【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界

１２話 並行世界の仮想世界から

覚悟

――界人が飛行機に乗らず交通事故にも遭わなかった並行世界――


「界人の言ってた通りだわ。ほんとにメイド服なのね」
「遥さん、お久しぶりです。あの日の車内以来ですね」
「車内？」

　その瞬間、遥にすみれの記憶が蘇る。

「ロンドン本社のすみれちゃん！？　羽田空港から界人が運転する車の助手席に座る私、後部座席に座るすみれちゃん？　あれ？　あの後どこですみれちゃんと別れたんだっけ？」
「細かいことは気にしないで下さい」
「そうね。考えても私には理解できそうにないわね。界人のスマホに界人の番号から本当に着信があったときには目を疑ったわ」

　遥は自分の手元にある界人のスマホと、すみれの手に握られたスマホを見比べる。それは全く同じものだった。同じ機種で同じカラーという意味ではない。黒い本体の側面の傷、画面のひび割れ、それら全ての位置が同じ個所に存在していたのである。この場合の表現として使うにしては全く同じものという言葉は相応しくなく、界人のスマホと同一のスマホなのだということだけは遥にも理解できた。

「それにしても、すみれちゃん、変わらないわね」
「遥さんも……」

　言い淀むすみれ。

「何よ！　今の間！？」
「遥さんも、全然変わってないかと……」
「すみれちゃん、それは、さすがに、皮肉よ。正直にどうぞ」

　真面目な顔で、すみれに詰め寄る遥。

「ごめんなさい。白髪もシワも増えたかと……」

　無表情で淡々とそう言ってのけるすみれ。

「正直過ぎ――――！！　やっぱり、すみれちゃん、面白いわね」

　大爆笑する遥。

「それより、お父さんの姿が見えないようですが」
「お父さんならもういないよ、僕がお母さんのお腹の中にいるときに……」

　遥の後から恥ずかしそうに顔を出す男の子。

「すみれさん、待っていました。覚悟はできています。すぐに始めましょう」
「そんなに、急がなくても、グラントのポイントは逃げないかと……」