【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚

文字の大きさ
上 下
30 / 154
おっさん、観光する

神頼み

しおりを挟む
 小説家への同情ののち、俺たちは「神」を祀っているという施設に足を運ぶことにした。

「……どうしてこの施設は『神』を祀るなどと遠回しな表現をしているんだ?」
「遠回し?」

 鳥居と呼ばれる赤い門のようなものを潜り、二人でのんびりと歩いていると、いきなりルーエが疑問を口にした。

「神といえば、この世界の創造神として伝えられている『フソイ』ではないのか? わざわざ個体名ではなく役職名で呼ぶのに理由が?」
「ルーエって無駄に聡いよね」
「無駄にってなんだ無駄にって!」

 鬼のような形相になった彼女の疑問に対して考えを働かせる。

「聞いた話だと、フソイって神様だけを信仰しているわけじゃないみたいだよ」
「そうなのか?」
「実在していたか創作かはともかく、特定の分野に対する神様だったり、健康とか恋愛とか、そういう神様もいるみたいで、人々はこの施設で各々信仰する神様にお願いするみたいだね」

 人間は神頼みが好きな生き物だ。
 人として生きてきて偉業を成し遂げた存在が、死後に神に押し上げられることすらあるらしい。
 本来ならばこの世界を創ったとされているフソイに祈るべきだが、たとえば創造神に恋愛の助けを求めるのに違和感を感じる人もいるのだろう。
 だから彼らは、文明の発展とともに、反対に神を創造し、そして崇めているのだ。
 
「……前世の私が部下に異常に敬われていたのも、同じような一面があったのかもしれないな」

 彼女は俯き、瞬きの間だけ顔を曇らせたが、すぐにいつもの自信を取り戻す。
 その背中に手を当ててやると、ルーエは優しく微笑んだ。

「……ん。すまないな、気を使わせてしまって」
「いいさ。今となっては、お前の孤独もわからないことはないからな」
「ありがとう。もう大丈夫だよ」

 想像はともかく、先ほど頭によぎったように、神の中には人間から昇ったものもいるらしい。
 飛び抜けて武芸に優れているもの、膨大な知識をもつもの、人々を熱狂させたもの。
 そういった人物は象徴として神に上げられるのだ。
 おそらく、ルーエ……アロンは、魔族にとってそのような異次元の存在だったのだろう。
 神に対して対等に立とうと思うものはまずいないはずだ。
 だからこそ、魔王は孤独を感じ、それが今の俺たちの関係に繋がっている。

「それじゃあ、俺たちも何かお願いしていこうか」
「今の私は一般市民だからな、それもまた良いものだ。ジオは何を願うつもりだ?」
「うーん……」

 顎に手を当てて考える。

「…………平和な余生と目立たないことかな」
「…………枯れ果てすぎじゃないか?」
「い、いいでしょ別に!」

 住処はあるし、服も自分で作れるし、食料問題にも心配はない。
 衣食住さえしっかり確保していれば、あと願うことなんてそうそうないはずだ。
 安定した生活こそ、最も欲すべきものである。

「ルーエは何を願うんだ? 俺に偉そうに言ったからには、よっぽど切実な願いがあるんだろうな」
「そうだな……私は恋愛の神に祈ろうと……思っているよ」
「恋愛?」

 よっぽど俺の顔がとぼけて見えたのか、ルーエは呆れて肩をすくめる。

「あぁ。なんだかロマンチックでいいだろう、こういうの? 実際に私たちの距離が縮まるような出来事があれば神の力、なければ自分の力で勝ち取る誇りを手にできるんだぞ」
「自分の力で勝ち取るとか乙女の言葉とは思えないけどいいね!」

 ルーエが拳を握ってこちらを睨みつけている。怖い怖い。
 境内を歩くこと数分、俺たちは拝殿と呼ばれる場所に辿り着いた。

「この先にある四角い箱にお金を入れて、そのあとにお祈りするみたいだよ」
「金で自分の願いを優先してもらおうという魂胆か? 人間は神を俗的に見過ぎだろう……」

 彼女の言いたいことは分からんでもない。

「まぁまぁ。とにかく行こうよ」
「そうだな。私も恋愛の神には存在を知ってもらいたいし、望むところ――いたっ」

 コツンっという音がした。
 振り返ると、なぜかルーエは拝殿へ上がる階段の前で足を止めている。

「どうした?」
「い、いや、どうしてかここから先に進めないんだ」

 その言葉通り、ルーエが前に進もうとするが、どれだけ勢いよくぶつかっても拝殿から拒まれている。

「……もしかしてさ、これってルーエが魔族だからじゃない?」
「あぁん?」

 ずいぶんとガラの悪い返事がきた。

「あれか、私が魔族だから願いを叶えてやることはないと。それってつまり種族差別だよな?」
「いや、それは――」
「確かに箱が置いてある場所には到達できなさそうだが、それでも周囲のものを全て破壊すれば可能性はあるよなぁ?」
「待って待って待って! ほ、ほら、俺がお金入れてあげるからさ、そこからお願いしよう、ね?」

 本当にマルノーチ一帯を破壊しかねない。
 必死に彼女を宥め、なんとか荒ぶる魂を落ち着けてもらった。
 再び何かしらが琴線に触れぬよう、急いでお参りを済まし、俺たちはこの場所を後にする。
 ……どっちが神様かわからないな。

「全く。少しは見どころのある神かと思ったが、とんだ勘違いだったようだ」
「そんなこと言うなって。それで神様がお願いを聞いてくれたらどうするんだよ」
「感謝する」
「えらく正直な性格で良いと思うよ」

 今日は一日中マルノーチの街を観光していた。
 気付けば夕陽が沈みかけていて、心に安らぎを感じる。
 これがロマンチックというやつだろうか。

「……なぁジオ」
「ん?」
「こ、この後、二人で夕食をとらないか? 噂で聞いたんだが、夜景を見ながら個室でくつろげるという場所が――」

 だが、彼女の言葉はそこで遮られてしまった。
 十数メートル先から走ってくる男が叫んでいたからだ。

「――魔物の大群が攻めてきたぞおおおおおおおッ!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...