49 / 154
おっさん、村へ行く
村長
しおりを挟む
フォックスデンは、美しさや活気ではどうしても城下に見劣りしてしまうが、かと言って本当に田舎なわけでもなく、中心部はそれなりに整備されていた。
「ここが村長の家になります。すでに話は通してあるのでお入りください」
シャーロットに促されるままに馬を降りる。
村長の住んでいるそれは教会と同じく木造で、他の家と比べて部屋の三つか四つ分大きかった。
玄関をノックし、挨拶しながら入ると、優しい木の匂いが緊張をほぐしてくれた。
「ようこそおいでくださいました。お疲れでしょう。ささ、お食事のご用意がありますので、奥へどうぞ」
「ありがとうございます」
ウォリック伯爵の接客のような柔らかさではなく、村長は心から来客に喜んでいるように見える。
食事まで用意してくれているなんて、手ぶらできてしまったことに少し罪悪感を覚えてしまう。
「それでは、私は領主の方へ到着の挨拶をしてきます。食事の後にエドガー宅へ伺ってください」
「わかった。俺たちは一緒に行かなくて大丈夫なの?」
「えぇ。この地域の領主はあまり他人に興味がなく、近頃は何か夢中なものがあるとか。私一人で十分なので、先生は腰を休めていてください」
「は、はは……ありがとう」
腰に気を遣われて自分の歳を再確認する。
落ち込むのは程々に、村長の奥さんが用意してくれた料理をいただくことにした。
食卓にはパイをはじめとして多くの料理が並んでいる。
「お好きなだけいただいてください。まぁ、村長と言っても貴族の方たちのような豪勢はできず、ジャガイモ料理が多いのですが……」
「いえ、とても美味しいです。私も故郷ではよく食べていましたから」
「そうでしたか。ジオ殿は世界的な英雄だそうですが、そんな方でも同じような料理を食べるのですね。少し親近感が湧きます」
確実に世界的な英雄ではないのだが……それに触れるとややこしくなりそうだから苦笑いで返しておいた。
「……これは美味いな。素朴な味わいだが飽きずに食べられる。あとでレシピを教えてもらえないか?」
「あらあら、もちろんですよ!」
ルーエは奥さんに料理の作り方を聞いている。
同じ味がまた食べられるなら俺も嬉しい。
「そういえば、来る時に教会で言い争いが聞こえたんですけど、何かあったんですか?」
「あぁ、またですか……」
ふと思い出したことを聞いてみると、村長は禿げ上がった頭を撫でながら天を仰いだ。
「この村の牧師と副牧師はその……あまり相性が良くないのです」
「相性?」
「はい。副牧師のほうは人当たりも良く、私たちのことをよく考えてくれているのですが、牧師のほうは出身が出身なこともあって、現状の維持を第一に考えているのです」
「ははぁ……そういうことでしたか」
牧師は家督を継げなかった貴族がなることの多い職業だと、いつだったかシャーロットに聞いたのを思い出した。
しかも、農民出身でも同じような職に就くことはできるが、一定以上の血縁がないと副牧師から上へは上がれないらしい。
貴族がエドガーの小説を好む理由の中に現状維持の安心感があるとすれば、牧師は貴族の出で、反対に副牧師は農民の出なのだろう。
どちらが正しいという話ではない。
今までの流れを守るのも正しく、新しい文化や行動を取り入れるのもまた正しい。
しかし、これは部外者である俺の意見だ。
フォックスデンの人々がどちらの意見に共感を覚えているかは……村長の反応を見れば一目瞭然だろう。
「エドガーさんはどういう方なんですか? 私は小説家ということ以外何も聞いていなくて……」
困り顔だった村長の顔がパッと明るくなる。
「彼は一言で言えば、不思議な人です。あまり人前にも姿を見せませんが、信念を持っているようで私は好きですよ」
「ここが村長の家になります。すでに話は通してあるのでお入りください」
シャーロットに促されるままに馬を降りる。
村長の住んでいるそれは教会と同じく木造で、他の家と比べて部屋の三つか四つ分大きかった。
玄関をノックし、挨拶しながら入ると、優しい木の匂いが緊張をほぐしてくれた。
「ようこそおいでくださいました。お疲れでしょう。ささ、お食事のご用意がありますので、奥へどうぞ」
「ありがとうございます」
ウォリック伯爵の接客のような柔らかさではなく、村長は心から来客に喜んでいるように見える。
食事まで用意してくれているなんて、手ぶらできてしまったことに少し罪悪感を覚えてしまう。
「それでは、私は領主の方へ到着の挨拶をしてきます。食事の後にエドガー宅へ伺ってください」
「わかった。俺たちは一緒に行かなくて大丈夫なの?」
「えぇ。この地域の領主はあまり他人に興味がなく、近頃は何か夢中なものがあるとか。私一人で十分なので、先生は腰を休めていてください」
「は、はは……ありがとう」
腰に気を遣われて自分の歳を再確認する。
落ち込むのは程々に、村長の奥さんが用意してくれた料理をいただくことにした。
食卓にはパイをはじめとして多くの料理が並んでいる。
「お好きなだけいただいてください。まぁ、村長と言っても貴族の方たちのような豪勢はできず、ジャガイモ料理が多いのですが……」
「いえ、とても美味しいです。私も故郷ではよく食べていましたから」
「そうでしたか。ジオ殿は世界的な英雄だそうですが、そんな方でも同じような料理を食べるのですね。少し親近感が湧きます」
確実に世界的な英雄ではないのだが……それに触れるとややこしくなりそうだから苦笑いで返しておいた。
「……これは美味いな。素朴な味わいだが飽きずに食べられる。あとでレシピを教えてもらえないか?」
「あらあら、もちろんですよ!」
ルーエは奥さんに料理の作り方を聞いている。
同じ味がまた食べられるなら俺も嬉しい。
「そういえば、来る時に教会で言い争いが聞こえたんですけど、何かあったんですか?」
「あぁ、またですか……」
ふと思い出したことを聞いてみると、村長は禿げ上がった頭を撫でながら天を仰いだ。
「この村の牧師と副牧師はその……あまり相性が良くないのです」
「相性?」
「はい。副牧師のほうは人当たりも良く、私たちのことをよく考えてくれているのですが、牧師のほうは出身が出身なこともあって、現状の維持を第一に考えているのです」
「ははぁ……そういうことでしたか」
牧師は家督を継げなかった貴族がなることの多い職業だと、いつだったかシャーロットに聞いたのを思い出した。
しかも、農民出身でも同じような職に就くことはできるが、一定以上の血縁がないと副牧師から上へは上がれないらしい。
貴族がエドガーの小説を好む理由の中に現状維持の安心感があるとすれば、牧師は貴族の出で、反対に副牧師は農民の出なのだろう。
どちらが正しいという話ではない。
今までの流れを守るのも正しく、新しい文化や行動を取り入れるのもまた正しい。
しかし、これは部外者である俺の意見だ。
フォックスデンの人々がどちらの意見に共感を覚えているかは……村長の反応を見れば一目瞭然だろう。
「エドガーさんはどういう方なんですか? 私は小説家ということ以外何も聞いていなくて……」
困り顔だった村長の顔がパッと明るくなる。
「彼は一言で言えば、不思議な人です。あまり人前にも姿を見せませんが、信念を持っているようで私は好きですよ」
0
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。
越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました
夢幻の翼
ファンタジー
【錬金調薬師が治癒魔法士に劣るとは言わせない!】
病を治す錬金調薬師の家系に生まれた私(サクラ)はとある事情から家を出て行った父に代わり工房を切り盛りしていた。
季節は巡り、また流行り風邪の季節になるとポーション作成の依頼は急増し、とてもではないが未熟な私では捌ききれない依頼が舞い込む事になる。
必死になって調薬するも終わらない依頼についに体調を崩してしまった。
帰らない父、終わらない依頼。
そして猛威を振るう凶悪な流行り風邪に私はどう立ち向かえば良いのか?
そして、私の作った神ポーションで誰を救う事が出来たのか?
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる