15 / 154
おっさん、街へ行く
金髪モヒカン舎弟
しおりを挟む
「これ、どのくらいで店に入れるんだ?」
「1時間……2時間はかかるかも。別の場所にしよっか」
「そう、だなぁ……せっかく連れて来てくれたのに悪いね」
ここで2時間待つくらいなら、まだ他のところを見てみたいという気持ちがあった。
長蛇の列を見ながら足を進める。
「いやぁ、やっぱり並ぶのは女の子ばっかりだね」
「まぁね。私も甘いものとか可愛いものに惹かれちゃうし」
「これじゃあ俺が入っても浮いちゃってたし、かえって満席で良かったかも?」
「そう? 最近では一人の男性客も多いみたいだし。ほら、あの人も――」
キャスが指差す方に視線を向ける。
列の先頭にいるのは15~6の女の子二人組。
店に入るのを今か今かと待ち遠しそうに待っている姿が可愛らしい。
その後ろには、メガネをかけた真面目そうな女性。
さらに次に並んでいるのは――。
「……あん?」
金髪でモヒカンスタイルという威圧的なお兄さんだった。
いくら見た目を隠蔽しているとしても視線を隠すことはできないようで、「こっち見んじゃねぇ」とでも言いたげな反応をもらってしまい目を逸らす。
「あんまりじっくり見ない方がいいよ。何かあれば私が守ってあげるけど、トラブルはないに越したことはないから」
「そうだな。行こう」
金髪の男はまじまじと俺を見てきたが、気にしないように歩く。
「――おい! 待てよあんた!」
背後からドスの効いた声が聞こえて来た。
おそらく……というより、間違いなく俺を呼び止めているのだろう。
「……はぁ、いくら隠蔽してるからって相手が悪かったね。ジオ、私が片付けるからジオは――」
「おい、待てって!」
男は凄まじい速さでこちらへ向かっていたようで、俺が振り向いた時にはすでに目の前に立っていた。
「――なっ、速い!?」
予想外の事態に驚く俺とキャス。
「……やっぱりだ」
男は俺の顔をもう一度見て、ニヤリと口の端を吊り上げて笑うと、その手で――
「お久しぶりです! ジオの兄貴ィィィィィ!」
俺の手をぎゅっと握り、頭を地面に勢いよく打ち付け……もとい、礼をした。
・
「お待たせしましたー。こちら雲のパンケーキが三つになります」
「姉ちゃんありがとな! ほら、兄貴とキャスさんもどうぞ!」
ガラの悪い男が満面の笑みで俺たちにパンケーキの皿を渡してくれる。
「えーっと、あなたは一体……?」
満面の笑みに質問を投げかける。
男が頭を下げてすぐ、彼が店内に案内される順番が来てしまった。
そして俺たちは、彼に促されるままに店内に入り、こうして3人で席についている。
「俺っすか? 俺は昔、ジオの兄貴に拾っていただいたんすよ」
「え? 俺が君を?」
「そうっすよ! 確かに見た目は変わったかもしれないすけど、見てくださいこの傷を!」
彼の左眉を切り裂くような一本の傷。
目の前の男に見覚えはないが、この傷には見覚えがある。
「……もしかしてランド?」
「その通り! まじでお久しぶりです!」
ランドは山に捨てられていた子供のうちの一人だ。
どうやら素行に問題があったらしく、他人を信用していないのか、共に暮らすようになってからもしばらくは心を開いてくれなかった。
だが、ようやく少しずつでも話をしてくれるようになると、彼は素行が悪いというよりも、キチンと導いてくれる大人がいなかっただけだと気付いたのだ。
そうして二、三年を共に過ごして一人前になった彼を外の世界へと送り出して、今。
「――簡単に言うと家建ててんすよ、俺。そんで、将来は兄貴にどデカい家を建ててさしあげたいと思って」
「確かにあの家、ボロいからね……」
キャスが呆れたように共感する。
「え、そんなに過ごしにくかった?」
「ううん。そうじゃないけど、ジオはいつも私たちにベッドを譲って自分は床で寝てたし、申し訳なくて……」
「そうなんすよね。マッサージならいつでもしますけど、それじゃあ解決しませんしね」
彼らが健康に過ごせるようにと思っての行動だったが、かえって気を使わせてしまっていたのか。
「っていうか、彼はいつ頃ジオにお世話になっていたの? 私は会ったことないけど……っていうか思い出して貰えなかったし……」
「ランドはキャス達が出て行ってからしばらく後だね。正確に何年後かはわからないけど」
それなりに多くの子供達を育ててきたし、歳のせいか、いつ頃の関わりか怪しい部分がある。
山の内部の時間の進みを遅くしていたこともあるため、実際の年齢には少し差異が生まれているはずだ。
「てことは、キャスさんは俺の先輩ってことっすね! こんなすげぇ魔術師様も育ててたとか流石兄貴っす!」
「いや、それはキャスが自分で努力したからだよ。ランドもちゃんと職について、本当に成長したんだね」
「あ、兄貴……。すいません、ちょっと泣いてきます」
彼は席を立って店の外へと歩いて行った。
「……言葉遣いは荒っぽいけど、まっすぐな子なのね、彼。なんか、外からめちゃくちゃ大きな泣き声が聞こえるし……」
「あぁ、そうなんだよ……ぐすっ」
「ジオも泣いてるの!?」
彼の熱さに当てられてしまったようで、気づけば俺も涙していた。
「1時間……2時間はかかるかも。別の場所にしよっか」
「そう、だなぁ……せっかく連れて来てくれたのに悪いね」
ここで2時間待つくらいなら、まだ他のところを見てみたいという気持ちがあった。
長蛇の列を見ながら足を進める。
「いやぁ、やっぱり並ぶのは女の子ばっかりだね」
「まぁね。私も甘いものとか可愛いものに惹かれちゃうし」
「これじゃあ俺が入っても浮いちゃってたし、かえって満席で良かったかも?」
「そう? 最近では一人の男性客も多いみたいだし。ほら、あの人も――」
キャスが指差す方に視線を向ける。
列の先頭にいるのは15~6の女の子二人組。
店に入るのを今か今かと待ち遠しそうに待っている姿が可愛らしい。
その後ろには、メガネをかけた真面目そうな女性。
さらに次に並んでいるのは――。
「……あん?」
金髪でモヒカンスタイルという威圧的なお兄さんだった。
いくら見た目を隠蔽しているとしても視線を隠すことはできないようで、「こっち見んじゃねぇ」とでも言いたげな反応をもらってしまい目を逸らす。
「あんまりじっくり見ない方がいいよ。何かあれば私が守ってあげるけど、トラブルはないに越したことはないから」
「そうだな。行こう」
金髪の男はまじまじと俺を見てきたが、気にしないように歩く。
「――おい! 待てよあんた!」
背後からドスの効いた声が聞こえて来た。
おそらく……というより、間違いなく俺を呼び止めているのだろう。
「……はぁ、いくら隠蔽してるからって相手が悪かったね。ジオ、私が片付けるからジオは――」
「おい、待てって!」
男は凄まじい速さでこちらへ向かっていたようで、俺が振り向いた時にはすでに目の前に立っていた。
「――なっ、速い!?」
予想外の事態に驚く俺とキャス。
「……やっぱりだ」
男は俺の顔をもう一度見て、ニヤリと口の端を吊り上げて笑うと、その手で――
「お久しぶりです! ジオの兄貴ィィィィィ!」
俺の手をぎゅっと握り、頭を地面に勢いよく打ち付け……もとい、礼をした。
・
「お待たせしましたー。こちら雲のパンケーキが三つになります」
「姉ちゃんありがとな! ほら、兄貴とキャスさんもどうぞ!」
ガラの悪い男が満面の笑みで俺たちにパンケーキの皿を渡してくれる。
「えーっと、あなたは一体……?」
満面の笑みに質問を投げかける。
男が頭を下げてすぐ、彼が店内に案内される順番が来てしまった。
そして俺たちは、彼に促されるままに店内に入り、こうして3人で席についている。
「俺っすか? 俺は昔、ジオの兄貴に拾っていただいたんすよ」
「え? 俺が君を?」
「そうっすよ! 確かに見た目は変わったかもしれないすけど、見てくださいこの傷を!」
彼の左眉を切り裂くような一本の傷。
目の前の男に見覚えはないが、この傷には見覚えがある。
「……もしかしてランド?」
「その通り! まじでお久しぶりです!」
ランドは山に捨てられていた子供のうちの一人だ。
どうやら素行に問題があったらしく、他人を信用していないのか、共に暮らすようになってからもしばらくは心を開いてくれなかった。
だが、ようやく少しずつでも話をしてくれるようになると、彼は素行が悪いというよりも、キチンと導いてくれる大人がいなかっただけだと気付いたのだ。
そうして二、三年を共に過ごして一人前になった彼を外の世界へと送り出して、今。
「――簡単に言うと家建ててんすよ、俺。そんで、将来は兄貴にどデカい家を建ててさしあげたいと思って」
「確かにあの家、ボロいからね……」
キャスが呆れたように共感する。
「え、そんなに過ごしにくかった?」
「ううん。そうじゃないけど、ジオはいつも私たちにベッドを譲って自分は床で寝てたし、申し訳なくて……」
「そうなんすよね。マッサージならいつでもしますけど、それじゃあ解決しませんしね」
彼らが健康に過ごせるようにと思っての行動だったが、かえって気を使わせてしまっていたのか。
「っていうか、彼はいつ頃ジオにお世話になっていたの? 私は会ったことないけど……っていうか思い出して貰えなかったし……」
「ランドはキャス達が出て行ってからしばらく後だね。正確に何年後かはわからないけど」
それなりに多くの子供達を育ててきたし、歳のせいか、いつ頃の関わりか怪しい部分がある。
山の内部の時間の進みを遅くしていたこともあるため、実際の年齢には少し差異が生まれているはずだ。
「てことは、キャスさんは俺の先輩ってことっすね! こんなすげぇ魔術師様も育ててたとか流石兄貴っす!」
「いや、それはキャスが自分で努力したからだよ。ランドもちゃんと職について、本当に成長したんだね」
「あ、兄貴……。すいません、ちょっと泣いてきます」
彼は席を立って店の外へと歩いて行った。
「……言葉遣いは荒っぽいけど、まっすぐな子なのね、彼。なんか、外からめちゃくちゃ大きな泣き声が聞こえるし……」
「あぁ、そうなんだよ……ぐすっ」
「ジオも泣いてるの!?」
彼の熱さに当てられてしまったようで、気づけば俺も涙していた。
62
お気に入りに追加
966
あなたにおすすめの小説

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる