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最終話 君がくれた世界
that person
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――2時間前――
「あなた起きて」
耳元でささやく妻の声で目を覚ます。李依を起こさないようにという配慮からだろう。昨日は李依と口論になり、それから一向に眠りにつけず、意識を失ったのがつい先程のことのように思えた。私は、無理やり上体を起こし、ベッドから勢いよく飛び降りた。それと同時に、心臓に微弱な電流が流れるような違和感を覚える。足がもつれてふらついたところを妻から差し伸べられた右腕に助けられ、辛うじて転倒を免れた。
「大丈夫? もう若くないんだから。気をつけてよね!」
その時だった。界人は全てを思い出した。
「あいつ、マジで成し遂げやがったな!! すみれ、君は本当に最高で優秀なアシスタントだったよ!!」
「えっ? 何? すみれちゃん? すみれちゃんがどうかしたの?」
「いや、ごめん、何でもない。それより、みゆき。5人で水族館行くぞ」
「やっぱっり私たちって夫婦ね。私も今それ言おうと思ってたのよ。え――と、遥の息子のあの――、なんだっけ?」
「信人君だろ」
「そうそう、その信人君と遥も誘って、休暇が取れたら5人で行きましょう」
「そうじゃなくて、今から行くんだよ」
「はい? ロンドン出張はどうするの?」
「もう、いいんだ。娘の願いを叶えてやるのが親の役目ってもんだろ?」
仕事一筋だった夫の口から飛び出した、らしくない一言にフリーズするみゆき。
「あなた、どうしちゃったの?」
「ダメか?」
「ちょっと、びっくりしちゃっただけ。そうね。それじゃ、すみれちゃんも誘ってみましょう」
「そうだな。李依が起きたら電話させてみたらいいんじゃないか?」
枕元に転がっていたスマートフォンを拾い寝室を出る界人。
「あなた、どうしたの?」
「会社に連絡入れないと」
「そうね。やっぱり、社長は大変ね」
「社長?」
「あなた、寝ぼけてるの? 1ヶ月前に就任したばかりじゃないの」
「誰が?」
「誰がって、あなたに決まってるじゃない!!」
「えっ、え――――――――――!! 『あの方』って私だったのかよ!!」
「あなた起きて」
耳元でささやく妻の声で目を覚ます。李依を起こさないようにという配慮からだろう。昨日は李依と口論になり、それから一向に眠りにつけず、意識を失ったのがつい先程のことのように思えた。私は、無理やり上体を起こし、ベッドから勢いよく飛び降りた。それと同時に、心臓に微弱な電流が流れるような違和感を覚える。足がもつれてふらついたところを妻から差し伸べられた右腕に助けられ、辛うじて転倒を免れた。
「大丈夫? もう若くないんだから。気をつけてよね!」
その時だった。界人は全てを思い出した。
「あいつ、マジで成し遂げやがったな!! すみれ、君は本当に最高で優秀なアシスタントだったよ!!」
「えっ? 何? すみれちゃん? すみれちゃんがどうかしたの?」
「いや、ごめん、何でもない。それより、みゆき。5人で水族館行くぞ」
「やっぱっり私たちって夫婦ね。私も今それ言おうと思ってたのよ。え――と、遥の息子のあの――、なんだっけ?」
「信人君だろ」
「そうそう、その信人君と遥も誘って、休暇が取れたら5人で行きましょう」
「そうじゃなくて、今から行くんだよ」
「はい? ロンドン出張はどうするの?」
「もう、いいんだ。娘の願いを叶えてやるのが親の役目ってもんだろ?」
仕事一筋だった夫の口から飛び出した、らしくない一言にフリーズするみゆき。
「あなた、どうしちゃったの?」
「ダメか?」
「ちょっと、びっくりしちゃっただけ。そうね。それじゃ、すみれちゃんも誘ってみましょう」
「そうだな。李依が起きたら電話させてみたらいいんじゃないか?」
枕元に転がっていたスマートフォンを拾い寝室を出る界人。
「あなた、どうしたの?」
「会社に連絡入れないと」
「そうね。やっぱり、社長は大変ね」
「社長?」
「あなた、寝ぼけてるの? 1ヶ月前に就任したばかりじゃないの」
「誰が?」
「誰がって、あなたに決まってるじゃない!!」
「えっ、え――――――――――!! 『あの方』って私だったのかよ!!」
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