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おっさん、戦う

討伐依頼

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 新居に荷物を置いた後、俺たちは街中をぶらつくことにした。
 住む場所が決まったことはあとでギルドに伝えにいけばいいし、それまで特にすることもない。
 そう思って歩いていると、突然、細長い物体がキャスの方へ飛んでくる。
 見たところ危険はなさそうだが、一応キャスが反応する前に掴んでおく。

「――よっと。キャス、誰かに狙われるようなことした?」
「相変わらずすごい反射神経してるね。私を狙ってるのは間違いないけど、求めてるのは命じゃなくて助けだよ」
「助け?」
「あれっすよ、ギルドから急な依頼がある時に、こうやって依頼書を飛ばすんすよ」
「依頼書を飛ばす……?」

 細長いそれを見てよく見ると、紙が丸められているものだった。
 極東の国に伝わる「巻物」のようだ。
 端から丁寧に開いてみると、確かに文字が書かれている。

「えーとなになに……近頃、名有りの個体が周囲をうろついているというのは以前の会議で伝えたと思う。昨夜入った情報によると……あ、これって俺が見てもいいやつ?」
「いいよ全然」

 言ってしまえば俺は部外者だし、会議なんて書いてあるから機密事項の可能性も……と思ったが。
 
「……件の個体は、こちらにいたはずがマルノーチ付近に移動しているらしい。至急討伐されたし。特徴は……結構びっしり書いてあるな」

 近況報告の手紙感覚かと思ったが、思いの外多くの情報が記されている。
 それくらい詳細に伝えなければ危険ということかもしれない。

「あぁ、名有りの個体だよね。たとえば『スケルトンキング』とか『デビルスライム』とか、ただのスケルトンやスライムじゃなくて個体名が定められている場合があるの。どうしてか分かる?」
「……過去に人間に飼われていた?」
「いいネーミングセンスっすよね」

 ペットにはカッコいい名前をつけたいタイプだ。
 
「……そうじゃなくて、要するにとんでもなく強力なんだよ。同じ種だと思えないくらい手強い個体ってこと」

 キャスの話をまとめるとこうだ。
 基本的に、同じ種の魔物は同じような強さ、能力を持っている。
 スケルトンは痛みを感じないから果敢に攻撃してくるとか、スライムは物理攻撃をよせつけないとかだ。
 厄介な能力を持っていても、強い魔物も弱い魔物も、それを狩る冒険者がいることで長く生きることはできない。
 しかし、まれに外敵をことごとく退け、それによって異質な能力を得る個体がいるらしい。
 魔術を駆使するスケルトンや、どんな攻撃をも吸収してくるスライム。
 自分の元の能力が強化されるパターンだけでなく、全く別の力を持つ者もいるらしい。
 適応進化というかなんというか、そうして強さを手に入れた個体は、もはや同じ種とは言えない。
 そういうわけで、個体ごとに名前を付け、高位の冒険者に積極的な討伐を頼んでいるそうだ。

「ってことで、今からその名有り……『ネームドモンスター』を倒しに行くよ」
「…………は?」

 なにが「ってことで」なのか理解できない。
 具体的には「倒しに行く」ではなく「行くよ」なところがだ。
 勘違いでなければ、俺を連れて行こうとしている。

「その魔物って、だいたいどのくらいの強さなんだ?」
「ピンキリだけど、私でも苦戦するようなやつばっかりだね。だからジオがいてくれた方がありがたいかな。ランドくんも手伝ってくれる?」
「いいっすよ。兄貴がいれば心強いですし」
「いやいやいやいや、この世界でトップクラスの魔術師が苦戦するんだよね!? こんなおじさんが行ったら足手纏いだよ!?」

 人避けの魔術を見破ったという点から、ランドも成長を続けていて、かなりの強さだというのは読み取れる。
 だから彼がネームドモンスターの討伐に同行するのは頷けるが、俺が参加するのは間違っているだろう。
 守る対象が増えると戦いにくくなるというものだ。

「……むしろジオがいる方が安全だよ? まぁ、大丈夫だからとりあえず行こうよ」
「そうっすよ! 久しぶりに兄貴の力、見せてくださいよ!」
「待って! 二人とも力強くない!?」

 今をときめく若者二人に引きずられて、俺は恐ろしい魔物の討伐に行くことになってしまった。
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