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おっさん、村へ行く

村長

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 フォックスデンは、美しさや活気ではどうしても城下に見劣りしてしまうが、かと言って本当に田舎なわけでもなく、中心部はそれなりに整備されていた。

「ここが村長の家になります。すでに話は通してあるのでお入りください」

 シャーロットに促されるままに馬を降りる。
 村長の住んでいるそれは教会と同じく木造で、他の家と比べて部屋の三つか四つ分大きかった。
 玄関をノックし、挨拶しながら入ると、優しい木の匂いが緊張をほぐしてくれた。

「ようこそおいでくださいました。お疲れでしょう。ささ、お食事のご用意がありますので、奥へどうぞ」
「ありがとうございます」

 ウォリック伯爵の接客のような柔らかさではなく、村長は心から来客に喜んでいるように見える。
 食事まで用意してくれているなんて、手ぶらできてしまったことに少し罪悪感を覚えてしまう。

「それでは、私は領主の方へ到着の挨拶をしてきます。食事の後にエドガー宅へ伺ってください」
「わかった。俺たちは一緒に行かなくて大丈夫なの?」
「えぇ。この地域の領主はあまり他人に興味がなく、近頃は何か夢中なものがあるとか。私一人で十分なので、先生は腰を休めていてください」
「は、はは……ありがとう」

 腰に気を遣われて自分の歳を再確認する。
 落ち込むのは程々に、村長の奥さんが用意してくれた料理をいただくことにした。
 食卓にはパイをはじめとして多くの料理が並んでいる。

「お好きなだけいただいてください。まぁ、村長と言っても貴族の方たちのような豪勢はできず、ジャガイモ料理が多いのですが……」
「いえ、とても美味しいです。私も故郷ではよく食べていましたから」
「そうでしたか。ジオ殿は世界的な英雄だそうですが、そんな方でも同じような料理を食べるのですね。少し親近感が湧きます」

 確実に世界的な英雄ではないのだが……それに触れるとややこしくなりそうだから苦笑いで返しておいた。

「……これは美味いな。素朴な味わいだが飽きずに食べられる。あとでレシピを教えてもらえないか?」
「あらあら、もちろんですよ!」

 ルーエは奥さんに料理の作り方を聞いている。
 同じ味がまた食べられるなら俺も嬉しい。

「そういえば、来る時に教会で言い争いが聞こえたんですけど、何かあったんですか?」
「あぁ、またですか……」

 ふと思い出したことを聞いてみると、村長は禿げ上がった頭を撫でながら天を仰いだ。

「この村の牧師と副牧師はその……あまり相性が良くないのです」
「相性?」
「はい。副牧師のほうは人当たりも良く、私たちのことをよく考えてくれているのですが、牧師のほうは出身が出身なこともあって、現状の維持を第一に考えているのです」
「ははぁ……そういうことでしたか」

 牧師は家督を継げなかった貴族がなることの多い職業だと、いつだったかシャーロットに聞いたのを思い出した。
 しかも、農民出身でも同じような職に就くことはできるが、一定以上の血縁がないと副牧師から上へは上がれないらしい。
 貴族がエドガーの小説を好む理由の中に現状維持の安心感があるとすれば、牧師は貴族の出で、反対に副牧師は農民の出なのだろう。
 どちらが正しいという話ではない。
 今までの流れを守るのも正しく、新しい文化や行動を取り入れるのもまた正しい。
 しかし、これは部外者である俺の意見だ。
 フォックスデンの人々がどちらの意見に共感を覚えているかは……村長の反応を見れば一目瞭然だろう。

「エドガーさんはどういう方なんですか? 私は小説家ということ以外何も聞いていなくて……」

 困り顔だった村長の顔がパッと明るくなる。

「彼は一言で言えば、不思議な人です。あまり人前にも姿を見せませんが、信念を持っているようで私は好きですよ」
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