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13話 仮想世界の並行世界へ

懺悔

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「お前ら! どういうつもりだ!!」

 拳銃を向けられたのは並行世界の界人の方だった。

「お父さんごめんなさい。私も実は何度も繰り返しているんです。その度に交換を使ってますから、お父さんの味方のアンドロイドはもうどこにもいないかと……」

 すみれの告白に表情を緩める並行世界の界人。

「私が見たあの未来の記憶……そうか、拳銃を向けられていたのは私の方だったのか。私はてっきり君に先に身体を奪われて、取り返そうとしているシーンかと勝手に勘違いしていたよ。今回も前回までと同じく私の完敗ってことなんだな。そもそも私が今ここでこの身体を手に入れてしまっては、あの時の私の心臓にはインプラントは存在しないことになるもんな。私から見た過去の君がここで手に入れて初めて、私の意識のグラントが可能になったってことか」

 潔く両手を上げる並行世界の界人。

「せっかく修復させた身体だ。傷付けることはない。さあ、すみれ、やってくれ」
「意識の方はどうしますか?」

 並行世界の界人に尋ねるすみれ。

「私と遥が一緒に暮らした世界の道端に転がる石ころにでもグラントさせてくれればそれでいい。それで、あいつの記憶は蘇る」
「そんなぁ……どうして……」

 表情を曇らせる李依。

「だって、そうだろ? 結果的に、信人と私があの世界からグラントした時点で、遥の記憶からは、私と一緒に過ごした日々も、信人が生まれてきたことも、全てが無かったことになってしまったはず。そんなの、あんまりじゃないか」
「それが、お前を殺め、我が子から意識を奪ったという悍ましい記憶でもか?」

 界人が並行世界の界人に問い詰める。

「それ程、あの世界で私達は愛し合っていたってことさ。その記憶があれば、あいつは一人でも生きていける」
「他に方法はないの?」

 今にも泣きだしそうな李依。

「ない! だって身体は一つしかないんだからな」
「でも……」

「李依、私たち親子の関係は修復できない程に完全に壊れてしまったが、君たち親子は違う。本当に羨ましいよ」
「そんなことない! 本心からであってもなくても、私の口から出た言葉の罪は一生消えたりしないもの!」

 はっきりと力強くそう言い切る李依。

「そのことなんだが……そっちの私もそろそろ気付いてるじゃないか?」

 並行世界の界人の問いかけに、重い口を開く界人。

「李依……ごめん……本心からだとか、本心からじゃないだとか以前に、そもそも、お前はそんな言葉を口になどしてはいなかったんだよ、たぶん」
「えっ!? どういこと!?」
「李依が小学校4年生のときに私が命を落とすことはこの世界に定められた決して抗うことのできない運命だった。たとえ、それはお前が何度願ったとしても……」

――お父さん死んじゃいやだよ……死なないで……

「李依が本当に願っていたのはこれだったはずなんだよ。しかし、私が死ぬことは運命なのだから、何度願っても当然それは叶わない。叶わないから繰り返しが終わらない。そんなお前を見るに見兼ねて私が無意識に思い違ったのさ」

――お父さんなんて死んじゃえばいいのに……

「そう願ったのだと思い違うことで、無限のループから李依を救い出したかった。でもその言葉が逆にお前をこんなにも苦しめてしまうことになるとは……本当にすまなかった」

「嘘!? ほんとに!? ほんとなの!? 私、本当に言ってなかったの!?」
「ごめん……そうなんだ……」

「嘘? 嘘でしょ? ほんと? ほんとに? ひぃ――――やった――――――!! よかった――――!! よかったよ――――!! お父さん大好き――――!!」

 父親の元にかけより、抱きつこうとする李依。

「ちょっと待って!! まだ身体は僕だから」

 意地悪なタイミングで、一瞬、意識を表に出す信人に、李依はすんでのところで踏み止まった。

「それから、すみれ、お前にも謝らないとな。この世界からお前が姿を消していたのも、たぶん、私の思い違いによる過去改変が原因だろう。毎朝走り込みまでして頑張っていた李依のことを私はどうしてもリレーの選手にしてあげたかった。だから、すみれが世界に存在していなければと都合よく思い違ったんだろうな」

「違います。それは別のお父さんです。私と実験を繰り返していた方のお父さんの仕業ですよ」

 すみれが珍しく会話に割って入った。

「そ、そうなのか!?」
「私、見ていたんです。実験の合間にシミュレーションの仮想世界の時間を遡り過去を覗いていたお父さんが、神坂すみれの存在を小学校2年から高校2年の夏までの間、デリートするところを。これで、李依がリレーの選手になれるってニヤニヤしてましたよ。あの時はまだ仮想世界も並行世界の一つだったなんて知りませんでしたから、ちょっとしたいたずらのつもりだったんだと思いますが……」

「いずれにしても、私のせいだったってことか」
「あっちの私もそっちの私も色々と仕出かしてたみたいだな。一通り懺悔も終わったみたいだし、今度は私の番だ。すみれ、私の気が変わらないうちに早く、さあ、やってくれ」

 並行世界の界人は何かに納得したような顔ですみれを促す。

「待ってくれ! 結局、お前は何がしたかったんだ?」

 何かが腑に落ちない界人。

「自分でもよく分からないが、世界を終わらせたかったのかもしれないな」
「お前、最初から身体は私に譲るつもりだったんじゃ?」
「さあな、終わらせるのは自分一人で十分だったってことさ」

 そして、すみれは並行世界の界人の意識を元の世界へとグラントさせ、信人の身体から界人の意識があるべきところ、界人の身体へと転移させた。それと時を同じくして李依は無意識に願っていた。
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