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おっさん、王国へ行く
シャーロット
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「これは……」
さぞかし厳格な訓練をこなしているであろう戦士達が顔を歪めて笑っている。
ついに俺のジョークが理解されたのかと内心喜びかけたが、よく見ると数人は笑顔に無理がある。
っていうか指示を出していた女性は全然真顔だし。
どんな意図があって彼らは笑うふりをしているのだろう。
ここで笑って同調することによって俺の気分を良くし、ケンフォード王国に行きたいと思わせるためかもしれないな。
だが、この作戦にはひとつ前提が必要だ。
それは、俺が無類のジョーク好きだと知っている人間がいること。
そうでなければ、俺のような田舎者からこんなに洗練されたジョークが飛んでくるなど想像もつかないはず。
考えていると、赤い鎧の女性が右手を挙げる。
笑い声が止み、あたりはしんと静まり返った。
「…………?」
状況の落差に戸惑っていると、金髪の女性が俺の目の前にまで歩いて出てきた。
彼女は言いようのない誇らしげな表情をしている。
「相変わらず素晴らしい切れ味ですね。我ら騎士団全員が笑いの刃に首をかき切られた気持ちです」
いや怖いな。
素直に「笑ってしまった」とかで良いのにかき切られたって。
しかもお姉さんも含めて何人か笑えてませんでしたけどね。
「……っていうか、相変わらずって?」
金髪の女性は粛々と答える。
「ジオ様がわからないのも無理はないでしょう。あなたにとって私など子供の一人に過ぎないのですし、私にも成長した自負があります」
「はぁ……?」
子供の一人?
ってことは、もしかして以前俺が山で拾った子供が成長した姿だということか?
「改めて名乗らせていただきます」
彼女は目の前で片膝をつき、俺の右手をとって手の甲にキスをした。
「私の名はシャーロット。ケンフォード王国騎士団長にしてジオ様に育てていただいたいわば門下生。お会いしたかったです、先生」
「……えええええ!?」
シャーロットという名前を聞いた瞬間、脳内にさまざまな思い出がフラッシュバックしてきた。
俺が拾った中で人一倍真面目だったのがシャーロットだ。
たとえば、彼女は問題児だったランドとは違い、最初から聞き分けが良く、日々学び、剣の扱い方も上手かった。
だから将来は路頭に迷うことはないと思っていたが――。
「まさか騎士団長になるとは。成長したな、シャーロット」
騎士団長が何かはわからないけど、パーティのリーダーみたいなものだろう。
20人も部下を連れてくるくらいだし、きっとそれなりの役職だ。
「……はい。ジオ様にそう言っていただけたのが一番嬉しいです」
眼差しこそまっすぐ俺へ向いていたが、目尻には涙が溜まっていた。
「それで……いかがでしょうか。ケンフォード王国へ来ていただくというのは。やはり気が乗りませんか……?」
「いや、行くよ。山に帰る前に、教え子がどのくらい成長したか見ておきたくなったからね」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
シャーロットはこちらへずいと詰め寄り、俺の両手を握って興奮している。
「ちょうどいいじゃないか。私もマルノーチに飽きてきたところだったからな」
いつの間に目を覚ましたのか、ルーエが俺の背後に立っていた。
彼女はシャーロットを値踏みするように視線を上下に動かす。
「……ほう? この小娘も中々やるようだな。私には及ばないが」
「……なんだ貴様は。ジオ様と一体どういう関係だ?」
「私はジオの伴侶というやつだ。ほれ恐れ慄け」
「そ、そんな……伴侶……だと……? ジオ様、本当ですか!?」
シャーロットが不安そうに詰め寄ってくる。
「い、いや、バリバリ嘘だから」
「そう……ですか。安心しました」
何に安心してるんだ。
「なあ、団長があんなに取り乱すところ初めて見るよな」
「マジでな。あのおっさん、団長の恩人って聞いたけど本当にそれだけかな……?」
「ジョン、ダグラス、口を慎め。お前達は帰ってからみっちりしごいてやるからな」
「りょ、了解しました!」
部下が疑問に思うくらいにはシャーロットは取り乱していたらしい。
まぁ、長年の知り合いがいきなり結婚していたら驚くか。
実際にはいまだに独身なんだけどな。
ともかく、キャスの時に続いてややこしいことをしてくれたルーエには釘を刺しておこう。
「なぁ、おい」
「ん? どうした?」
「お前……わかってるよな?」
余計なことを言うなと、視線をルーエとシャーロットに交互に向けることで暗に伝える。
しばらく首を傾げていたルーエだったが、やがてポンと手を叩いて頷いた。
「そうか、理解したぞ」
「良かった。これで安心だ――」
「シャーロットと言ったな。お前もジオが欲しいのなら戦え! でなければ道は開かれないぞ!」
「何言ってんのお前!?」
真剣に頷くシャーロットを見て、言葉で伝えるんだったと後悔した。
さぞかし厳格な訓練をこなしているであろう戦士達が顔を歪めて笑っている。
ついに俺のジョークが理解されたのかと内心喜びかけたが、よく見ると数人は笑顔に無理がある。
っていうか指示を出していた女性は全然真顔だし。
どんな意図があって彼らは笑うふりをしているのだろう。
ここで笑って同調することによって俺の気分を良くし、ケンフォード王国に行きたいと思わせるためかもしれないな。
だが、この作戦にはひとつ前提が必要だ。
それは、俺が無類のジョーク好きだと知っている人間がいること。
そうでなければ、俺のような田舎者からこんなに洗練されたジョークが飛んでくるなど想像もつかないはず。
考えていると、赤い鎧の女性が右手を挙げる。
笑い声が止み、あたりはしんと静まり返った。
「…………?」
状況の落差に戸惑っていると、金髪の女性が俺の目の前にまで歩いて出てきた。
彼女は言いようのない誇らしげな表情をしている。
「相変わらず素晴らしい切れ味ですね。我ら騎士団全員が笑いの刃に首をかき切られた気持ちです」
いや怖いな。
素直に「笑ってしまった」とかで良いのにかき切られたって。
しかもお姉さんも含めて何人か笑えてませんでしたけどね。
「……っていうか、相変わらずって?」
金髪の女性は粛々と答える。
「ジオ様がわからないのも無理はないでしょう。あなたにとって私など子供の一人に過ぎないのですし、私にも成長した自負があります」
「はぁ……?」
子供の一人?
ってことは、もしかして以前俺が山で拾った子供が成長した姿だということか?
「改めて名乗らせていただきます」
彼女は目の前で片膝をつき、俺の右手をとって手の甲にキスをした。
「私の名はシャーロット。ケンフォード王国騎士団長にしてジオ様に育てていただいたいわば門下生。お会いしたかったです、先生」
「……えええええ!?」
シャーロットという名前を聞いた瞬間、脳内にさまざまな思い出がフラッシュバックしてきた。
俺が拾った中で人一倍真面目だったのがシャーロットだ。
たとえば、彼女は問題児だったランドとは違い、最初から聞き分けが良く、日々学び、剣の扱い方も上手かった。
だから将来は路頭に迷うことはないと思っていたが――。
「まさか騎士団長になるとは。成長したな、シャーロット」
騎士団長が何かはわからないけど、パーティのリーダーみたいなものだろう。
20人も部下を連れてくるくらいだし、きっとそれなりの役職だ。
「……はい。ジオ様にそう言っていただけたのが一番嬉しいです」
眼差しこそまっすぐ俺へ向いていたが、目尻には涙が溜まっていた。
「それで……いかがでしょうか。ケンフォード王国へ来ていただくというのは。やはり気が乗りませんか……?」
「いや、行くよ。山に帰る前に、教え子がどのくらい成長したか見ておきたくなったからね」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
シャーロットはこちらへずいと詰め寄り、俺の両手を握って興奮している。
「ちょうどいいじゃないか。私もマルノーチに飽きてきたところだったからな」
いつの間に目を覚ましたのか、ルーエが俺の背後に立っていた。
彼女はシャーロットを値踏みするように視線を上下に動かす。
「……ほう? この小娘も中々やるようだな。私には及ばないが」
「……なんだ貴様は。ジオ様と一体どういう関係だ?」
「私はジオの伴侶というやつだ。ほれ恐れ慄け」
「そ、そんな……伴侶……だと……? ジオ様、本当ですか!?」
シャーロットが不安そうに詰め寄ってくる。
「い、いや、バリバリ嘘だから」
「そう……ですか。安心しました」
何に安心してるんだ。
「なあ、団長があんなに取り乱すところ初めて見るよな」
「マジでな。あのおっさん、団長の恩人って聞いたけど本当にそれだけかな……?」
「ジョン、ダグラス、口を慎め。お前達は帰ってからみっちりしごいてやるからな」
「りょ、了解しました!」
部下が疑問に思うくらいにはシャーロットは取り乱していたらしい。
まぁ、長年の知り合いがいきなり結婚していたら驚くか。
実際にはいまだに独身なんだけどな。
ともかく、キャスの時に続いてややこしいことをしてくれたルーエには釘を刺しておこう。
「なぁ、おい」
「ん? どうした?」
「お前……わかってるよな?」
余計なことを言うなと、視線をルーエとシャーロットに交互に向けることで暗に伝える。
しばらく首を傾げていたルーエだったが、やがてポンと手を叩いて頷いた。
「そうか、理解したぞ」
「良かった。これで安心だ――」
「シャーロットと言ったな。お前もジオが欲しいのなら戦え! でなければ道は開かれないぞ!」
「何言ってんのお前!?」
真剣に頷くシャーロットを見て、言葉で伝えるんだったと後悔した。
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