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おっさん、村へ行く

異常

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 ホワイトウルフ十五匹分を食すのは流石に無理だし、かと言って命を無駄にしたくないというジオの信条のもと、解体された肉は村中の人々に配られることになった。
 深刻ではないとはいえ食料難であった村人は彼に感謝し、言葉を告げて去っていく。
 日はまだ落ちていない夕方だったが、一行は村長宅で少し早い夕食をとることに決める。
 村長の妻は丁寧にホワイトウルフの血抜きをし、様々な料理を並べていく。

「まさかエドガーさんも一緒だとは思いませんでしたよ。お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ、ありがとう。それよりあんたも来たほうが良かったんじゃないか? 凄かったぞ、彼」
「いやいや、私がいけば足手纏いになってしまうでしょう。ジオさんのお手を煩わせるわけには――」
「そんなの気にならないくらいに強かったんだよ! 鬼神……っていうのは少し違うな。とにかく魔王を倒すのも納得だよ」
「そうだろうそうだろう。ジオはこの私に勝ったのだからな。あの時の――むぐっ」

 村人同士の会話に余所者が入るのは失礼だと判断したのか、ジオはルーエの言葉を制止する。

「よ、喜んでもらえたなら何よりですよ」
「俺だけじゃなくて村長も喜んでるぞ。なぁ?」
「それはもちろん。これで近隣も安全なりましたし、農作物が荒らされることも無くなるでしょう」
「そんなに活発なんですか? 魔物ってあまり人里には来ないイメージがありますけど……」

 ジオのいう通り、魔物は基本的に人のいる場所には現れない。
 中には群れで村を襲うオークやゴブリン、そして自らの強さに絶対的な自信を持つネームドモンスターがいるが、それでも頻繁ではない。
 しかし、近頃フォックスデンの村は魔物の被害に悩まされていた。

「魔物が活発化するのには理由があるはずなのですが……それがどうにも分からずで」
「そうでしたか……。やっぱり村で対抗策を考えるのがいいかもしれませんね」
「だったらあいつが良いんじゃないか? ほら、副牧師の」
「彼ですか。確かに彼なら――」

 村長が言いかけた時、外から焦ったような声が聞こえた。

「――魔物が攻めてきたぞ! 戦えるやつは出てきてくれ!」

 その言葉に、ジオとエドガーは勢いよく立ち上がる。
 無論、ジオは人命救助のために立ち上がり、エドガーは目の前の中年男性が立ち上がると踏んで行動したという違いはあった。

「ちょっと行ってきます! ルーエはここら辺を守っててくれ!」
「わかった。遅くならないようにな」

 急いで外に出ると、左上腕部を押さえた男が走り回りながら警戒を呼びかけていた。

「大丈夫ですか!?」
「もしかしてあなたが書の守護者様ですか!? こちらです……ネームドモンスターが出現しました!」
「おいおい、そんな奴が村を襲うなんて今までなかったぞ!?」
「理由は後です! 今はロジャーさんのところへ!」

 男に案内された先は、フォックスデンの村人たちの憩いの場である教会だった。
 モンスターがそれを知っているはずもないが、破壊の末に恐ろしい結果を招く可能性がある。
 人は内面からも傷を負ってしまうのだ。
 しかし、まだ教会には擦り傷すらついていなかった。
 先ほどロジャーと呼ばれた男……ロジャー・ペンフィールドが単身でモンスターに抵抗していたからだ。
 ロジャーは魔物の攻撃を必死に避けながら、隙を見て目眩しの魔術を使うことで時間を稼いでいた。
 当然、それは何のダメージにもならないが、結論から言えばロジャー自身の命を守ることに繋がっていた。

「ロジャーさん! 応援を連れてきました!」
「ありがとうございます!」

 敵が増えたことで警戒したのか、名ありのモンスターは後ろに飛んで距離をとる。
 教会を襲っていたモンスターは鋭い眼光と牙を持ち、針を束ねて剣にしたような体毛を身に纏っていた。
 体長は五メートルにも及び、目の横にある左右二つずつの発光体が威嚇しているようだ。
 この魔物の特徴は、先ほどジオが撃破したホワイトウルフに酷似していた。
 ただ一つ……体色が血に塗れたような真紅であることを除けば。
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