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おっさん、村へ行く
ロジャー
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「あ……ありがとうございました」
「いえいえ。無事で何よりです」
平民が貴族と会話しているような、そんな畏敬の念を込めた様子でロジャーは礼を告げる。
しかし、ジオの柔らかな笑みを見て彼は落ち着きを取り戻す。
目の前の男は絶大な力を持っているが、心から自分の安全を喜んでくれていると理解したのだ。
「いやあ驚いたよ。まさかあいつが隠し玉を持っていたなんてさ。どうして気付いたんだ?」
「お恥ずかしながら気付けませんでしたよ。ただ、彼らは最後まで諦めない生き物だってことは身に沁みてまして……」
幼い頃から山で命懸けの生活をしていたジオは、ある種の野生的な勘を得ているのだろう。
エドガーは納得して深く頷いた。
「それより、ロジャーさんは牧師さん……なんですか?」
「私は副牧師です」
「副……ってことは、あなたが……」
ジオはフォックスデンに訪れた時に聞こえた会話を思い出していた。
戦う術を持った方がいいという言葉と、傷は負わせられないまでも抵抗していた姿が重なる。
「私のことをご存知なのですか?」
「……申し訳ないのですが、教会で言い合っているのを聞いてしまって……」
それを聞いて、ロジャーは合点がいったというふうに笑った。
「これは、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。牧師であるトマスと意見の対立があって……」
「どちらの意見も間違っているとは思いませんよ。でも、個人的にはロジャーさんの意見が大切だと思います」
感動したのか、ロジャーはジオの手を両手で握る。
「あ、ありがとうございます! もしよろしければ、私に――」
「おお、もう魔物は倒されていたのか!」
ロジャーの言葉を遮って、小太りの男性が歩いてきた。
禿げ上がった頭に口髭を蓄えた、いかにも「金持ち」という風貌の男。
彼が牧師のトマスである。
「あなたがこの魔物を始末してくださったのですかな? 私はトマス。見ての通りフォックスデン教会の牧師をしています」
「ジオといいます。よろしくお願いします」
ジオが差し出した手を無視してトマスは魔物に近寄る。
「まったく……やっと倒れてくれましたな。これは私が処理しておきますので、もう帰ってくださって構いませんよ。君ィ、送っていってやりなさい」
「は、はい……」
聖職者とは思えない横暴な態度。
だが、ロジャーは言い返すこともなく頭を下げた。
「……あのトマスとかいうやつより、よっぽど君の方が牧師に向いてると思うがな、俺は」
「はは、ありがとうございます。ですが、私は身分も低く、これまでもこれからも牧師にはなれないのです」
「まだ貴族がどうとか言ってるのか。よし、次の小説に取り入れてやろう」
トマスに声が聞こえなくなる距離まで来るや否や、エドガーは本心を迷いなく打ち明けた。
ロジャーは農民の血筋なため、優秀だということで副牧師にはなれても牧師になることはできない。
牧師にも人脈というのが必要であり、農民にはそれを得る手段がないからだ。
「でも、それでも良いのです。私はフォックスデンの皆さんが幸せに暮らせれば、それでも」
「なら君には欲はないっていうのか? そんなの人間らしく――」
「いえ! 欲ならあります!」
「ほう?」
好奇心を隠しきれないロジャーと、黙って会話を見守っているジオ。
ロジャーは決心したように唾を飲み込むと、エドガー……ではなくジオの方へ向き直った。
「……私に戦い方を教えてください!」
「戦い方……ですか?」
ジオは首を傾げる。
「聖職者に戦いなど無縁だと言いたい気持ちはわかります。ですが……今回のように村に危機が訪れた時、何もできないのは嫌なのです!」
ロジャー曰く、ブラッドウルフに対して使用した魔術は仕事の合間を縫って独学で学んだものらしい。
近頃、魔物の活動が活発になっていることに危機感を覚えた結果の行動。
「……なるほど。わかりました、私にできることならやらせてください」
一人の青年の命懸けの行動は書の守護者の心を動かし、これがフォックスデンの命運を大きく分けることになるのはもう少し先の話だった。
「いえいえ。無事で何よりです」
平民が貴族と会話しているような、そんな畏敬の念を込めた様子でロジャーは礼を告げる。
しかし、ジオの柔らかな笑みを見て彼は落ち着きを取り戻す。
目の前の男は絶大な力を持っているが、心から自分の安全を喜んでくれていると理解したのだ。
「いやあ驚いたよ。まさかあいつが隠し玉を持っていたなんてさ。どうして気付いたんだ?」
「お恥ずかしながら気付けませんでしたよ。ただ、彼らは最後まで諦めない生き物だってことは身に沁みてまして……」
幼い頃から山で命懸けの生活をしていたジオは、ある種の野生的な勘を得ているのだろう。
エドガーは納得して深く頷いた。
「それより、ロジャーさんは牧師さん……なんですか?」
「私は副牧師です」
「副……ってことは、あなたが……」
ジオはフォックスデンに訪れた時に聞こえた会話を思い出していた。
戦う術を持った方がいいという言葉と、傷は負わせられないまでも抵抗していた姿が重なる。
「私のことをご存知なのですか?」
「……申し訳ないのですが、教会で言い合っているのを聞いてしまって……」
それを聞いて、ロジャーは合点がいったというふうに笑った。
「これは、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。牧師であるトマスと意見の対立があって……」
「どちらの意見も間違っているとは思いませんよ。でも、個人的にはロジャーさんの意見が大切だと思います」
感動したのか、ロジャーはジオの手を両手で握る。
「あ、ありがとうございます! もしよろしければ、私に――」
「おお、もう魔物は倒されていたのか!」
ロジャーの言葉を遮って、小太りの男性が歩いてきた。
禿げ上がった頭に口髭を蓄えた、いかにも「金持ち」という風貌の男。
彼が牧師のトマスである。
「あなたがこの魔物を始末してくださったのですかな? 私はトマス。見ての通りフォックスデン教会の牧師をしています」
「ジオといいます。よろしくお願いします」
ジオが差し出した手を無視してトマスは魔物に近寄る。
「まったく……やっと倒れてくれましたな。これは私が処理しておきますので、もう帰ってくださって構いませんよ。君ィ、送っていってやりなさい」
「は、はい……」
聖職者とは思えない横暴な態度。
だが、ロジャーは言い返すこともなく頭を下げた。
「……あのトマスとかいうやつより、よっぽど君の方が牧師に向いてると思うがな、俺は」
「はは、ありがとうございます。ですが、私は身分も低く、これまでもこれからも牧師にはなれないのです」
「まだ貴族がどうとか言ってるのか。よし、次の小説に取り入れてやろう」
トマスに声が聞こえなくなる距離まで来るや否や、エドガーは本心を迷いなく打ち明けた。
ロジャーは農民の血筋なため、優秀だということで副牧師にはなれても牧師になることはできない。
牧師にも人脈というのが必要であり、農民にはそれを得る手段がないからだ。
「でも、それでも良いのです。私はフォックスデンの皆さんが幸せに暮らせれば、それでも」
「なら君には欲はないっていうのか? そんなの人間らしく――」
「いえ! 欲ならあります!」
「ほう?」
好奇心を隠しきれないロジャーと、黙って会話を見守っているジオ。
ロジャーは決心したように唾を飲み込むと、エドガー……ではなくジオの方へ向き直った。
「……私に戦い方を教えてください!」
「戦い方……ですか?」
ジオは首を傾げる。
「聖職者に戦いなど無縁だと言いたい気持ちはわかります。ですが……今回のように村に危機が訪れた時、何もできないのは嫌なのです!」
ロジャー曰く、ブラッドウルフに対して使用した魔術は仕事の合間を縫って独学で学んだものらしい。
近頃、魔物の活動が活発になっていることに危機感を覚えた結果の行動。
「……なるほど。わかりました、私にできることならやらせてください」
一人の青年の命懸けの行動は書の守護者の心を動かし、これがフォックスデンの命運を大きく分けることになるのはもう少し先の話だった。
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