【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１２話 並行世界の仮想世界から

来世でも

「界人？　何かわいこぶってんのよ？」

　男の子のことを界人と呼ぶ遥。

「そうか？　年齢的にはこんな感じじゃないのか？」

　男の子から遥に向けられた視線も親子のそれではなかった。

「お父さん、まさか？」
「あんな辛い役回り、実の息子にさせられる訳ないだろう」
「だからって……こんなやり方って？」

「仕方ないだろ？　向こうの世界の私にも言われなかったか？　為すべきことは最初からもう決まってるって」
「そうよ、これから成し遂げられるから、すみれちゃんも私達もこうして存在してるんじゃない」

「そんな、それじゃ、私達は世界のシステムですか？　まるで機械みたいじゃないですか？」
「アンドロイドのあなたがよく言うわね。それとも冗談のつもりなのかしら？」
「遥、もうそれくらいにしとけ」

　遥から自分のスマホを受け取り何やら操作する界人。

「すみれ、始めるぞ！」
「はい、お父さん」

　すみれの声のトーンが実験アシスタントモードに切り替わる。

「メールを２通送信した。１通目は今すぐ、２通目は向こうの世界に着いてから、被験者設定画面に追記してくれ！」

　１通目のメールを開封するすみれ。

　　　神坂すみれ：服装を思いのままにチェンジできる。

「お父さん、これは？」
「これから世界を渡り歩くのにメイド服だけじゃ目立ちすぎるだろ」
「なるほど」

　すみれは１通目の全文をクリップボードにコピーして被験者設定画面に貼り付けた。

「それじゃ、遥、またな」
「今度はみゆきにも祝福されて結婚しましょ」
「そんな並行世界は存在しないと思うぞ」
「あら？　そうかしら？　それじゃ来世で……」
「ごめん、遥。来世でもみゆきの予約が入ってるんだ」
「何それ！　私は来世でも界人に振られちゃうのね！」

　それでも、遥は幸せそうに界人に微笑みかけた。

「よし、すみれ、やってくれ！」

　世界から姿を消す、すみれと界人。
　遥の記憶からも消滅する……。
　界人との間に生まれた息子の存在も……。