴族達は招待される形。
つまり、王としては自分の権力を誇示する絶好の機会であり、場所のセッティングはもちろん、料理の一品一品にも細心の注意が払われている。
そして、そんな王に難癖をつけたい気分の招待客。
会場を埋め尽くさんばかり……というのは言い過ぎだが、かなりの人数がパーティに参加していて、ジオは若干気圧されていた。
「み、みんなオーラが出てるね……」
「本気を出せばお前が一番大きなオーラを出せるだろう」
「いや、そういうのじゃなくてさ……」
ジオのいう通り、参加者の誰もが高貴な雰囲気を放っていた。
幼い頃から貴族としての一挙手一投足を教育されてきた賜物だ。
たとえ同じ服を着せたとしても、農民と貴族を見分けるのは赤子の手を捻るより容易いだろう。
そんな貴族たちが、今宵は各々最高の自分を作り上げてきている。
男性はタキシードを着用するのみならず、甘い香水の匂いを漂わせていた。
美しく着飾った女性は、上品なヘアスタイルの中に気品の高さを滲ませていた。
男女ともに、自分より良い家柄の相手とお近づきになりたいとか、今後の「仕事」に関わる人脈を作るためだとか、華やかな見た目に反して内面には「俗」的な欲望が渦巻いている。
しかし、かといって厳かなだったり必死な様子はなく、彼らは多数のグループを作り、それぞれが様々な話題で楽しそうに話し合っていた。
そんな繁栄と虚栄が入り混じるパーティにジオが馴染めるはずがなかったが、やはり勇者は運を引き寄せる力がなければ務まらない。
幸運にも、今回のパーティーにはジオを知る者が出席していた。
「おや、ジオさんにルーエさんではありませんか。お久しぶりですね」
貴族にしては物腰柔らかな老紳士、ウォリック伯爵である。
ついに一同は社交界デビューを飾ることになった。
「うう……緊張する……」
「何を言っている。お前より輝く者など他にいやしないさ」
今にも吐いてしまいそうな青い顔のジオ。
朝早くに起きてからずっとこの調子である。
返答したのは余裕綽々な様子のルーエ。
二人の顔色は対照的だった。
だが、ジオは態度こそ庶民のそれだったが、格好は貴族と呼んでも違和感のないものだ。
ダブルブレストのジャケットということで白いシャツが隠され、一般的なものよりも爽やかさは出ないが、同時に派手な赤いネクタイの主張を抑えていて、ミステリアスな魅力を演出している。
対するルーエは夜の闇を纏っているかのような、真っ黒なドレス。
黒一色のドレスの美しさといえば他の追随を許さないものだが、反面のっぺりして見えるという欠点がある。
だが、人間離れしたスタイルのルーエが着れば立ち所にドレスは立体的になり、腰までまっすぐに伸びた白い髪が一層際立つ。
まさに二人は本日の「主役」と言える姿をしていた。
「安心してください。先生なら必ずやパーティを乗り越えられますから。私は警備にあたっていますので、大船に乗ったつもりで楽しんでくださいね」
シャーロットも広義的に言えばパーティの参加者であったが、彼女は騎士団長であり、業務としてこの場に訪れていた。
……ちなみに、エドガーもジオ達と共にパーティに望んでいたが、彼のスーツは安っぽいもので、少々パーティには似つかわしくない。
彼曰く。
「なに、ドレスコードさえ守れればそれでいいさ。高いスーツなんて買っても埃の下敷きになるだけだろうし、俺は俺の作品と弁舌でパトロンを得てみせるからな!」
だそうだ。
・
以前、ジオが目にしたのは城内でのパーティだったが、今回は城の庭園での開催である。
王都の貴族たちが集まるに相応しい美しい庭園が会場となっていた。
夜空には大きな星が瞬き、銀色に淡く光る月が優雅に浮かび上がっている。
主催は王ということになっていて、貴族達は招待される形。
つまり、王としては自分の権力を誇示する絶好の機会であり、場所のセッティングはもちろん、料理の一品一品にも細心の注意が払われている。
そして、そんな王に難癖をつけたい気分の招待客。
会場を埋め尽くさんばかり……というのは言い過ぎだが、かなりの人数がパーティに参加していて、ジオは若干気圧されていた。
「み、みんなオーラが出てるね……」
「本気を出せばお前が一番大きなオーラを出せるだろう」
「いや、そういうのじゃなくてさ……」
ジオのいう通り、参加者の誰もが高貴な雰囲気を放っていた。
幼い頃から貴族としての一挙手一投足を教育されてきた賜物だ。
たとえ同じ服を着せたとしても、農民と貴族を見分けるのは赤子の手を捻るより容易いだろう。
そんな貴族たちが、今宵は各々最高の自分を作り上げてきている。
男性はタキシードを着用するのみならず、甘い香水の匂いを漂わせていた。
美しく着飾った女性は、上品なヘアスタイルの中に気品の高さを滲ませていた。
男女ともに、自分より良い家柄の相手とお近づきになりたいとか、今後の「仕事」に関わる人脈を作るためだとか、華やかな見た目に反して内面には「俗」的な欲望が渦巻いている。
しかし、かといって厳かなだったり必死な様子はなく、彼らは多数のグループを作り、それぞれが様々な話題で楽しそうに話し合っていた。
そんな繁栄と虚栄が入り混じるパーティにジオが馴染めるはずがなかったが、やはり勇者は運を引き寄せる力がなければ務まらない。
幸運にも、今回のパーティーにはジオを知る者が出席していた。
「おや、ジオさんにルーエさんではありませんか。お久しぶりですね」
貴族にしては物腰柔らかな老紳士、ウォリック伯爵である。
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